ワケラレ~腹違いの双子~

一部、読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂いた部分がございます。(熊猫)
一部、読みやすさを考慮し、文字の色を明るい水色から黒色へと変更させて頂きました。(熊猫)
一部、明らかなミスタイプがございますが、そのままにしてあります。(熊猫)

投稿日 : 2010/11/27 11:37 投稿者 : 致良

※ミセラレを前作にしていますが、そのままの続編ではない。
断面図ビデオを撮影する別プロジェクト、と思ってください。
時間軸設定:
この『ワケラレ』の開始時点では、ミセラレの晴香が妊娠7ヶ月です。
同じ世界なので、登場させても大丈夫ですが、前作で書かれた『歴史』
と背反しないように(晴香を早産させるなど)気を付けてください。
注意:
唐突ですが、序篇でいきなり別小説のキャラの名前を借りています。
同一人物かどうかは、リレーしてくれる人に追加設定お任せします。

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「ふむ・・・これはなかなか良い発想ではあるな」
「はい、この企画なら、昌道の奴に負けるはずが無いであろう」
昌道を邪魔するためコントロールパネルを操作しようと失敗して終わった
同僚の人(前作の12~13を参照)が、新しい企画書を上司に出した。

『一卵性の双子を一卵性双子の子宮に分けて、妊娠と出産の過程を記録する』

報酬もあって、医学上の貢献で後世に名を残るかもしれないので、
このプロジェクトの元に、代理母を応募しに来る双子の姉妹がいた。
母体となる一卵性双子の名前は『みき』と『さき』、共に健康良好だ。
「それでは始めますよ」
「はい、足立さん」
「やさしくしてね」
契約書にサインさせたあと、今回の企画主任である『足立研一』は、
『一卵性双子』の受精卵を、分けてみきとさきの子宮に着床させる。

完全に同じ遺伝子を持つ二人の母親の『別々』の腹に、
完全に同じ遺伝子を持つ二人の胎児が『分けられた』。

これから二人の胎児は出産までどんな変化が起こるのか、
子宮内カメラに捉えた映像が教えてくれるのだろう・・・
                               つづく
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※ミセラレとの違いは、みきもさきも『医学の実験に加担してる』ので、
子宮内カメラの事は知っているし、会社に来てモニターを見る事もする。
守秘義務が課せられたので、出産までは口外に出来ないし、しない。

※もちろん、撮影したビデオは一部のマニアへ売るものための物である。
みきとさきはそれを知らないし、本気に『医学のため』だと思っている。



投稿日 : 2010 11/28 00:17 投稿者 : 無明

着床したと言っても、ある程度成長するまでは何もわからない。
まずはそのことを二人に告げ、健一は計画を練ることにした。
すべては、あの若造を出し抜くためだ。
あんなぽっと出の青二才に、ベテランの俺が負けてたまるか。
黒い情念が、渦巻いていた。



投稿日 : 2010 11/28 03:27 投稿者 : ゆうり

「ただいまぁ~~。あれ?ゆき姉ちゃん帰ってたの?」
「連絡してくだされば迎えにいきましたのに。」
「ううん。散歩がてらよっただけだし。今日は報告がてら来ただけだから。」



投稿日 : 2010 11/28 12:39 投稿者 : 致良

(ゆき姉ちゃんが出てきたので、勝手ながらラッキープレグ同じ世界としてリレーします)

「報告?」
「うん、実はね・・・」
生まれて早三年になった二卵性双子の男の子と女の子を連れて、
今やもはや嫁ぎ先の諸澤家の実権を握っているゆき姉ちゃんは、
着床手術から帰った一卵性双子姉妹のみきとさきに、真剣な顔で『報告』とやらを口にした。
「えぇー!?」
「そんな、ゆき姉ちゃん引っ越しちゃうの?」
「旦那の転勤でね。そんな顔しないで、遠いだけと外国ではないから」
あき姉ちゃんに続いて、今度はゆき姉ちゃんが遠く離れていく。
「大丈夫、長めの休みが取れれば絶対帰ってくるから、ね?」
「うん・・・」
「元気でね、ゆき姉ちゃん・・・」
口にすることができないけど、二人は着床手術を受けたばかりで、
いわばこれから道を歩もうとしているひょっ子新米妊婦である。
二人とも大学に進学するつもりも学力も無いので、ゆき姉ちゃんも居て
高校卒業も目前だから、この報酬の美味いアルバイトを受けたんだ。
しかし、頼みの綱でもあるゆき姉ちゃんが居なくなった・・・

青ざめる二人は、これからどうなるかを想像することも出来なかった。



投稿日 : 2010 11/28 12:56 投稿者 : ゆうり

「あと僕また子供ができたみたい。予定日はこの日よ。(また小鬼がいってたし。)」
ゆき姉がさした日は2人の予定日の一週間前だった。



投稿日 : 2010 11/28 13:28 投稿者 : 致良

里帰り出産が予定されていたのを知って、少しほっとする二人。
一週間だけならば、ある程度前後に伸ばせても産休でいけるし、
二人の出産は『ゆき姉ちゃんが傍にいる』状態でいけそうだ。

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ゆきが引っ越してから三ヶ月、やはり二人の子宮に分けられた胎児も元々
一卵性の双子だったせいか、みきとさきは同時に酷いツワリに見舞われた。

足立さんに報告したら、「このシンクロは記録すべき」のメールが来て、
ふたりは三ヶ月ぶりに足立さんの所へ、早めの妊婦検診を受けに行った。



投稿日 : 2010 11/28 16:02 投稿者 : 無明

「薬とかは処方できないが、だいぶ辛いようだね。」
スーパーのビニール袋片手にみきが無言で頷く。
さきなんか顔が真っ青だ。
メモをとりつつ研一は胎内撮影の準備を整えた。



投稿日 : 2010 11/28 18:12 投稿者 : 致良

「さてと、これがお二人の胎内の様子です」
パッと、二つのモニターにそれぞれ三ヶ月の胎芽が映し出される。
呼吸するようにうごめく子宮壁を背景に、胎芽の心臓が脈打つ。
「お二人のつわりは、恐らくこの胎芽が完全なる異物であることでしょう」
自分の卵子での受精卵なら、普通自分の遺伝子を半分受け継ぐはず。
しかし二人は実験のために着床させた代理母がため、
二人の子宮にとって、この胎芽は全くの別物である。
そのためホルモンバランスに影響が出て、酷いつわりとして表したのだ。
「胎盤が完成すれば治るので、それまでの辛抱です」
実験用モルモットを見ているような目で、足立さんが二人に言った。



投稿日 : 2010 11/28 21:41 投稿者 : ゆうり

診察も終わり、家に帰ると珍しくリキが部活から帰ってきていた。
「あれ?リキ、早いのね。」
「珍しいですわね。」
「もう3年生だしたまには早く帰ってきたんだ。」
相変わらずあきとさきに勝てなく、弱いりき。



投稿日 : 2010 11/28 22:55 投稿者 : 致良

姉妹二人は酷いつわりの中に学校を通い、時を過ごしていく。
そして遂に、受胎してから20週の刻を迎えようとしていた。
「あーあ、やっぱりお腹が膨らみ始めてしまいましたわね・・・」
「赤ちゃんたちも元は双子だから、これからが気になりますね」
風呂場の中、みきとさきはお互いの背中を流しながら、
「そろそろ胎動を感じてもおかしくないと本が書いているけど・・・」
「つわりもそうだったし、今回もこの子たちシンクロしてくるかも?」
お互いの妊婦腹を触ったり撫でたり、見比べしていた。



投稿日 : 2010 11/28 23:16 投稿者 : ゆうり

「お腹の大きさも同じくらいね。」
「そうですわね。」
二人は嬉しそうに言った。
「そういえば今度の日曜日にあきお姉ちゃんが里帰りに実と豊、連れて帰るって。」
「楽しみですわ。」
あき姉ちゃんは一年前にみのりの弟の豊を出産している。
今回、三人目の出産に帰ってくるのだ。



投稿日 : 2010 11/29 07:48 投稿者 : 致良

「ばれちゃう、かな・・・さすがにこんなお腹じゃ」
「あき姉ちゃんには『太っただけ』で通り辛いもんね」
弟で男で単純なりきと違って、三回も妊婦経験がのあるあき姉ちゃん。
秘密を守るため、腹が膨らみ始めた二人は風呂場で作戦を練っていた。

そして、日曜日――



投稿日 : 2010 11/29 08:07 投稿者 : ゆうり

ガチャ
「ただいまぁ~。」
「たらいまぁ~。」
「まぁ~。」
あき姉ちゃん親子がきたみたいだ。
「おかえり。いらつしゃい、みのり、ゆたか。」



投稿日 : 2010 11/29 11:18 投稿者 : 致良

※このスレッドのメインテーマはあくまでも
『分けられた双子の胎児をそれぞれ単胎妊娠した双子の姉妹』の話
なので、出来ればあき姉ちゃんの出産関連描写は軽くしてください。

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(・・・ばれていない、みたいな? さきは?)
(さらしがキツイ・・・でも、誤魔化したみたい)
臨月腹で貫禄のあるあき姉ちゃんをソファーに休ませ、
偽装工作をしたみきとさきはひそひそと耳打ちをした。

まあ工作といっても、単にお腹にさらしを巻くだけなんだが・・・
さすがのあき姉ちゃんも、まさか双子の妹が揃って妊娠しているとは
想像もしなかったらしく、二人の隠したい秘密に気付いてなかった。

しかし、さらし大作戦の成功に喜んでいる双子の二人に反して、
分けられてそれぞれのお腹にいる、同じ遺伝子を持つ胎児たちは――



投稿日 : 2010 11/29 13:50 投稿者 : マツリ

ポコッ
「「っ!」」
2人いっぺんに双子のお腹をけった。
お腹の子供たちは狭くなり、暴れているのだ。



投稿日 : 2010 11/29 19:45 投稿者 : 致良

幸いあきは電話の最中だったらしいので、
唐突に『不審そうにお腹を抱える』という
みきとさきの変な行動を見ていなかった。

(痛かったっ…これって、まさか)
(今、赤ちゃんに蹴られたよね?)
お腹を抱えて耳打ちする二人は、急いでトイレの中に隠れた。
(ちょっとみき、胎動ってこんなに痛いだなんて聞いてないよ!)
(知らないわよ! と、とにかく足立さんに胎動来たと連絡を!)



投稿日 : 2010 11/29 22:03 投稿者 : ゆうり

足立はあきとさきからの電話にすぐに出た。
「どうかされましたか?」
「今さっきはじめての胎動が来たんですけど激しすぎるんですけど。」
さきが文句言った。



投稿日 : 2010 11/29 23:30 投稿者 : 致良

(※ゆうりさん、「あきとさき」ではなく、「みきとさき」ですよ)

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「そんなはずありません。そっちが先に規約違反したんじゃないか?例えば子宮に圧力を加えたとか」
「うっ」
図星。実際さらしを巻いてるし、さきは言い返せる言葉がなかった。

この痛い胎動は足立がモニターで子宮が圧迫されていることを知って、
人為的に起こした『規約を守らない悪い子へのおしおき』であった。

もちろん、みきとさきはこの真実を知る術もない。
二人とも本気で胎動だと思っていたのだ。



投稿日 : 2010 11/29 23:37 投稿者 : ゆうり

間違えました。

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みきとさきは足立の言葉を信じ、さらしをとった。
「これで隠しとおせるかな?」
「微妙ってところですわ。」



投稿日 : 2010 11/30 13:30 投稿者 : 無明

あきは特に気にしていないようで、二人はホッと胸を撫で下ろした。
いろいろ話すうちに、やはりあきの子供の話になる。
「あき姉の赤ちゃん、今度はどっちだっけ?」
みきは気になるらしい。



投稿日 : 2010 11/30 15:02 投稿者 : ゆうり

「今度はまだ聞いてないよ。どっちだろうね。」
あき姉ちゃんはゆき姉ちゃんよりも楽天家である。
「今度は女の子がいいわ。」
「そうそう。」
みきとさきは期待したように言った。



投稿日 : 2010 12/01 15:00 投稿者 : 致良

「あ、産まれそう」
実家に帰ってから3日目、水曜日の夕方5時ごろに、
テレビ前のあき姉ちゃんがさり気なく一言を発した。
『三度目だから出産に慣れていた』っとはいえ、
あき姉ちゃんはありえないほど落ち着いていた。

一方、その時のみきとさきは胎内ビデオを撮るため、
足立さんのオフィスで、撮影用の服に着替えていた――



投稿日 : 2010 12/01 16:00 投稿者 : ゆうり

「なんかやな予感するね。」
「うん。する。」
あきとみきはお腹をさすりながらいった。
「どうかした?2人とも。」
足立は顔を見合わせ考え込んでいる2人にきいた。



投稿日 : 2010 12/01 20:33 投稿者 : 致良

「ふむ・・・」
モニターに映された二人の胎児を見て、
足立さんはやや険しい顔になっていた。
母体の気持ちを反応してるのだろうか、
シンクロして胎児も不安そうであった。
「これじゃダメだな、撮影はまた今度にしよう」
「えっ、もう帰っていいの?」
「あ、ありがとうございます!」
足立さんの気遣いを受けて、みきとさきは嬉しかった。
嫌な予感に駆けられて、早足で二人は自宅へ向かった。


※(↑ラッキープレセカンドと連動して、こっちの『この時点での時刻』は
 『9時の少し前』。ちょうどりきが駅に行ってゆきを待っている時間です。



投稿日 : 2010 12/01 21:59 投稿者 : ゆうり

「ただいまぁ。」
「亜希おねぇちゃん?」
二人はリビングにいくとあき姉ちゃんが床に蹲り陣痛に耐えていた。
「あきお姉ちゃん、大丈夫?」
「みき、どうしましょう?」



投稿日 : 2010 12/02 00:02 投稿者 : Honey

「っつ!」
あき姉ちゃんは苦しそうだった。
「びょ、病院は?」
「荷物、荷物。」
二人はせっせと支度をしてはいるが動揺しているため、なかなかうまくいかない。
「こんなときにユキ姉ちゃんがいれば。」



投稿日 : 2010 12/02 00:31 投稿者 : 致良

「さき、そっちの用意はいかが?」
「お湯の用意は出来ましたわ、みき」
みきとさきの二人は、自分も身重の身であることを忘れ、
あき姉ちゃんの出産に何とか手伝おうと、頑張っていた。
「・・・うっ!?」
「・・・った!?」
突然の過労働は言うまでも無く、母体に多大の負担を強いる。
二人それぞれの子宮の中にいる胎児は、一斉に悲鳴を上げた。



投稿日 : 2010 12/02 08:08 投稿者 : ゆうり

「はぁ、はぁ、2人とも、どうしたの?」
あき姉ちゃんはふたりの不振な行動に気づいて陣痛の間に聞いた。
「な、なんでもないよ。」
「そうそう。」
2人は苦笑いでごまかしている。



投稿日 : 2010 12/02 11:07 投稿者 : 致良

「ただいま、って、あき!?」
しばらくして、なんとりきがゆき姉ちゃんを連れて帰ってきた。
「ゆ、ゆき姉ちゃん!?」
「こ、ここはお任せしますわ!」
まさに助けに船と思った二人は、子供たちの世話を口実に、
みきはあき姉ちゃんの子供のみのりとゆたかを連れて、
さきはゆき姉ちゃんの子供のフブキとコユキを連れて、
あき姉ちゃんの出産現場から離れて、二人は自室に移動した。
妊娠していることを切れ者のゆき姉ちゃんにばれないために。



投稿日 : 2010 12/02 12:39 投稿者 : ゆうり

「さきねえたん?」
「みきねえたん?」
ふぶきとこゆきはみきとさきに連れてかれて不思議そうにみている。
「久しぶり。」
「こゆき、ふぶき、元気だったぁ?」



投稿日 : 2010 12/02 13:01 投稿者 : 致良

「・・・とりあえず凌いだみたいね」
一息を入れて、みきはへなへなとベッドに座った。
「ねえ、これからどうしよ」
一番幼いゆたかを懐に抱え、さきは聞いた。
「知らないわよ、そんなの・・・」
「お腹が大きくなったら、通せるわけないし」

「「はぁ・・・」」
二人は一緒にため息をした、その時だった。
『トゥルルル』
携帯が鳴いた。それも足立さんからの電話だ。



投稿日 : 2010 12/02 15:46 投稿者 : ゆうり

「足立さん、今日はすみませんでした。」
「いいけど何か変わったことなかった?」
足立さんはモニターをみて2人が無茶をしたのがわかり電話したのだ。



投稿日 : 2010 12/02 19:24 投稿者 : 無明

ひと通りの注意の後電話が切れ、再び双子の相手をしていると、ゆきが上がってきた。
「あ、ゆき姉。」
「どうかされまして?」
「なんでもないよ。ただね、ちょっと気になって。



投稿日 : 2010 12/02 20:40 投稿者 : Honey

「2人ともなにか僕に隠してない?」
ゆき姉らしく単刀直入に聞いてきた。
ごまかしきれるかなぁ?
「まぁま。いっちょ、いっちょ!」
その時ちょうどこゆきがにこにこしながらゆき姉のほうにいってしまう。



投稿日 : 2010 12/02 21:13 投稿者 : 無明

何とかごまかし切ることができ、二人はほっとした。
そしてゆき姉はまた降りていった。
「なんとかなったぁ~……」
「心臓に悪すぎですわね……」



投稿日 : 2010 12/02 23:33 投稿者 : ゆうり

「ままは?」
「まま、ろこぉ?」
残されたゆたかとみのりはあき姉ちゃんを探しているみたいだ。

「まま・・・っく。」
ゆたかは泣き出してしまった。



投稿日 : 2010 12/03 08:07 投稿者 : 致良

「んんんーーー!!!」
下の階から、あき姉ちゃんの声が聞こえる。
世の終わりかと思うほどの、いきみ声だ。
「あき姉ちゃん、痛そうね・・・」
「赤ちゃんを、産んでいる・・・」
それぞれ自分の5ヶ月強の妊婦腹に片手を当てて、
みきとさきは今まで考えもしない出産のことを考えた。
「ねぇさき、今わたしと同じ事を考えてるよね?」
「うん、あと5ヶ月ぐらいで、わたしたちも・・・」
非常に痛そうに聞こえるあき姉ちゃんの悲鳴を耳にした二人は、
『遠くない未来で必ず訪れる出産』に対する恐怖に支配された。



投稿日 : 2010 12/03 09:38 投稿者 : ゆうり

「みきねぇたん?さきねぇたん?」
みのりはみきとさきの様子に心配そうにしていた。
「でも。」
「でも産まれたらこんな可愛いんだよね?」
みきはみのりをさきはゆたかに抱きつきながら言った。



投稿日 : 2010 12/03 10:29 投稿者 : 致良

「おぎゃー、おぎゃー」
突如、下の階から赤ちゃんの産声が聞こえてきた。
「ちょ、早っ!」
「さすがあき姉ちゃんだわ・・・」
あまりのスピード出産に唖然とするみきとさき。
例え二人が足立さんの所へ出かけた後すぐ出産が始まったとしても、
あき姉ちゃんの出産は所要時間8時間弱のスーパー安産であった。
「・・・みのりとゆたかを連れて下に行こうか」
「うん、ここは行かないとかえって怪しいしね」

みきとさきは、あき姉ちゃんの出産を祝うために部屋から一階へ移動した。
妊娠しているという秘密を守るためにも、自然な振る舞いを注意しながら。



投稿日 : 2010 12/03 12:51 投稿者 : ゆうり

「あき姉ちゃんおめでと~。」
「おめでと~。男の子?女の子?」

みきとさきはニコニコしながらやってきた。



投稿日 : 2010 12/03 15:30 投稿者 : 無明

もう一人いる。
姉の言葉を聞き、二人は頭が真っ白になった。
「さき・・・・・・どうしよう?」
パニクり気が動転した二人は、何をすればいいかわからなかった。



投稿日 : 2010 12/03 15:41 投稿者 : ゆうり

「さき、お医者さんに電話して。後、みきは子供たちお願い。」
「う、うん。」
「わかったぁ~。」



投稿日 : 2010 12/03 20:59 投稿者 : 致良

しばらくしたら、ここでやっと救急車が来た。
そしてほぼ同時に、逆子だった赤ちゃんが出てきた。
これでめでたしめでたし・・・ではなかった。
「「いやああああああああ」」
みきとさきの悲鳴。生まれてきた赤ちゃんは、泣いてなかった。
全身が黒くなって、呼吸もしてないし、心臓も動いていない。
へその緒に首を絡まれて、お腹の中で既に亡くなっていたのだ。
「そ、そんな・・・」
「あき!?」
あまりにショックすぎた事実に、あきは気を失った。
そしてやはり衝撃的過ぎたか、みきとさきも気絶してしまった。
三人はそのまま救急車に搬送され、病院に送られていく。



投稿日 : 2010 12/03 21:18 投稿者 : ゆうり

ゆき姉は取り敢えずあきの入院用意をもってりきと4人の子供たちとタクシーで病院に向かった。
みきとさきが気づいた時には夕方だった。



投稿日 : 2010 12/04 00:22 投稿者 : 致良

病院には足立さんからの裏工作があって、
二人の妊娠は一旦、ばらされずに済んだ。

そして2ヵ月の時が過ぎた。

早産しても何とか胎児が生き残れる7ヶ月に入った二人は、
お腹が大きくなってきたことで、もう誤魔化しが効かない。

そして遂に、秘密がゆき姉ちゃんに見破られたーー



投稿日 : 2010 12/04 00:34 投稿者 : ゆうり

「みき、さき、何で今まで黙っていたの?」
ユキ姉ちゃんは妊娠したことよりも黙っていたことに怒っているみたいだ。
「まぁまぁ、お姉ちゃん。胎教にもよくないよ。」
「でも・・・。」
まだこっちにいたあき姉ちゃんが落ち着かせようとしている。
お姉ちゃんたちの4人の子供たちはリキが公園に連れて行っているため、容赦がない。



投稿日 : 2010 12/04 14:21 投稿者 : 無明

「まぁ、詮索はしないであげる。でもね、生命を育てるってことの重大さ、もっとよくわかってたほうがいいよ。」
そう言われてすぐに、呼び出しがあった。
撮影だ。



投稿日 : 2010 12/04 23:28 投稿者 : ゆうり

「お姉ちゃん。お出かけしてくるね?」
「いってきます。」

「みき、さき???!!」
ユキ姉ちゃんの怒った声が聞こえたけど逃げ出すように家からでた。



投稿日 : 2010 12/05 12:04 投稿者 : 無明

「そろそろばれたかも知れませんが・・・・・・気にしないで下さい。医学の発展のためです。」
足立の言葉を信じ、再び撮影に臨む。
「胎動とか、違いは出てきましたか?」



投稿日 : 2010 12/05 12:42 投稿者 : ゆうり

「う~ん。あんまり違いないよね?」
「あんまり。」
みきとさきは顔を見合せて言った。



投稿日 : 2010 12/05 15:20 投稿者 : 致良

元は同じ遺伝子を持つ双子だから当然なんだろうが、
みきとさきの子宮に分けられた二人の胎児は映像でも
同じポーズに映されるほどにシンクロしていた。

胎動でも、同じ手を動いて、同じ足を動く。
胎芽の段階ではそれほど気になっていないが、
7ヶ月の今でこんなのを見ると、少々気持ち悪い。
みきとさきは、モニターを見て少しだけ引いていた。

「やっと終わったわね・・・」
「早くお風呂入りたい・・・」
お腹を抱えて、疲れた二人は足立さんのオフィスから出た。
「あら、双子揃っての妊婦? 珍しいねー」
突然、廊下の椅子で赤ちゃんにおっぱいをあげている
一人の妊婦さんが、落ち込んでいる二人に話しかけた。
「はじめまして、晴香といいます」
見知らない妊婦さんは、友好的に二人に微笑んだ。



投稿日 : 2010 12/05 16:23 投稿者 : 無明

しばしその妊婦さんと歓談する二人。
こちらも同じような感じで、ココに来ているらしい。
何でも双子で、二回目の妊娠らしい。
「双子だと胎動も2倍なんだけど、結構きついのよ。おまけに張っちゃうしね~。」
二人は頷き、自らも話題を振り、あるあるネタで会話したり、割と気が楽になっていた。



投稿日 : 2010 12/05 22:41 投稿者 : ゆうり

「晴香、戻るよ。」
足立さんと一緒に晴香さんの旦那らしき人がやってきた。
「2人は知り合いなの?」



投稿日 : 2010 12/06 00:12 投稿者 : 無明

「ん、昌道のこと?仕事仲間なんだって。」
そして晴香さんは旦那さんに連れられて歩き去った。
双子も家に帰り、父母にこれからのことを相談することにした。



投稿日 : 2010 12/06 00:26 投稿者 : ゆうり

「ただいまぁ。」
「ただいまぁ~りき、今日のご飯なに?」
双子はご飯をほとんど作らず、いつもりきが作っている。
「なにじゃないよ。さっき、電話かかってきて、ゆき姉ちゃんから話を聞いて母さんたちが電話しろって。」



投稿日 : 2010 12/06 10:31 投稿者 : 無明

「もう僕じゃ手に負えないよ。悪いけど出てってもらえる?」
あの温和なりきがついに激怒した。
そして手荷物を持たされ、家を追い出された。



投稿日 : 2010 12/06 14:57 投稿者 : ゆうり

「母さん、言われた通りにしたよ。」
「一時間くらいお灸をすえましょ。」
実は母親が帰ってきていたのだ。
みきとさきにお灸をすえたかったのだ。

案の定一時間してばつの悪そうな顔をしたみきとさきが帰ってきた。
「ただいまぁ・・・。」
「りき、ごめんねぇ。」



投稿日 : 2010 12/06 18:41 投稿者 : 無明

しっかりお灸をすえられた2人は、まるで人が変わったように生活し始めた。
赤ちゃんのためと称して、食事も自分で作り、適度な運動も欠かさない。
さすがに両親とりきも変わり様に驚いていた。



投稿日 : 2010 12/06 19:10 投稿者 : Honey

りきはゆき姉ちゃんの方を手伝いに行き、家にはお母さんが出産までいてくれることになった。
もちろんもう少ししたらゆき姉ちゃんも里帰りの予定だ。
「ゆきのときに帰ろうと思ってたからちょうどいいわ。どうせ出産したあとの用意もしてないんでしょ?」
お母さんはなんだかんだいっても孫の誕生を楽しみにしているみたいだった。



投稿日 : 2010 12/06 20:25 投稿者 : 無明

そして何事も無く過ぎていく毎日。
だが体力のないさきは部屋にいることが多くなってきた。
みんなが気に欠けているが、やはり体の負担が大きいらしい。
そして今日は9ヶ月目の撮影だ。



投稿日 : 2010 12/06 20:51 投稿者 : ゆうり

心配だといってお母さんもついてきたそうだったけど、2人は2人で大丈夫といって2人でいくことになった。
今日、ゆき姉ちゃんもりきも帰ってくるのだ。



投稿日 : 2010 12/06 21:54 投稿者 : 無明

さきのほうが動いていないからか少々胎児が大きいほか、みきの方が胎動が活発だった。
いろいろ興味深げに二人はモニターを見ながら、いろいろ尋ねる。
足立はそれに丁寧に答え、すっかり信頼されていた。



投稿日 : 2010 12/06 22:06 投稿者 : ゆうり

「今日帰ったらお姉ちゃん里帰りしてくるんですよ。」
「優しいけど怒ると結構怖いんだよね。」
2人はニコニコしながら言った。



投稿日 : 2010 12/07 23:05 投稿者 : 無明

「そうか。それはよかったね。頼もしいだろ。」
しばらく話した後自宅に帰った二人は、姉の帰宅に胸を踊らせていた。
今のうちに聞けるだけ聞いておこう。
そう思う二人はすっかり「母」の顔だった。



投稿日 : 2010 12/07 23:26 投稿者 : ゆうり

「ただいま~~~。」
「ゆき姉ちゃん帰ってる?」
2人はニコニコしながらリビングにいくとゆきとこゆきがいた。
「おかえり。今、お母さんはこゆきと買い物言ってるよ。」



投稿日 : 2010 12/08 00:00 投稿者 : 無明

姉の格好を見て早速大笑いする二人。
姉はあきれ返っていた。



投稿日 : 2010 12/08 01:10 投稿者 : ゆうり

「お姉ちゃん、またやったの?」
確か先週にもゆき姉ちゃん、変わった格好だったよね?
「言わないでよ。」



投稿日 : 2010 12/08 13:05 投稿者 : 無明

今日はなんとシャツにスパッツだった。
なんでも、少し運動しに行くらしい。
臨月目前なのに大したものだ。



投稿日 : 2010 12/08 15:41 投稿者 : ゆうり

「二人もいく?」
「私はこゆきと遊んでる~。」
「私も。いこう、こゆき。」
「あい!」
みきとさきはこゆきを連れて部屋にいってしまった。



投稿日 : 2010 12/08 15:59 投稿者 : 無明

「ダメ。お母さん、二人お願い。ちょっと運動不足の妹をシバいてくる。」
ゆきは二人を子供から引き離し、スポーツジムに連れていった。
今はフリータイムで自由に運動出来るのだ。
「体力ないと産むとき辛いよ?さ、とっとと歩く!」
まずはウォーキングだ。



投稿日 : 2010 12/08 16:31 投稿者 : ゆうり

妊婦ように作られたジムのため、安心してできるのだ。
「歩いたら次はプールで歩くのよ。」



投稿日 : 2010 12/08 22:27 投稿者 : 無明

プールは身体も安定して歩きやすかったようだが、さきは少々へばっていた。
もともと運動嫌いなのだ。
「休ませてくださいぃ……」
「さきはホント体力ないね。休憩していいから、ちゃんと10週しなよ?」



投稿日 : 2010 12/08 22:47 投稿者 : ゆうり

「はい。ゆき姉ちゃん・・・。」
さきはお腹をさわりながらゆっくり歩きだした。
あきはゆきと2人で順調に歩いていた。



投稿日 : 2010 12/18 20:46 投稿者 : 致良

時は流れ、いよいよみきとさきの予定日まであと一週間となった。
この日、二人は出産前の最後の撮影のため足立オフィスに来た。
「驚くべき結果です。ご覧ください」
モニターを指して、足立さんは驚嘆した。
最初はつわりも胎動もシンクロしていた胎児なのに、
さきの運動不足のせいで、今やもはや別々の生き物。
「元は遺伝子を共有する双子だと誰が信じるか。医学の大発見です」
足立さんはかなり嬉しがっていた。
「そ、それは良かったね」
「足立さん、もう帰って良いですか?」
「ん? どうしたんですか、二人ともソワソワして」
「実は・・・」
みきは隠さずに、信頼できる足立さんに事情を話した。
二人がソワソワする原因は――今日は『ゆき姉ちゃんの出産予定日』で、
昨日の夜からゆき姉ちゃんの様子がいつもと違った――なのだ。



投稿日 : 2010 12/18 23:52 投稿者 : 無明

「あー。そういうこと。いいよ、今日はもう早めに終わって。」
そう言われて二人は慌てて家に帰ったものの、そこにいたのはいつもと変わらぬ姉のすがただった。
「心配して損した。」
「全くですわ。てっきりもう限界かと思ってましたのに。」
「あのね……」



投稿日 : 2010 12/19 00:00 投稿者 : ゆうり

「だって今日はなんか様子が変だったし。」
「そうそう。だから早く帰ってきたの。」
二人は残念そうにいった。
「まぁ、今日中じゃない?」
ゆき姉は相変わらず楽天的だった。



投稿日 : 2010 12/19 10:28 投稿者 : 致良

(なんとか両方をリンクしないと・・・)
=====================================
「とりあえずお湯沸かして。後タオルも」
ゆき姉ちゃんにお湯とタオルの用意をしてと言われ、
二人はそれぞれ臨月腹を抱えて家に入った。

みきはお湯沸かしのために台所へ。
さきはタオルを取るために風呂場へ。

「ん?なにやら激しい動きをしているな……?」
そして、子宮断面モニターを越しで
二人の様子を監視している足立は――



投稿日 : 2010 12/19 12:09 投稿者 : ゆうり

「あまり子供は動かなくなってきてるな。予定日より早いかな?」
激しく動き回るといつもなら赤ん坊も動くのに大人しくじっとしているのだ。



投稿日 : 2010 12/21 01:27 投稿者 : 無明

「まぁ、いい。対象以外のことに興味はないからな。おかしなところはないし、なんとかなるだろう。」
その時は遠くとも、出産の準備は着々と進んでいるのだ。
わからないわけではないが、いまは姉の言うことを聞くことが、二人にとって重要だった。



投稿日 : 2010 12/21 08:41 投稿者 : ゆうり

「ただいまぁ~。」
「お邪魔します!ゆきさん!」
あ、りきとゆき姉ちゃんの旦那がきた。
「こっちですよ。」
みきが玄関までいき、リビングへ案内する。



投稿日 : 2011 01/05 19:12 投稿者 : 致良

※プレセカと大きく離れていたので、同期は無理と判断して勝手に出産まで時計の針を進めました。
時系列は、二人がゆき姉ちゃんの巨大児出産を立ち会った一週間後です。
==================================================================
「いよいよ出産予定日が来ました、今の気持ちはどうですか?」
真顔で聞く足立に対し、みきとさきは
「正直、もう早くこいつを出したい。重いし、動くと痛い」
「感想より、朝からお腹がムズムズするのが気になる・・・」
と、それぞれダルそうに答えた。

「二人の出産はフル録画する予定なので、コメントも大事です」
モニターに映し出された二つの胎内映像を見て、足立は頷く。
「おや、みきさんの方はもう子宮口少し開いてますね」
「えっ?」
「ホント?どこ?どこ?」
「ほら、ここですよ、胎児もだいぶ下がってますし」
指差し棒で、みきのほうの胎内映像の子宮口を指す足立。
確かに、隣のさきに比べると幾分が開いているに見えた。



投稿日 : 2011 01/06 00:37 投稿者 : 無明

「まぁ、後はいつもどおりにやるから安心して。」
足立が胎内カメラをみきの腹部に再び向けた、その時。
「あれ、今、なんか張って………」
「私もですわ……って、あ、また……」
規則的な張り。
出産予定日は翌日。
子宮口徐々に開大。
つまり、この要素が示すのは…………



投稿日 : 2011 01/06 03:30 投稿者 : 致良

「まさか、もう陣痛が始まったの?赤ちゃん、出てきちゃうの?」
「えっ?でもでも、少しは痛いけど、そんなに痛くないし・・・」
モニターの映像を前に、戸惑うみきとさき。
そこで、録画準備をしながら足立は二人に飲み物を提示した。
「陣痛を和らげる経口投与の栄養剤です、どうぞ」
「あ、ありがとう・・・いただきます」
「くすり飲むのいやだけど、この際どうでも良いわ」
足立を疑わない二人は、それぞれのコップを飲み干した。
甘くて、ハチミツのような、フワフワなドリンクでした。



投稿日 : 2011 01/06 04:28 投稿者 : 無明

30分後。
「うぅ~ぅう~ん……」
「いたあぁ~ぁいぃ……」
和らげる、と言われていたのに、何も変わらない。むしろ強まりつつある。
それもそのはず、ドリンクはただのハチミツドリンクだ。
双子は、苦しむタイミングもほぼ同時にうんうん唸っている。
だが、胎児は正反対と言っていいレベルの差だった。
足立は、それを見て頷くと、二人に優しく声をかけた。
家まで帰るかどうかを尋ねるのだ。



投稿日 : 2011 01/06 15:32 投稿者 : 致良

結局、みきとさき二人とも、このオフィスで産むことを決意した。
病院には遠く及ばないだろうが、ここには出産用の設備がある。
そしてなによりも、モニターでお産の進行が見れるだからだ。

子宮が緊張するから痛みを感じるまで、僅かながら時間差がある。
『陣痛が襲ってくる』タイミングが判るだけでも、かなり心強い。

二人の分娩第一期は、どちらかというと順調に進んでいった――



投稿日 : 2011 01/07 11:49 投稿者 : 無明

「今の内に出すものは出しておきましょう。」
そういわれ、浣腸から導尿からなにから一通り施されたが、その結果もまた興味深いものだった。
かたや子宮収縮が強まり、子宮口も開大しつつあるのに対して、もう一方は目立った進展は見られない。
それゆえ、二人の反応も全く違っていた。
むろん、それは胎児も同じである。
足立はモニターを見ると、経過時間に目をやった。
双子はまだ若い。
産道もまだ堅いだろう。
その上初産なので、かなり時間がかかるのは明白だからだ。



投稿日 : 2011 01/09 18:53 投稿者 : 致良

「あ、なんか、やばいのが来そう」
あれから3時間後、先に動き出したのはやはりみきの胎児だ。
ほぼ完全に開ききった子宮口に僅かに毛の生えた頭の先端を
ゆっくりと突っ込む瞬間が、胎内断面モニターに映された。
「ぁぐ、き、来ちゃう、赤ちゃんが・・・あっ、ぁあ!?」
映像に一秒ぐらい遅れて、今までの陣痛とは全く別の感覚が、
まるでお腹から、股から内臓が這い出るような強烈な痛みが、
収縮する子宮の筋肉から脳に伝わって、みきの中で爆発する。



投稿日 : 2011 01/10 08:01 投稿者 : 無明

「んんんんんーーーーー!!」
その感覚に耐え切れず、みきは下腹に力を込める。
その様子を見てか否か、さきも息み出した。
だがさきの場合はまだ子宮口が開ききっていないため、徒労に終わった。
そしてみきのほうも、胎児を包んでいた羊膜がかかった腹圧に耐え切れず、先端から破れ、中の羊水を漏出させた。
破水。
ここからが本番だ。



投稿日 : 2011 01/11 09:25 投稿者 : 致良

「はぁん!んぅ!んんんーーーっ!!」
みきに遅れを取っていたのが気になっているのか、
それともただ単に陣痛の苦しみに正気を失われたか、
出産の進まないさきは、強引にいきみはじめた。
「んぁ、なんか、あったかいのが、もれてきた・・・?」
グググっと強張って、胎児を押し出そうとするさきの子宮壁。
肝心な産道への出口が開いていない状態で徒労に終わったが、
全部が全部無駄でもないようで、破水することに成功した。



投稿日 : 2011 01/11 11:29 投稿者 : 無明

みきの胎児は陣痛と母体のいきみにあわせ、順調に産道を進む。
一方、さきはやはり堅い子宮口に阻まれて、遅々として進まない。
二人の子宮のサイズや産道の堅さといった個人の差が、ここに来て顕著に表れたらしい。
足立は胎内カメラでその様子を見守った。
性交経験も無いような、まだ若い未熟な少女なのだ。
さぞ辛いだろう。
だが足立は手出しする気など更々なかった。



投稿日 : 2011 01/13 13:30 投稿者 : 致良

「痛い痛い痛い痛い!もう嫌、産むの嫌、家に返してぇ!!」
胎児の頭が産道に入ったショックで、パニックになって暴れだすみき。
しかし撮影のために固定されているので、徒労に終わってしまう。
むしろ『教習ビデオには絶対入ってない貴重なシーン』が取れたと、
足立さんは苦しむみきでなく、モニターを見て笑顔になった。
「この、早く、出なさいよ!んん、ふぅんんー!」
一方、さきは泣きながら怒り出して、お腹に力いっぱい息んだ。
そして、あまり開いていない子宮口に無理やり押された胎児は――



投稿日 : 2011 01/13 14:40 投稿者 : 無明

無理矢理、子宮口を拡大する。
いくら産道に合わせて形を変えるといっても、形はあるのだ。
そしてその、言いようの無い苦痛は、更にさきを苦しめる。
二人の胎児は、出方の差はあれど、大体同じタイミングで出ようとした。
いきむにつれ、姉妹の反応が変わりはじめる。
ただ単に痛みに震え、苦しんでいた二人がだ。
その声はまるで、苦しみと嬌声が合わさったような声だった。
そして姉妹は、撮影の日にであった、先輩妊婦の晴香の言葉を思い出していた。



投稿日 : 2011 01/30 14:40 投稿者 : 致良

『陣痛が強まって来たら、とにかく頭の中は幸せなことだけ考えるのよ』

と、先輩の晴香さんの言葉。痛み逃しの心得だと二人は覚えていた。
しかし、愛のある出産をしていた晴香さんと違って、みきとさきは
最初から「ビデオ撮影の仕事」として出産まで辿りついてきたのだ。
幸せなことと言われても、何を考えれば良いのか分からなかった。

モニターに映れた二つの子宮は、無情にも規則ある収縮を続ける――



投稿日 : 2011 01/30 17:08 投稿者 : 無明

こんなことになるなんて思わなかった。
そこには恐怖感ばかりだ。
だが、一度始まったものはもう止められない。

「ふむ、やっぱり若い子だし不安だろうな……」
足立は事務的な態度を崩さず様子を観ている。
「さて、あとはしばらくこのままだ……」

姉妹の想いをよそに、出産はまだまだ進まない。



投稿日 : 2011 02/03 02:18 投稿者 : 無明

もう、限界!
二人がそう悲鳴を上げるのと時を同じくして、胎児を包んでいた膜が破れ、羊水が溢れ出す。
破水したのだ。
体もそれを感じ取り、二人はより一層強くいきみはじめる。

((楽しいこと……幸せなこと……)

姉妹は同時に思い至る。
誰からも文句を言われないような、立派な母親になると。
姉たちの子育てを間近で見てきた彼女たちは、育児に対する覚悟など、とうの昔に出来ていた。



投稿日 : 2011 02/04 16:07 投稿者 : 致良

「一緒に頑張ろう」
「うん、頑張ろう」
姉妹の手が重なり、久しぶりに、双子らしく、息も思念も一つになる。
昔は至って自然に出来ることなのに、いつの間にか別々になっていた。
「・・・次の陣痛が来るね」
「・・・うん、こっちもね」
これに影響されていたのか、双子なのに二つの子宮にワケラレた胎児も、
違った胎教を受けて別々になった動きを、再び一致するようになった。
「「せーの」」
破水したこともあって、今度こそはと、二人は股に力を込めて――



投稿日 : 2011 02/04 18:27 投稿者 : 無明

二人、全く同じ強さで、長さで、タイミングで、いきんだ。
するとだ。
あれだけ出るのを渋っていた胎児が、一気に産道を突き進み、その頭を覗かせる。
あまりの勢いに、二人の秘所は裂け、赤い血が流れる。

だが二人はより一層の力を入れて、再びいきんだ。
約280日の時間をかけ、ゆっくりと形作られた新たな生命をこの世に生み出すために、姉妹は同じ間隔で、いきんだ。



投稿日 : 2011 02/04 19:54 投稿者 : にゃんにゃん☆

「ふぅぅぅぅん!!」
2人が同時に息むと羊水と血が混ざりあって出てきた。

するとみきの胎児の頭がちらっと見えた。



投稿日 : 2011 02/05 01:59 投稿者 : 致良

「うつくしい・・・」
二つの産道の映像をモニター録画しながら、足立は感動した。
まさにこれこそ『自然の営み』。二人の少女が今、母となる。
「この瞬間を待っていたのだ」
――二人の胎児の頭が、完全に出ていた。



投稿日 : 2011 02/05 02:30 投稿者 : 無明

姉妹も、それをはっきり感じ取っていた。
「もう一回、多分もう一回!」
「せーの……!!」
声にならない叫びを上げ、姉妹は持てる限りの力でいきんだ。
頭まで出ていた胎児はその一息で呆気無く産道を通りぬけ、この世に生まれでた。

へその緒でつながったままの赤ん坊が、産声を上げる。
夢うつつの状態だった姉妹の意識を、一気に現実へと引き戻す。
「赤ちゃん……産んじゃったんだ……」
「うん……」
やがて入ってきた足立がへその緒や胎盤なども処理して、赤ん坊を抱き上げさせた。
ふたりとも女の子だ。
まるで自分の分身のようなわが子を抱き上げると、みきとさきはそっくりな顔で微笑んだ。
「大丈夫。私がちゃんと守ってあげるからね……」
これからはもうひとつの仕事、育児が始まるが、ここで語るべきことではない。




「足立くんの提出したこの映像、なかなか興味深い。」
「彼のライバルの、確か雨宮くんだったか?彼が奥さんと共同でとった映像も貴重だろう。」
「あと、事例が足りないのというと……難産各種に、ギネス級の巨大児がひとつ。」
「それと、こちらで提案したものですが、我々の管理下においた上での超多胎、これもギネス級の十つ子とかがありますね……」
「よし、それぞれの計画、進めておいてくれ。」



End or ……?



関連作品:ミセラレ(当作品に出てくる晴香が主人公の作品です)
関連作品#2:ラッキーライフ(四姉妹誕生の物語です)
      


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