ミセラレ~出産のイロハ~

投稿日 : 2010/11/06 19:36 投稿者 : 致良

「すみません、求人のチラシを見てきたんですが・・・」
安っぽいプリントチラシを辿って、スクール学園高校の制服を着ている
ごく普通な女の子――『雨宮晴香』はドアを開けてオフィスに入った。
「おお、やっと犠・・・コホン、信じてもらえる人が現れましたか!」
彼女を歓迎するのは、リーマン姿のイケメン男子。
どこからどう見ても、完全断然怪しくの欠片も無い。
「あの、ここに書いているのは本当のことですか?」
一度オフィス内の様子を伺って、晴香はチラシの内容を確認した。

それも無理もない。
『女子高生限定、普通に生活するだけでお金もらえるアルバイト』
ときたら、冗談か詐欺か女子高生を誘う罠かのどちらかにしかない。

「もちろんです、このお茶を飲んだ時点から仕事が始まります」
イケメン男は晴香にお茶を出し、仕事の内容について簡単に説明した。
チラシ通りに『普通に生活するだけ』が仕事だ。ただし――
「保健体育用のビデオ作製、ですか・・・」
「ある場所以外は映らないし、声も基本的に入りません。プライバシーは守られます」
「・・・・・・分かりました、その仕事やらせてください」
晴香は、出された『お茶』を飲み干した。

晴香がオフィスから出たのを見て、男は壁にある大型モニターをつけた。
画面上に、一面のキレイなピンク色が映し出される。

それは、晴香の子宮内の映像だ。
今飲ませたお茶に特製の造影剤と、妊娠する薬が入っている。
これにより、処女であるにもかかわらずに、晴香は妊娠していた。
今はまだ胎児が小さくて、子宮壁以外何も映らないけれど。

仕事の内容は――『妊娠から出産までの胎児の様子』のビデオ作製。
モニターに子宮の中を映し、それを録画するだけの簡単な仕組みだ。
まさに「普通に生活だけで良い」という、最高の仕事とも言えよう。

こうして、晴香の『ミセラレ』アルバイトが始まった。   つづく



投稿日 : 2010 11/06 20:31 投稿者 : ゆうり

最初の撮影の日。
「ここに横になってもらえる?」

「わかりました、昌道さん。」
イケメンさんの名前は昌道さんっていうらしい。



投稿日 : 2010 11/06 21:36 投稿者 : 致良

「もう良いですよ、レントゲンみたいな感じで気楽でしょう」
さすがにオフィスでは病院のようなエコー撮影の設備ではないので、
妊娠最初期の胎芽を見れるわけも無く、あっけなく撮影が終わった。
「これがあたしの子宮か・・・」
もらった写真を見ている晴香。しかし肉壁のピンクとしか見えないので、
本当に子宮内の写真かどうかも、判明できない。ピンク一色であった。

「まあ、最初はこんなもんですよ。ところで体調の方はどうですか?」
「・・・・・・エッチ」
「止まったようですね。妊娠している何よりの証拠ですよ」
赤面する晴香を見て、昌道はにっこりとイケメン笑顔をした。

「じゃ、また来月ね、昌道さん」
「そろそろツワリ来るから、気をつけてくださいね」
晴香がオフィスから出た後、一ヶ月前と同様にモニターがつけられた。
歩いている晴香の動きに反応して、呼吸するように動くピンク一色。
写真と違い、モニターに録画されるのは『リアルタイム動画』である。

中がリアルタイムで見られていることを当然、晴香はしらなかった。
『毎月オフィスに来て、10分間ぐらい中の様子を撮影する』としか
思っていない晴香は、今日も明日も明後日も『ミセラレ』続ける。



投稿日 : 2010 11/06 22:32 投稿者 : ゆうり

そのため、晴香に異変があるとすぐにわかるのだ。

それが晴香にわかったのは意外と早かった。
晴香が風邪で高熱がでたときだった。
「お腹の子供は心配要りませんので、ご心配なく。」
というメールが来たのだ。



投稿日 : 2010 11/06 23:10 投稿者 : 致良

(ゆうりさんへ:リレーで文句言うのはルール違反ですが、晴香は最後まで知らない方向でお願いします)

これに対し、昌道は慌てずにメールを返信する。
「健康管理も契約の一部です。流産した場合それ以降のお金は払いません」
と、少し大人の世界の厳しい一面を晴香に見せた。

晴香は依然と『ミセラレ』ていることが知らないので、
メールを『昌道さんの好意』と解読し、心温まった。

仕事とはいえ、月一度会うだけとはいえ、昌道はイケメンだ。
妊娠してからホルモンバランスが変わっていたのもあって、
晴香は知らぬうちに昌道のことが好きになっていた。

「それにしても可愛いですね、ふよふよしている雨宮さんの赤ちゃんは」
モニターに映られる10週目の胎児を見て、昌道は感心した。
全てはこれからだと、小さくガッツポーズを決めながら。



投稿日 : 2010 11/07 18:16 投稿者 : 無明

幸いそこからは大きなトラブルもなく、5ヶ月が過ぎた。
その間にも大きく育っていった胎児は、今やカメラではっきり確認できる大きさとなった。
昌道に釘をさされて以降、晴香は健康にも大変気を使うようになった。
おかげで本人の体調も良くなっているのだ。



投稿日 : 2010 11/07 20:14 投稿者 : 致良

「傍にいないけどずっとついていますから、大丈夫・・・っと」
『今病院、もうすぐ5ヶ月検診、ドキドキ』という晴香のメールに返信して、昌道は携帯を閉じた。
晴香はこの返事を見てどう思うのかは知らないが、昌道は嘘を言っていない。
なにせよ、目の前のモニターで晴香の子宮の様子を『ずっと見ている』からだ。

「おっ、この動きは晴香ちゃん横になったな、内診されるのでしょうか」
少し怖がっているようで、緊張でぴくぴくする晴香の子宮はとてもチャーミングだ。
胎児もその動きを感じたのか、不安そうに小さい手足を伸ばし、子宮壁につっついた。

                          晴香サイドへつづく



投稿日 : 2010 11/08 00:05 投稿者 : 無明

「ジェル塗りますねー」
気の抜けるような看護師の声のあと、お腹にひやりとした感触。
機械が当てられ、横のモニターに黒と白のざらついた画像が表示され、人のシルエットをなす。
「うん。順調ですね。これなら大丈夫でしょう。」



投稿日 : 2010 11/08 00:31 投稿者 : 致良

「ありがとうございました」
診療室から出て、晴香は胸を撫で下ろした。
ハッキリと中身が見れる写真も良いけれど、
動いているエコー画像の方もまた味がある。

「さてと」 子宮の中で生きる、お父さんのない命。
昌道さんの話によると、この赤ちゃんは自分の複製・・・
染色体が完全に同じなので、性別は女性で確定している。
「昌道さんに『検診完了♪』のメール出しちゃお」
妊娠生活の一大イベントなのに、先に結果を知っていた。
考えれば少ししょんぼりしてしまうけど、晴香は気にしない。
昌道さんのことが頭いっぱいの、恋する乙女晴香だった。



投稿日 : 2010 11/08 00:59 投稿者 : 無明

「検診は終わったみたいですね……」
モニターを見ながら昌道は形態に手をやる。
「次は2週間後でしたね。おや、胎動ですか。そろそろ彼女も気づいているでしょう……」
此処に来るたびに笑顔を輝かせて話す晴香のことが、いつしか目が離せない存在になっていることに、彼は気づいていなかった。



投稿日 : 2010 11/08 09:16 投稿者 : 致良

「追加コース?」
「ええ、こっちのクライアントからの注文なので、受けるかどうかは晴香さん次第です」
『妊娠6ヶ月』の撮影を終えた後、昌道は晴香に提案した。
今までのような月齢別の子宮内胎児写真だけではなく、
母体の変化に対する胎児の変化も記録したい、と。
「具体的にはどうすればいいの?」
「乗る気ですね、助かります。そうですね、まずは・・・」
昌道はレントゲンのようなカメラを膨らんできた晴香の腹にあて、
「はい、今お腹を軽く押してください」
「こ、こうかな・・・?」
晴香がお腹を押すタイミングで、シャッターを押した。
出てくる胎内写真は、子宮が押されて体を反らす胎児だ。
「見ての通り、このような写真です。胎教も兼ねていかがでしょうか?」
「なるほどね・・・これはおもしろそうね♪」
可愛いポーズの胎児写真を見て、晴香は二言なく追加コースにも契約した。
ずべてが密かに動画として録画されているのを知らずに・・・



投稿日 : 2010 11/06 23:10 投稿者 : 致良

「こんにちは、お誕生日おめでとうございます」
チャイムを鳴らして、昌道はドアに向けて声を出した。
今日は7ヶ月目の撮影日であり、晴香の誕生日である。
そのため、オフィスではなく晴香の家でやることにした。
女子高生にもかかわらず、家族から離れて一人暮らしの晴香。
金を節約し、安いアパートの6坪ワンルームを借りている。
風呂は銭湯で、トイレも共用なため、これからの冬場には少々キツイ。
それでも健気なのは晴香クオリティ、まさに「母は強し」である。



投稿日 : 2010 11/09 14:16 投稿者 : PARIS

「むむむ、この激しい動き、昌道くんいい事やっているな」
ゆっさゆさと揺れるモニター映像を見て、昌道の同僚は羨ましがっていた。
確実に映されてはいないが、この何かに突っつかれているかのような
規則的な揺れ方から、被写体は何をしているのを想像できる。
「ぐぬぬ・・・」
嫉妬の黒い炎に包まれ、昌道の同僚はモニターの隣に設置している
コントローラーパネルを開き、たくさんある『イベント』ボタンの中から
ランダムに一つを選んで、効果も考えずにそれを押した。



投稿日 :2010 11/09 14:48 投稿者 : 無明

が、そのスイッチは担当者以外が押しても無意味である。おまけに他人への妨害は厳禁だ。
このままではクビになってしまう。
同僚は慌てて手を引っ込めた。
そしてそんな事はつゆしらず、晴香は妊婦生活をたのしんでいた。



投稿日 : 2010 11/12 22:49 投稿者 : 致良

「更に追加プランを?」
「はい、今までは通常と胎児の反応の二種類ですが、クライアント側からの提示で・・・」
晴香の妊娠8ヶ月目の撮影。
『子宮内写真』と『胎教の様子』を撮影し終えた時に、昌道が契約書を出した。
教科書に載せるように、いろんな『妊娠中のイベント』の写真も撮ろうの提案だ。
「別に良いんですけど、イベントといってもどうやって撮るの?」
お腹の赤ちゃんと胎動ゲームをやりつつ晴香は聞く。
「最初と同じです、この特製のお茶を飲んで、そして撮影するだけです。
即効性ですが、代謝も早いので撮影したら状況はたちまち改善します」
「はぁ・・・」
「試しにやってみましょうか? この『お腹の張り』ならかなり安全ですよ」
紅茶みたいに赤いお茶を勧める昌道。
どうせお腹の張りは妊娠後期に良くあることなので、晴香はやってみることにした。
紅茶のカップを手に取り、晴香はそれを胃に流した。
そして――

(実はお茶は本当にただの紅茶で、イベントの操作はモニターのパネルでやっている。
晴香はそれを知る術はないから、お茶でイベント誘発という理由で納得させた)



投稿日 : 2010 11/12 22:54 投稿者 : 無明

「あいたたたた………」
カメラには、緊張しわずかに収縮する子宮壁と、押されて身体をちぢ込める胎児がはっきり写っていた。
やがて張りはすぐに収まる。
「ほんとだ…すぐ収まった。」
昌道の言い分を信じこんでただただ驚く晴香。
「で、今の画像がこちらです。赤ちゃんも苦しいでしょうから、無理な運動は厳禁ですよ。」



投稿日 : 2010 11/13 02:01 投稿者 : 致良

実害はなさそうだし、晴香は追加契約に同意した。
昌道も肩の重荷が落ち、上司に良い報告ができる。

そんな二人は、仕事終了のねぎらいも兼ねて、
昌道のおごりでファミレスへ食事しに行った。

傍から見ると、まるでデート中のカップルだ。
晴香が8ヶ月の妊婦であるところを除いては。



投稿日 : 2010 11/13 02:22 投稿者 : 無明

「栄養バランスなんかもきっちり考えて食べるんですね……」
見た目とは裏腹に割と几帳面な春香に驚く昌道。
そしてわかれ、報告。
あとでメールでもやり取りを行う辺り、彼もしっかりしている。
次に会うのは9ヶ月。
出産が本気で意識される頃だ。



投稿日 : 2010 11/13 17:30 投稿者 : 致良

あれから数日後、晴香は8ヶ月検診のために産婦人科へ赴いた。
「ふむ、待合室の椅子に座ったのかな?」
いつものように子宮内映像を映すモニターからそれを見守る昌道。

座った晴香の太ももに押されて子宮頸部が少し盛り上がり、
枕を高くされたかのように胎児の頭が軽く押し上げられる。
「おや・・・」
その反動なのか、晴香の胎児は下半身を強張らせ、
子宮底が軽く変形するほど力強く寝返りを打った。
「これはまたキレイに撮れた『赤ちゃんに蹴られた』映像ですね」
次の瞬間、ビクッと画面上の子宮全体が一回震い上がり、
今度は胎児を撫でるように、子宮壁が滑らかな波を描く。
「晴香は蹴られて痛がったのかな・・・声が撮れないのは残念です」
この波はお腹をさする晴香の手によるものと判断し、
昌道はモニターに目を釘付けながらニヤニヤとした。



投稿日 : 2010 11/13 17:30 投稿者 : 致良

しばらくして、太ももに圧迫されて変形した子宮頸が元の形に戻り、
スペースが返された胎児もまた安らかに頭が下の体勢を取り直した。
揺り篭のように揺れる子宮。晴香は立ち上がって歩き出したようだ。

「では、出来なくなる前にイベントシーンを撮りましょう」
モニターからパネルを出し、昌道はある緑色のボタンを押した。
それは『逆子』というイベントを一時的に誘発させるボタンだ。
今回はオフィスにこれなかったので、お茶で誤魔化すことは出来ないが、
妊娠時期から考えると、今やらないと撮れない可能性がでるイベントだ。
「さすがに胎児が大きすぎたか、ここら辺は編集でカットですね」
ぐるりとかなり不自然な一回転をして、さっきまで正常位だった胎児は
たちまち脚が子宮頸に頭が子宮底に向いている逆子の様相を呈してきた。
母体に負担を強いる大移動だが、自然の胎動とは違いこれは
イベント契約によるもので、晴香には感づかれていないのだ。
「さて、後はお医者さんに逆子だと診断されるのを待ちますか」



投稿日 : 2010 11/13 17:55 投稿者 : 無明

やがて医師は様々な診断を下しているようで、器具を当てられたりしているのがわかる。
診察は終わったようで、またしても歩いている。
こちらからじゃ様子は一切わからないわけで、あってみなければわからない。

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9ヶ月になった春香のお腹は驚くほど大きくなり、いよいよ末期だと感じさせる。
「逆子は今度の検診までに戻るそうなんですけど、急になるのは珍しいって……」
春香は不安そうではないが気になるようだ。



投稿日 : 2010 11/13 20:21 投稿者 : 致良

「そうですね、直るといいですね。はい、今日の写真」
昌道はカメラから『逆子体操中の子宮と胎児の様子』とタイトル付けた
写真を一枚焼いて、ベッドで尻を高く上げている体勢の晴香に渡した。
「ありがとう」
写真の中の赤ちゃんは、やはり母と同方向を向いている逆子であった。
かなり成長していて、弾性のある柔らかい子宮が窮屈な空間に見える。

「はぁ・・・逆子を治る薬でもあれば良いのにね」
赤ちゃんが正常まで回転するように尻を軽く揺らし、晴香は嘆いた。
胎児の大きさから考えでも、体操だけで治すのはもはや至難である。
このままだと難産は必至な上、予定にある『出産の過程の撮影』も
契約通り教科書に使える『正常なもの』ではなくなってしまう・・・
「そんな薬は無いですが、それを助ける薬ならありますよ」
「ホント?」
「ホント。ほら前回紅茶飲んだでしょう?それと似たようなものです」
まるであらかじめ用意していたかのように、昌道は薬を取り出した。
今度の薬はなんと、『活発な胎動を誘発する薬』である。これを飲んで
胎児が激しく動いたら、逆子も直るかもしれないと昌道は説明した。

「胎児が大きいので、激しく動くと晴香は痛くなるかもしれませんが」
「・・・治れるならそれぐらい我慢しちゃうから」
再びカメラをお腹に当てられ、晴香は逆子体操の姿勢で一気に薬を飲んだ。
とても苦くて辛かった薬は、すぐにその効き目を発揮した――



投稿日 : 2010 11/13 21:26 投稿者 : 無明

「お?って、あっ、うぅ……」
ぐるり、と身体の中からひっくり返されるような感覚がした。
思わず吐き気を覚える春香。
昌道はもう一度モニターを覗くと頷く。
「早速効果があったみたいですね。もう大丈夫です。」
そしてモニターの様子を見せる。
(普通に乗ってくれているな……これは出産後に第2子以降の契約を持ちかけるのもありだろう……
 ちょうど『多胎』と『巨大児』の例が抜けているはずだ…)
少し考えると、いつもの表情に顔を戻し、遥かに写真を渡した。



投稿日 : 2010 11/13 21:59 投稿者 : 致良

写真には、子宮をねじるほど曲がっている胎児が映っていた。
確かにこれなら逆子も治るだろう。と晴香は思っていたが、
『紅茶』と違って今回の薬はなかなか効果を失われない。
「うっ、はっ、あふぁん」
抱き枕にしがみ付き、晴香は呻きながら腰を官能的に振るわせた。
赤ちゃんが暴れてる、苦しい子宮を今すぐになだめてあげたい。
でも今手を出したら、せっかく逆子を直すチャンスなのに・・・

一方、暴れる赤ちゃん含めて一連の変化を録画したモニター側では、
昌道は慌てずにもう一回『逆子』のボタンを押し、状況を解除した。
これで晴香は完全に『薬のお陰で治った』のを信じることだろう。
「しばらくは暴れますからね。今夜はここで一泊しましょうか?」
「うっ、うん・・・そう、した方が、良いみたいっ・・・」
何故こんなことをするのか、それは晴香の信頼度を稼ぐためである。
『出産の時は病院じゃなく信頼できる昌道の所に来る』ように、と。



投稿日 : 2010 11/14 13:48 投稿者 : 致良

『これから暇? 買い物付き合ってほしいの』
数日後の検診で無事に逆子が治り、奇跡的だと医者に
言われた晴香は、上機嫌で昌道にデートの誘いを出した。
もうすぐ臨月の身重な体は、いつに無く可愛げがあった。
もはや完全に恋する乙女の顔、ということなのだろう。

一方、モニターの前の昌道は、新しく上司からの指示を受けた。
前回の暴れる胎児の様子を録画したビデオが好評だったので、
今回撮って欲しいと指示された内容はなんと――



投稿日 : 2010 11/14 14:32 投稿者 : 無明

陣痛の最中の胎動。
珍しい事例であるためデータが少ないというのだ。
こちらから操作できることである以上、簡単な仕事だ。
それにしても、彼女はマタニティドレスなんかは嫌いのようだ。
活動的なスタイルが好みなのか?



投稿日 : 2010 11/14 17:25 投稿者 : 致良

2010 11/14 17:25ともあれ、注文されたのは陣痛を待たないと撮れないものだ。
薬で陣痛を誘発することもできるが、昌道はそれをしなかった。
ミセラレているとはいえ、晴香と胎児は玩具ではなく尊い命だ。
逆子の時もそうだ、後で編集しないといけない不自然さは
昌道が撮りたいものではない。いわば美学に反するものだ。

かれこれ悩んでいるうちに、晴香は臨月に突入した。

今日は『臨月の子宮及び胎児の様子』を撮影する日。
約束されていた時間通りに、晴香はオフィスに現れた。
もう慣れていたので、簡単なあいさつを交わした後、
晴香は早速撮影室に入ってベッドの上に腰を落とした。
圧迫された胎児が動き出し、晴香はお腹を撫でる。
そして昌道は、カメラの用意をして撮影室に入った。



投稿日 : 2010 11/14 18:08 投稿者 : 無明

「わぁ、もうこんなにおおきくなってるんだ……もうすぐ会えるんですね……」
いよいよ自覚が出てきたのか、真剣な面持ちだ。
そう、もうすぐなのだ。
医師からは自宅出産のOKも貰っている。
「臨月になっても胎動が活発ですね。」



投稿日 : 2010 11/14 19:12 投稿者 : 致良

撮った写真は、窮屈になった子宮の中で体を丸めている胎児。
理科室で置かれている『臨月妊婦』模型のような感じだった。
「臨月だけど、今日も追加プラン行きます?」
「うん、昌道さんがそうして欲しいなら・・・」
このままではあまりにもありきたりで味気が無いので、
より良いビデオを録画するために昌道は提案を出した。
「では、こんなのはいかがでしょうか?」
すばやく薬を出す昌道。今度は蒼いカプセル剤だ。
臨月だからあまり無理は出来ない点も踏まえて、
今回の追加内容は――



投稿日 : 2010 11/14 20:21 投稿者 : 無明

(各種マイナートラブルひとまとめ。まぁカプセルは利尿剤ですけども……)
「え、この薬ですか?いや、一種の造影剤みたいなものです。妊娠によって変化した身体の全体像というもので。」
特にNOも言わず、晴香はそれを受け入れた。
カメラの倍率を子宮アップから、ちょうど人体模型の子宮も出るくらいの範囲に変更する。
子宮に押されて曲がった脊椎や、おしっこのたまった膀胱、便秘気味の腸までくっきり映っている。
無論、晴香には全体像に倍率変更し、なおかつフィルタリングをかけたものをみせている。
(一般的に言われているように腰に負担がかかってますね……)



投稿日 : 2010 11/14 21:31 投稿者 : 致良

「はぅ・・・」
薬を飲んだ後、晴香はもじもじし始めた。
膀胱がパンパンになっているのを、モニターから確認できる。
「あっ、っん」
そわそわする母体に連動されて、胎児も動き出した。
その動きが更に膀胱を刺激し、晴香は声を漏らす。

「トイレですか? もう少し待っててくださいね、すぐ写真撮れますから」
「う、うん・・・」
カメラにトラブルが発生したと装い、昌道はわざと
トイレに行かせないように、晴香を足止めした。
膨らむ膀胱。強まる胎動。我慢する晴香。
やがて、限界が来て――



投稿日 : 2010 11/14 21:54 投稿者 : 無明

晴香が立ち上がろうとしたときの動きで、膀胱に子宮の重みがかかり……
「あ」
漏れた。
「よし直った!……すいません、あとで撮り直しますね、ここ、カットしておくので。」
「ごめんなさい……」
しっかりと映像は撮れている。
あとは彼女の生活を追いかけるだけでマイナートラブルの撮影は完遂できるだろう。



投稿日 : 2010 11/14 23:45 投稿者 : 致良

トラブル系の一連の撮影が一通り終えた頃、
いよいよ晴香の出産予定日が近づいてきた。
臨月に入っていつ陣痛がはじめてもおかしくないと言う割りに、
行為でなく薬で妊娠させたせいか、晴香の子宮口および産道は
通常の臨月妊婦より硬く閉じており、まるで処女のそれである。

「さて、今日も晴香のモニター映像を堪能しましょうか」
モニターの前で、昌道はリアルタイムの子宮内模様を眺めつつ
会社から配給されたどんぶり弁当をパクパクと食べていく。
「おや、これは・・・」
突然、モニターに映られた子宮壁はぶるぶると震えだした。
筋肉の痙攣・・・いや、この場合は『収縮』と言うべきか。
「始まりましたね。最初期だから本人にはまだ感づかれないだが」
弁当を平らげ、昌道は携帯を切った。

これは、後ほど陣痛を感じた晴香の行動を
『携帯繋がらないから、直接昌道に会いに行こう』
に限定させ、移動中の模様を録画するためだ。
                   (次回は晴香サイドでお願いします)



投稿日 : 2010 11/15 00:04 投稿者 : 無明

「朝から張るし、そろそろかなぁ?」
起床して、そう思った晴香は、昌道の自宅へと移動を開始した。
何事も早め早めが肝心だ。
ぎりぎりまで耐えて、電車なんかの中で産んだら洒落にならない。
昌道に電話をかけるが通じない。
結局彼女は本人のアポなしで、昌道のもとに急いだ。



投稿日 : 2010 11/15 08:15 投稿者 : 致良

(ありがとうございます。続いて晴香サイドです、この間は昌道はずっとモニターの前です)

「うー、電車に乗る前にトイレでも行っとこう・・・」
臨月だからトイレが近い、のも原因の一つなんだけど、
前のように昌道の前で漏らすのがもう恥ずかしくて嫌だ。

便意と似たお腹の疼きもあって、晴香は駅のトイレに入った。
キレイに掃除されたトイレの便器に座り、間違って赤ちゃんまで
出さないように、軽く晴香はお腹に力を入れる。 だが――



投稿日 : 2010 11/15 13:57 投稿者 : 無明

違和感を感じた。
あまりに子宮口がピッタリと閉じているため、全く下りて来ないのだ。
おまけに便秘なので、妙な便意だけが残る。
だが深く考えるのはやめ、電車にゆられ昌道の家へ向かう。
モニターは一部始終をしっかり映していた。



投稿日 : 2010 11/15 20:07 投稿者 : 致良

「陣痛らしいものが来たのに、赤ちゃんが降りてきていない・・・ですか」
「そ、そうなの・・・昌道、何とかしてくれない?」
いつもの撮影用ベッドに横たわって、晴香は猫のように昌道に甘えた。
「そうですね、確かにそんな時のために」
昌道はある小瓶を取り出した。
「浣腸、という手がありますが・・・」
「えっ?」
浣腸と聞いて、さすがの晴香も従順になれずに身を引いた。
ただでさえ陣痛が始まろうとしているのに、と晴香は思ったが、
「やるかやらないかは、晴香が決めてください」
昌道は得意の話術で彼女を説得し、小瓶を渡した。

(当然、この浣腸液も特製の物で、利便の同時に胎動を誘発する代物だ。
これで注文された『陣痛中の胎動』が撮れると、昌道は算段していた。)



投稿日 : 2010 11/15 21:29 投稿者 : 無明

晴香は決心して、トイレに向かった。
「昌道さん。いくらバイトでも、ここまでやったんだから、責任、取ってくれますよね?」
晴香の言葉に昌道は一瞬の後、答えた。
「当然ですよ。父無し子なんて哀れですからね……」
そしてトイレに行くと、おしりをこちらに向けた晴香がいた。



投稿日 : 2010 11/16 00:45 投稿者 : 致良

「はっ、あっ、く、苦しいよぉ・・・昌道ぃ~」
「効果ありましたね、出すのを少し我慢しましょう」
お腹を抱えてベッドでもがき苦しむ晴香に対し、
昌道はやや冷たかった。甘やかしてはいけない。
「ち、ちがうの・・・あ、赤ちゃんが、あっ、ふゃあ?」
「赤ちゃんが?」
「あ、赤ちゃんがぁ、っあ、暴れて、痛い、いたいっ!」
胎児の足形がくっきりと、左に右に交互に晴香のお腹に浮かび出す。
どうやら、胎動を誘発する特製浣腸の本当の狙いが達成したようだ。



投稿日 : 2010 11/16 01:21 投稿者 : 無明

さっきから、赤ちゃんが合図を送るかのように動き、それと共に陣痛がやってくる。
おまけに浣腸のせいもあって、猛烈な便意が襲いかかってくる。
ここ2週間は確かに便秘だったが、さすがに辛い。
陣痛の痛みだけでなく、排便をぎりぎりのところで我慢する辛さは、想像を絶するものだ。
もう我慢できない。



投稿日 : 2010 11/16 10:18 投稿者 : 致良

(そろそろ頃合ですね)
苦しむ晴香を観察しつつ、昌道はひそかにモニターのパネルに近づいた。
そう、臨月なのに胎児が下に降りてないのも、制御されていたからだ。
「それでは、一枚行きますよ」
「えっ、ちょ、今は、だめ・・・はうっ!?」
降りれないロックが外され、胎児の体重と浣腸の効果が重なり、
晴香の胎児が一気に移動して、骨盤の定位置にその頭を入れた。

そして、降りてくる胎児に突然圧迫された晴香の直腸は、反射的に――



投稿日 : 2010 11/16 18:39 投稿者 : 無明

その口を開こうとする。
「!!昌道さん、もうダメぇ!!」
「大丈夫です。画像も撮れましたし、いきましょう。」


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ロック解除と排便、両方の効果があったのか出産は少しづつ進み始めた。
子宮口がゆっくりと拓いていく。
産婦にとって最も辛い時期だ。
晴香は昌道に抱きついてゆっくりと息をしている。



投稿日 : 2010 11/16 20:48 投稿者 : 致良

一定の間隔で子宮が収縮する。晴香が苦しむ。
締め付けられた胎児が暴れる。晴香が苦しむ。
胎動を受けて子宮が緊張する。晴香が苦しむ。
そして緊張する子宮はまた収縮を始まる。

ジャンケンと似た三すくみの関係でループを繰り返し、
晴香はほとんど休める暇無しに苦しまれ続けていた。
それでも、晴香はパニックに陥っておらず、頑張っていた。
頑張れる理由はたった一つ、大好きな昌道が傍にいるからだ。



投稿日 : 2010 11/17 09:01 投稿者 : 致良

「く、くる、来ちゃう、ふゃぁっ!」
晴香は悲鳴を上げる。出口へ沈む胎児の頭が子宮口を押し開けた。
子宮の形が口の開いた袋に変化していく過程は、モニターで一目瞭然だ。
「お、落ちちゃう!あっ、赤ちゃんが、おなかからおちてきちゃうぅぅ!!」
「頑張れ、晴香!」(・・・ビデオのためにもそう簡単にはさせないよ)
口から出たことに反して、昌道はひそかにパネルの黄色いボタンを押した。
それは、突然の流産や早産を防ぐための、子宮口を固める仕掛けだ。
「あっ、ひっ、ぃいっ!?」
柔らかいはずの子宮口を通る最中に突然その子宮口が固くなり、
頭を挟まれた胎児は身の危険を感じたのか、必死に足掻きだした。



投稿日 : 2010 11/17 15:16 投稿者 : マツリ

「大丈夫?」
「あ、赤ちゃんが・・・ひぃ、んぐ!」
晴香は赤ん坊が蹴る度に悲鳴をあげていた。



投稿日 : 2010 11/17 16:06 投稿者 : 致良

あれから2時間弱、発露状態のまま胎児が固定され、
無理やり難産を強いられた晴香は、地獄を見ていた。
産道より拡張性のない子宮口に頭を挟まれた胎児が栓となり、
収縮する子宮に搾り出されるはずの羊水の流れを塞き止めた。
更に、行為をして妊娠したわけではない晴香の産道は狭いままだ。
羊水の潤いを失ったそれは、ますます胎児が通れそうに無かった。
しかし、
「んっ、んんんーーー!お、お願い、早く、出てきてぇぇーー!!」
そんな事を知る術もない晴香は、諦めずにいきみ続けていた。
パネルでロックを解除されない限り、絶対生まれてこないはずなのに。
「晴香・・・」
昌道は、そんな晴香に心を打たれた。



投稿日 : 2010 11/17 16:09 投稿者 : マツリ

しかし仕事のためには後10分我慢させなくてはならなかった。
「ちょっとお腹押すよ。」
昌道はみるにみかねてボタンは解除しなかったがお腹を押すことにした。



投稿日 : 2010 11/17 16:39 投稿者 : 無明

しかし胎児はしっかりとはまっており、動かない。
晴香はそれでも諦めずにいきむ。
(後1分ほしいところでしたが……仕方ないですね。)
昌道は諦めてロックを外した。
胎児がゆっくりと下り始める。
だが、処女のままである晴香の産道は、まだ青い果実のように堅く、こわばっていた。



投稿日 : 2010 11/17 17:33 投稿者 : ゆうり

「な、なんで・・・。」
晴香は不安そうだ。
「大丈夫だから。」
昌道は晴香を落ち着かせる。



投稿日 : 2010 11/18 08:21 投稿者 : 致良

通常の産婦より三倍ゆっくりと回転して、
胎児は晴香の産道を広げて着実に進んでゆく。
生命の神秘、とても言うべきなんだろうか。
「ンンンーーーッ!!」
性経験のない晴香にとっても、これは初めての刺激であった。
痛すぎでマヒしかけた脳は、自己防衛も兼ねて快楽物質を作り出す。
それが絶頂に達し、晴香の脳を真っ白にした。
(やっと来たか・・・これで晴香も出産の虜に・・・)
昌道は、しめしめと軽く口を吊り上げる。



投稿日 : 2010 11/18 18:09 投稿者 : 無明

「はぁ、はへぇ、はひぃ……ああっ、く、うううううう~~~~~~!!」
快楽、苦痛、不安、喜び。
様々な感情が晴香の中でごちゃまぜになる。
昌道の前でいくら情けない姿を晒そうとも、今の晴香には関係なかった。
「降りてきましたよ!頑張って!」
昌道の声と本能を頼りに、ただ、産もうとする。
晴香はすっかり、この感覚の虜となっていた。



投稿日 : 2010 11/19 20:52 投稿者 : 致良

昌道のシナリオ通り、産道を拓いて進む
晴香の胎児はまた、動きを止めてしまった。
図太く脈打つへその緒が体に絡んたせいで、
再び子宮口に引っ掛かってしまったのだ。

頭が挟まれたのと違って、今度は酸素が足りない。
産道を通る最中、苦しみで胎児がまた暴れだした。



投稿日 : 2010 11/20 00:47 投稿者 : 無明

こればかりはどうしようもない。
昌道は、晴香にいきむよう言うほかなかった。
そのたびに体を強張らせいきむ晴香。
やがて、臍の緒も少しずつ産道に入り込み、再び酸素を胎児に送り込む。
またしてもゆっくりと、胎児は進む。
その感触は、晴香にとっては未知の感覚。
だがふしぎと、体は素直に動いていた。



投稿日 : 2010 11/20 12:18 投稿者 : 致良

「んはぁあああんんんーーー!!!」
やがて、断末魔にもイッたにも聞こえる晴香の絶叫をBGMに、
子宮内に残った羊水と共に、胎児は尻まで産道を抜けてきて――



投稿日 : 2010 11/21 22:09 投稿者 : 無明

「産まれた!!女の子だ!!」
昌道の声が響く。
晴香は完全に「昇天」していた。


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1ヶ月後。
「ちょっと体に負担はかかりますがどうです?当然、報酬も数の分だけ弾みましょう。」
昌道のマンションに、再び晴香は足を運んでいた。
娘の小春を連れて。
昌道に再び仕事の斡旋を受けに来たのだ。
今度の仕事内容は……
「多胎妊娠の胎内の様子の撮影」。
それを聞いて晴香は無言でほほえみ―――



終わり?


            関連作品:ワケラレ




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