ラッキープレグ

一部、読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂いた部分がございます。(熊猫)
一部、明らかなミスタイプがございますが、そのままにしてあります。(熊猫)

一部、名前の表記違い(かな、カナ 等)がございますが、そのままにしてあります。(熊猫)

投稿日 : 2010/11/14 13:39 投稿者 : 致良

(ラッキーライフの最後から14年たった後の世界です。前作参照。
 あと、お母さんはもう妊婦にしないで欲しい、もう高齢なので)

ボクの名はゆき、今年…正確的には今回の人生では20歳だ。
大学に進学せずに就職し、とある会社で少し地位も獲得していた。
それなりに順風満帆の人生を歩んでいると思っているが最近、
二つだけ、長女だからこその気になることが出来ていた。

一つは、二卵性双子の妹のあきが、妊娠したと報告してくれたことだ。
高校卒業で晴れてお嫁さんになっていたあきは、結婚二年目にして
初めての子供が授かれた。姉としては祝福してあげたいことだ。

そしてもう一つは、ボクより6歳年下の三つ子たちのことだ。
四人姉妹の年下組みのみきとさきが、揃って子供から女になってきた。
かわいそうな末弟が、毎晩保健体育の授業をさせられているらしい。
さすがに本番まではないだろうけど、万が一出来てしまったら・・・

「はぁ・・・ん? あの子鬼からのメール・・・?」
嘆いてみきとさきを叱ろうと算段するボクだが、
携帯に表示されるメールに気付いた。
そのメールの内容は――



投稿日 : 2010 11/14 14:20 投稿者 : 無明

「お元気ですか?あなたもさすがに新たな人生に慣れてきたことでしょう。
生命に取ってもっとも重要な仕事は、次の生命を残すことです。」
不穏な一文。
見なかったことにしようとして携帯を閉じると、今度は別の着メロが流れ始めた。
デーデレレーデーデレレー♪
ロボットアニメのBGM。
見たことはないけど、ゲームに出てきて出てきては、
倒したかった敵をあっさりやっつけていくから、弟と一緒に悔しがったなぁ。
メールは弟からだった。
「このままじゃみきとさきに殺される!なんか逃げるいい方法ない?」
あの二人には今晩こそお灸を据えよう。
はぁ、とため息を付いてデスクから立ち上がる。
コーヒーでも買おうかとおもったらよりによって同僚の諸澤くんとであってしまった。
「先輩!今日こそ飲み会どうすか!?」



投稿日 : 2010 11/14 17:25 投稿者 : 致良

(厄介なやつが来たな・・・弟との約束が先にあったのだ、断ろう)

「ごめん、今日は無理、なんか胃の調子が悪くて・・・」
「そうすか」
残念そうな顔をする諸澤くん。
ボクに好意を持っているのは分かるが、生憎ボクの中身は男だ。
体は女だから欲求不満に陥ることもあったが、男に興味はない。
それに、あながちボクは嘘を言っているわけでもないだからだ。

胃の調子が悪いというか、なぜか一日中時々吐き気を感じる。
症状が始まったのは三日前だ、当時は飲みすぎだと考えたが、
三日も続いたから、何らかの病気かもしれないな。
明日にでも、病院へ行ってなんかの薬をもらおう。

今はとりあえず、家族の長女(あきと双子だけど)として、
弟の苦悩・・・思春期真っ盛りのみきとさきを何とかしよう。



投稿日 : 2010 11/14 18:00 投稿者 : 無明

それにしても、正直変な気分だ。
ボクの心にはれっきとした「男」の感情があるのに、
胸はおそらく姉妹間でいちばんあるし、生理も妹より早かった。
「はぁ、なんでこうなったのかな……」
しばらく歩いていると家に着いた。
いつものようにドアをノックして一声。
だが今日は、少し違った。
「ただい……」
「ゆき姉ちゃん!助けてぇえええええ!!!」
弟の悲痛な叫び!
「今日こそ逃さないからね!!」
「覚悟なさいませ!!」
耳に残るシャ●とかル●ズそっくりの声とわざとらしいお嬢様口調の声があとに続く。
またやってるな……



投稿日 : 2010 11/14 18:52 投稿者 : 致良

「こらぁ! みき、さき、やめなさ――」
喉に力を入れた、その時だった。
ボクを苦しませる謎の吐き気が、
よりによってここで襲ってきた。
「――いっ、っう、うぶっ!?」
思わず口を塞いで、玄関のすぐ傍にあるトイレに駆け込む。
洗面に水を流して、ボクはつっかえてた物を吐こうとした。
「おぇっ、うぇぇ・・・」
しかし、そもそも何も無かったので、唾しか出てこなかった。
ボクをあざ笑っているように、水が流れる音がむなしく響く。
「はぁ、はぁ・・・もう、一体なんなのよ・・・」
出ないなら仕方が無い、頭を上げてボクは水を閉めた。

「ゆき姉ちゃん、もしかして・・・」
トイレの入り口でボクの奇妙な行動をじっと見ている末弟。
「「赤ちゃん出来ちゃってる!?」」
その後ろにいる同じ顔の妹たちは、同じ声で同時に騒ぎ出した。

しかし、当然ながらボクはそのような行為をしたことないし・・・
(まさか!?)
悪い予感がして、ボクは携帯を取り出しメールフォルダを探した。
すると――



投稿日 : 2010 11/14 19:53 投稿者 : 無明

小鬼からのメールと、諸澤くんからのメールだ。
小鬼からのメールは予想通り。
ボクの妊娠を告げるメールだった。
そして諸澤くんからのメールは、意外なものだった。
なんと彼は、二ヶ月前の飲み会の帰り、ボクを泊めてくれたが、
酔い潰れたボクを眠っているあいだに犯したという。



投稿日 : 2010 11/14 20:23 投稿者 : 致良

ボクはすぐ、これは仕組まれてあったことに気付いた。
いくらなんでも、犯されてそれを気付かないほどボクは鈍感ではない。
小鬼の仕業だ。あいつ、ボクの妊娠を合理になるように、
諸澤くんの記憶まで改ざんしやがって・・・

「ゆ、ゆき姉、ちゃん・・・?」
「「ねぇねぇ、何ヶ月なの?パパは誰なの?ねぇってば!」」
一気にボクから遠く離れていく弟と、迫ってくるみきとさき。
これはもう、ごまかすことが出来ない・・・従うしかない、か。
記憶がいじられたなら、諸澤くんなら責任も取ってくれるだろう。

「・・・まだ、分からないわ。今度の日曜日、病院いくから・・・」
ボクは、自分の『運命』を受け入れた。



投稿日 : 2010 11/14 20:40 投稿者 : 無明

「一体どういう事です、ゆき姉さま。急に妊娠がわかるなんて、おかしくありませんこと?」
本当にわざとらしいお嬢様口調でさきが問い詰めてくる。
「そうよ、絶対おかしいわ。だいたいゆき姉って、好きな人いないでしょ?」
やたら耳にのこるアニメ声でみきも続く。
「お姉ちゃんが好きな人、はいないんだけども……
ボクの、お姉ちゃんのことが好きな人、ならいるんだよね……
本人からもメールきたし。寝てる間にやっちゃった、って。」
そういった瞬間声を上げたのはみきだった。
「ひっど~い!!何そいつ!嫁入り前のゆき姉に何してんのよ!!
眠らせてそれでから襲うとか最低!ヘンタイ!ヘンタイ!!」
弟襲おうとしてた人の言うこととは思えない。



投稿日 : 2010 11/14 21:29 投稿者 : 致良

そしてその週の日曜日。

「呼ばれるまでしばらく腰掛けてお待ちください~」
ボクは今、『産婦人科』という、この一生とは無縁だと思った場所にいる。
犯されて出来てしまって、それを確かめに来たと思えば、実に恥ずい。
いや、『ボクだけ』ならばそんなに恥ずかしくなかったかもしれない。

恐らくみきかさきかが先日の夜のことをばらしたのか、
二卵性双子の妹のあきがボクと一緒に病院に来ていた。
5ヶ月検診という名目で来たのだが、実はボクの事がメインなんだろう。
生まれる前から一緒にいたあきだ、ボクの考えもそれなりに分かるはず。
これだけは、今のボクにとっての救いであった。



投稿日 : 2010 11/14 22:09 投稿者 : 無明

(ほんとに偶然?何かあったでしょ。)
(そんなことないよ。偶然だから……)
だけど本心とは裏腹に、どうしても言葉は嘘を付く。
「まぁ彼は感じいい人だもんね。良かったんじゃない?」
いろんなコトをしゃべっていると、いよいよボクの番が回ってきた。



投稿日 : 2010 11/14 23:03 投稿者 : 致良

「おめでとうございます」
案の定、ボクのなかには8週目となる小さな命が宿っていた。
小鬼がやらかしたものなんだから今更驚くことも無いと思ったが、
医者に告げられた言葉はボクの心に思いかけない一撃を加えた。

その言葉は『胎芽が二つ確認されている』という判決だ。

これが意味するのは、たった一つ。
ボクは『二卵性の双子』を妊娠していたことだ。
そりゃ、確かに双子は双子を生む確率が高くなるけどさぁ・・・やれやれ。

その後、お腹に一人だけ(それが普通だが)のあきの検診も終わった。
母子共に健康体で、現在20週でそのうちに胎動も感じれるらしい。
「久しぶりに会ってたし、この子のパパ紹介してくれない?」
さりげなく、あきはボクのお腹に手を当ててたずねてくれた。
「じゃ、諸澤くんを呼び出してどっかで食事をしようか」
仕組まれたとはいえ、今ボクのお腹にいる『既成事実』を
認めさせるチャンスと思って、ボクは携帯を取り出した。



投稿日 : 2010 11/14 23:21 投稿者 : 無明

「先輩………すいませんっ!!」
電話をかけて事実を告げると、開口一番彼は大声で謝罪した。
「っ!……もうちょっと声のボリューム落としてよ……」
「まさかそうなるなんて、あの時は考えてなかったんです!
 でも、俺は先輩が大好きなんです!!責任だってとります!!俺はどうなっても先輩についていきます!
だから……だから俺と……」
そこまで言わせてボクは言葉を遮った。
「あのさ、電話越しに、しかもこっちの状況も考えずにプロポーズする男がいると思う?」
そこで一呼吸おいて、
「だったら、今から2丁目のイタリアン、来てくれる?」
「はい!!」



投稿日 : 2010 11/14 23:26 投稿者 : ゆうり

「はぁ?。」
電話を切るとため息をついた。
「諸澤くんくるみたいね。」
あきはニコニコしながら言った。
「うん。」
「まさかお姉ちゃんが子供作るとはね。」
俺が男だった事実を知っているあきは意外そうに言った。



投稿日 : 2010 11/14 23:46 投稿者 : 無明

「偶然だよ。本当に。」
そんな二人の様子を物陰から見つめる二つの影。
みきとさきだ。
「ゆき姉にやらしいことしたド変態が来るわよ。準備はいいわね?」
「当然。みきの方こそよろしくて?」
「とっとととっちめて帰るのよ。じゃないと今日も失敗しちゃうわ。」
「わかりましてよ?」



投稿日 : 2010 11/14 23:57 投稿者 : ゆうり

二人はにこっと顔を見合わせて行った。
「あ!こんなとこにいたの?」
末弟の璃希(りき)が追いかけてきたのだ。
「ちょうどいいわ。あなたもみるのよ。」
あっさりつかまっていた。



投稿日 : 2010 11/15 00:17 投稿者 : 無明

一台のタクシーが店の前に停まったかと思うと、中から諸澤が下りてくる。
びしっとしたスーツを着こなし、右手には小さな紙袋。
緊張した、堅い面持ちだ。
そして彼は一度深呼吸して首もとのネクタイを締めると、一歩を踏み出した。
同時に末弟を連れ、姉妹も飛び出す!!



投稿日 : 2010 11/15 00:49 投稿者 : ゆうり

「「あなたが諸澤ね!?」」
姉妹二人が諸澤の前にたった。
「そうだけど、君たちは?」
まぁ、そうなるだろ。
「みき、さき!なにやってる?璃希までつれてきて。」
「おねぇちゃ~~~ん。」
璃希は俺のもとにきた。



投稿日 : 2010 11/15 00:55 投稿者 : 無明

<できれば妹は別々のセリフがあるイメージで……>


「まったく、ふたりともいい加減に………」
「ごめんなさい……」
「………」
「まぁまぁ先輩、元気でいい妹さんじゃないすか。」
大して起こっていない彼を相手に、ボクは問う。
「諸澤くん。」
「はい?」
「単刀直入に言うよ?ボクのお腹には、赤ちゃんが二人いる。」
「双子…ですか?」
「だから、何が起こるかわからない。お金だって、普通以上にかかる。それでも、キミはボクと結婚するの?」
そして、すぐに答えは帰ってきた。
「当然です!ここで逃げる男こそ真のクズです!!」



投稿日 : 2010 11/15 01:05 投稿者 : マツリ

「だって、お姉ちゃん。」
あきはニコッと笑いながら言った。
「お姉ちゃ・・・。」
不安そうな末弟。
末弟だからちょっと甘やかし過ぎたかな。



投稿日 : 2010 11/15 08:06 投稿者 : 致良

こうして、ボクはめでたく(?)『諸澤ゆき』という新たな名前と
新たなマイホーム・・・マンションの一室を、手に入れた。

あれから3ヵ月後、妊娠も安定期に入ったボクが結婚式を上げた。
この時期を選んだ理由はお金の問題とかいろいろあるが、
最大の原因はボクのツワリのせいであった。双子だから辛さも二倍だ。

「似合うわよ、ウェディングドレス」
「あき、二人っきりの時にはお世辞は無しでいいから・・・」
「あら本音よ? ほら、鏡を見て」
式場の控え室の中。あきに言われて、ボクは壁の方を見た。
鏡に映し出されたのは、
双子だから5ヶ月にしてもう既にお腹が前にせり出しはじめた、お嫁さんな格好の熟れた体。
「・・・こうしてみると、お腹本当に大きくなってきたね」
感傷に浸るボクに楽しい思いをさせようとしているのか、
「そろそろ胎動も感じれるはずよ? ほら、こんな感じでね♪」
あきはボクの手を引いて、その8ヶ月のでかいお腹に当てさせた。
すると――



投稿日 : 2010 11/15 08:56 投稿者 : ゆうり

グニュ
と何かが動く感じがした。
「もしかしてこれが胎動?」
俺はふいにお腹を押さえた。



投稿日 : 2010 11/15 09:38 投稿者 : まきお

「わっ」
グィッと、ボクの手は押し返された。
赤ちゃんの足・・・みたいな、硬いなにかを感じる。
あきには言えないけれど、はっきり言って、かなり気色悪い。
こんなお腹の中でうごめく怪物が、ボクの中にも二匹いるとか・・・
「・・・・・・」
背筋がぞっとする。
元々望んで妊娠したわけではないが、今更取り消しも効かないだろう。
悪の根源である小鬼を呪いつつ、ボクは手をあきのお腹から離れた。
そろそろ、結婚式が始まるごろだ。



投稿日 : 2010 11/15 12:44 投稿者 : ゆうり

あきは親族の席にいったみたいだ。
扉の前にいくと父が待っていた。
「ゆき、本当にいいのか?」



投稿日 : 2010 11/15 13:40 投稿者 : 無明

「正直、まだ不安だよ。」
父にそうつげたが、少しづつ決心が出来ていた。
ボクに宿った命は、誰にも否定出来ない。だから、ボクは 母として、女として生きるのだ。
そしてボクは父に手をひかれ、式場に歩を進めた。



投稿日 : 2010 11/15 14:07 投稿者 : ゆうり

扉が開き、いよいよバージンロードを一歩一歩歩き始めた。
そして諸澤のもとへきた。
父は私を諸澤にたくし、親族席へ行った。



投稿日 : 2010 11/15 14:14 投稿者 : 無明

「ゆき姉!すっごく綺麗だよ!」
たくさんの拍手の中でもみきの声は目立つ。
さきやあきも笑顔だ。
ボクは、もしかしたら今、すごく幸せなのかもしれない。
そうかんがえると、
頑張っていける気がした。



投稿日 : 2010 11/15 14:22 投稿者 : ゆうり

「ゆきさん、幸せにしますね。」
諸澤はにこにこしながらいった。
「ぅん。」
ボクはお腹をさわりながら頷いた。



投稿日 : 2010 11/15 19:55 投稿者 : 致良

「おはようございます」
「おはようございます、諸澤さん」
婚儀の翌日、ボクも諸澤くん(これからは夫と呼ぶべきか)も、
ハネムーンを楽しめるはずも無く、いつも通りに出社した。
「諸澤さん?」
「えっ?ああ、ボクのこと、ですよね・・・」
また新しい苗字に慣れてないが、じきに慣れるようになるだろう。
まあ名前はさておき、ハネムーンをやらない理由は主に二つある。

「諸澤さん、このファイルにチェックいれて~」
「はい、後ほどお返しします」
一つは家計が火の車で、将来増える家族も考えたら、
そんな非生産的な活動に費やすお金が無かったこと。
「無理しないでちょくちょく休んでね、諸澤さん」
「ありがとう、そうします」
もう一つは、ボクは諸澤くんの裸を見たくないこと。
これは当然だろう、ボクは男色に趣味が無いからな。

「諸澤さん、電話2番、お願い」
「ノンカフェインのコーヒーをどうぞ、諸澤さん」
「諸澤さん~ねぇ聞いてよ~」
お腹にいる『ボクの赤ちゃん』のために、今はせっせと働かこう。
甘える暇も、弱音を吐く暇も、ボクには許されていないのだ――



投稿日 : 2010 11/15 21:36 投稿者 : 無明

諸澤くん―――いや、旦那もちゃんと働いているし、生活そのものはうまいこといっている。
ボクももう決心がついた。
最近の悩みも、以前とあんまり変わらない。
みきとさきの魔の手から逃れるために、りきがよく転がり込んでくるのだ。
りきの方も、旦那と仲良くしている。
やはり父以外に男がいるということは大きいものなのだろう。
すっかり薄れてしまった前世の記憶は、もう思い出せない。
そして早めに産休を取り、8ヶ月も末になったある日、あきが産気づいたとみきから電話があった。
検診も近いから寄っていってあげよう。
学生時代に鍛えた身体のおかげか否か、多胎とは思えぬ健康状態らしい。早産の心配もないそうだ。
ただ歩くのはきついので、旦那が車で送ってくれるのだ。
「いや~、カッコ付けて買ったこのフェアレディが役に立つなんてなぁ……」
「産まれたら、とっとと売ってくれないと新しい車が買えないよ?」
そんなやり取りをしつつ病院に急ぐ。



投稿日 : 2010 11/15 22:02 投稿者 : 致良

「ごめん渋滞で遅れちゃって、あきは?」
「たった今手術室に行ったわ!」
病院に到着した時、ちょうどあきは陣痛室から運び出された後だった。
みきの話によると、42週目のあきはもう自力分娩は困難だと診断され、
帝王切開で赤ちゃんを取り出さないと母体も危ないと判断されたのだ。
「手術室か・・・今ならまだ間に合うかもしれない、ゆき!」
「うん!」
一回旦那と視線を交わし、ボクは手術室の方へと急行した。
そんなに難しい手術ではないとはいえ、腹を切るには違いない。
今しないともう二度とあきに会えない、双子だからの嫌な予感がする。
「――あき!」
ボクは、ベッドごと手術室に運ばれようとされているあきを呼び止めた。



投稿日 : 2010 11/15 23:21 投稿者 : マツリ

「はぁ、はぁ・・・あれ?お姉ちゃんきてくれたの?」
あきは呼吸は荒かったが嬉しそうにいった。
「大丈夫か?」
俺は心配そうに言った。



投稿日 : 2010 11/15 23:53 投稿者 : 無明

「赤ちゃんがね、なかなか出てきてくれなくて……」
「わかってる。でも、なんかもう会えない気がして……」
「そんなことないよ。すぐに戻って来るって!」」
そして運ばれていくあき。
「はぁ、はぁ、あき!!」
いつの間にかあきの旦那さんの、隆也さんも来ていた。
軽く挨拶を交わして、あとは二人であきを心配していた。


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数時間後。
「相羽さん。生まれましたよ。元気な男の子です。」
その一報で、一気に顔を綻ばせるボクたち。
「奥さんも無事ですから。旦那さんはこちらに。」
そして隆也さんは大きな赤ん坊を抱いたあきのもとに急いだ。
ボクは何よりもあきが無事だったことが嬉しくて大泣きしてしまった。
その様子を見た旦那と家族みんなが心配していたのは言うまでもない。



投稿日 : 2010 11/15 23:59 投稿者 : ゆうり

そして病室に運ばれたあきを追ってボクたちもあきの病室に入った。
ボクは身重のため、椅子に座らせてもらえた。

そして赤ちゃんを抱かせてもらった。



投稿日 : 2010 11/16 00:31 投稿者 : 致良

<あきの出産から一週間後>

「あき、入るよ」
軽く『相羽あき』と言う名札が付いている木のドアを叩き、
病院での9ヶ月検診のついでに、ボクはあきの病室に来た。
「あ、お姉ちゃんだ♪」
「あっ、ご、ごめん・・・」
ちょうど、赤ちゃんに乳をあげようとしている所だった。
間が悪かったみたいで、ボクは病室から出ようとする。
「いいよ、同じ女の身なんだし。それに・・・」
言葉でボクを引き止めて、あきはにっこりと笑って、
「もうすぐ、ゆきお姉ちゃんの番だからね」
双子が宿っているボクのお腹に目線を落とした。

「・・・そう、だね」
ベッド横に重たい腰を落とし、ボクは感傷に浸った。
「ホントに・・・ボクはお母さんになろうとしてるのね・・・」
予定日まで、いよいよ残り60日を切った。もう二ヶ月も無い。
あの小鬼がやったんだから、恐らく予定日に産まれるのだろう。
「この中にも、ボクたちのような『魂』が入っていたのかな・・・」
まさかまた抽選で決められたのではないのかと、 冗談半分にボクはお腹に両手を当てて、
あきと念話する時のように思念波を送った。

(――あなたたち、もしこれがきこえたら、ママのてをけっておしえてね)



投稿日 : 2010 11/16 00:49 投稿者 : ゆうり

それに反応するようにお腹を蹴った。
(間違いない。抽選で決められたんだな。)
おれはそれを確信につなげた。
「そういえば、亜希の子供の名前って何だ?」
そういえばきいてなかったな。



投稿日 : 2010 11/16 01:05 投稿者 : 致良

「当ててみない?ヒントは『秋』にちなんだ名前よ」
「うーん」
子供時代に戻ったように、ボクに無理難題を出すあき。
しかし、さすがに『秋関連』だけじゃ範囲は広すぎた。
「じゃもう一つヒント、この子は『42週も』あたしの中にいたこと」
「42週も・・・秋・・・そうか、もしかして――」
手を鳴らし、ボクは思い浮かべた答えを口にした――

「・・・みのり、ちゃん?」
「あたり! さすがお姉ちゃん!」
時間かけてあきの中で熟成した『大いなる実り』と、
あきと言えば『実りの秋』。この二つをかけた名前だ。



投稿日 : 2010 11/16 08:46 投稿者 : 致良

「そう言えばお姉ちゃんはどう? その子たちの名前、もう決めてた?」
「それは・・・ほら、この子たちの性別だってまだ判んないし・・・」
さっき蹴られて少し張ってきたお腹を撫でて、ボクは目を閉じた。
そう、なぜか今までのエコーは一回も性別判別に至ってないのだ。
これも多分、仕込まれていたちょっとしたサプライズなんだろう。
「だったらさ、直接赤ちゃんたちの魂に聞いてみない?」
「無理だよ、ボクも生まれてはじめて女の体だって・・・」
「それも、そうね・・・」
一気に重くなる雰囲気。ボクは本当に場を盛り下げる才能があるかも。

「えと、そうそう、みきとさきは? 二人とも、そろそろ高校受験じゃん?」
落ち込むボクを見ての行動か、あきは話題を双子の妹に切り替えた。
「ああ、二人はね・・・」
渡りに船だ、その話題に乗るボク。難しいこと考えるのをやめた。
お腹の双子の名前は、また今夜でも旦那と相談してから決めよう。



投稿日 : 2010 11/16 09:08 投稿者 : ゆうり

「え~みきとさき、そんな成績なの~?」
「うん。リキは成績がいいみたいだけどね。」
その後は妹弟の三つ子の話で盛り上がっていた。
「あ、そろそろ時間だ。」
俺は座っていた椅子から立ち上がった。



投稿日 : 2010 11/16 10:05 投稿者 : 致良

「・・・今日はお腹の調子が良いだし、たまには自分でやるか」
自宅へ帰って、ボクは掃除機を取り出してスイッチを入れた。
赤ちゃんが出来ちゃって結婚してから、旦那の好意で一度もこうやって家事に勤しむことは無かった。
元は男とはいえ、妻子失格かもしれない。
「~♪」
傍には騒音なのに、掃除機を操る本人にはその声は心に安らぎを与える。
テレビの雑学番組によると、この音は胎内の音とリズムが似ているらしい。
ボクの呼吸音も心音も、お腹にいる二人にはどう聞こえるのだろうか?
「あら?」
ふと、ボクのお腹から『ぐー』っと情けない腹減り音が鳴った。
それに反応して、お腹の双子が一斉に活発に動き出す。
「ちょ、ちょっと、それはゴングの音ではないんだから・・・」
マタニティの上でも確認できるほど、ボクのお腹が大きく揺れた。
中でプロレスでも始めたのか? ママの子宮はマットじゃないよ?
「・・・このうごめきも、もうすぐ感じれなくなってしまうのね」
最初は怖がっていた胎動も、長く付き合ったら今はもはや愛嬌のあるもの。
お腹の子たちがボクから出てきたら、当然ながらもう感じれるはずがない。
そう思えば、なんか少し寂しくなってしまうよね・・・
(あなたたち、ばんごはんなにがたべたいものある?)
お腹の双子に思念波を送りつつ、ボクはキッチンへ向かった。
産休に入ってから、母になるために最近は料理の修業もしているのだ。



投稿日 : 2010 11/16 12:27 投稿者 : マツリ

昼御飯だから簡単に野菜多めのチャーハンにしたけど。
「いただきます。」
食べているとお腹を蹴ってくる。
これは美味しいといってるのか?



投稿日 : 2010 11/16 18:52 投稿者 : 無明

「ふあぁ……眠い……」
食事の後はやっぱり眠くなる。
ボクのことを気遣ってか、旦那はコインランドリーで自分の服を洗ってくることが多い。
幸い今日は洗濯物も少ないし、寝ようかな?
そう思っていると、玄関の呼び鈴が連打される。
またか……
そして億劫ながらも扉へ向かって鍵を開けると、なんとりきではなくさきがいた。
「ゆき姉様………どうしましょう……」
「急に血相変えてどうしたの?お姉ちゃんはなんでも聞くよ?」



投稿日 : 2010 11/16 19:18 投稿者 : ゆうり

「ミキと二人でリキの大事なのをさわっていたら、リキが白いねっとりとした尿を出したんです!」
ブッー

ボクは飲んでいたオレンジジュースをふき出した。
「リキは病気だと塞ぎ込んじゃうし、で今、ミキがついてるけど・・・。」


泣きそうなサキ。



投稿日 : 2010 11/16 19:26 投稿者 : 無明

「あのね、学校で習ってないの?」
「はい?」
「弟を射精させといて、なにが病気よ……」
「え……!!……」
そういうとさきは顔を真赤にしてうつむいてしまった。



投稿日 : 2010 11/16 19:28 投稿者 : ゆうり

「とにかく今度リキをつれてきなさい!」
「わ、わかったぁ~~。」
サキは自分の家に帰っていった。
さてと昼寝~~。
俺がウトウトし始める頃にまた呼鈴がなる。



投稿日 : 2010 11/16 20:40 投稿者 : 致良

「はーい、おひさしぶりでーす」
意外なことに、呼び鈴を押したのは予想の弟と妹たちでは無く、
ボクをこのような体にしてくれた、あの小鬼だった。
「おっと勘違いなよ、あなたは予定日びったりに出産しまーす」
思わずお腹を庇ったボクを見て、小鬼はノーノーと言った。
どうやら、ボクを早産させるために来たわけではないようだ。
「・・・・・・じゃ、何の用?」
「いつも通りのアフターケアデース」
小鬼は懐から巻物を取り出した。今度は何を宣告する気だ?
ともあれ、ボクにとっての『人生のイベント』に違わないだろう・・・



投稿日 : 2010 11/16 20:46 投稿者 : ゆうり

「このまま普通の妊婦さんじゃつまらないじゃない?
 だから臨月前に一度ハプニング起こす予定なの。やっぱ妊娠にはハプニングがつきものでしょ?」
小鬼はニコニコしながら言った。
「わざわざ忠告にきたのか?」
「ううん。このくじでその内容を決めるからくじひいて。」
小鬼はどこからかクジを持ち出してきた。
ボクは適当に引いた。



投稿日 : 2010 11/16 23:13 投稿者 : 無明

「OK!決まりました~。」
すると、ぐりゅ、っとお腹の中で胎動があった。
まさか赤ちゃんに………
「イヤイヤ、今のは偶然ですよ?内容は教えません。ですが、出産に関わるもので~す。」
そして小鬼は、そのまま歩いて帰っていった。
不安だ……



投稿日 : 2010 11/16 23:21 投稿者 : ゆうり

それから何事もなく、数日たち、9ヶ月半ばにはいった頃だった。
「っう!」
いつものように部屋で寛いでいると赤ん坊が蹴る痛みではない、
我慢できない強烈な痛みがお腹に走り、その場にうずくまった。
「ゆき姉ちゃん、大丈夫?」
今日はたまたまリキが家に転がり込んでいた。



投稿日 : 2010 11/16 23:51 投稿者 : 無明

りきが慌てて連絡してくれて、病院に直行。
「まぁ、双子ですからね。妊娠陣痛は結構起きやすいものですけど心配ないですよ。」
これが小鬼の言ってたことかと思えば違うらしい。
よく考えれば予定日までは持つと言ってたからね。
ほっとしたボクは、赤ちゃんのいるお腹を撫でた。


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チク、タク、チク、タクと小鬼の持つ時計が時を刻む。
「さて、出産に関係あることなのは事実だよ?どれだけ長引くのかな?出産。」



投稿日 : 2010 11/16 23:57 投稿者 : ゆうり

「まぁ、子供共々死なない程度かな。」
小鬼は不穏な笑みで呟いた。
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「ゆきさん、大丈夫!?」
リキが連絡してくれたらしく旦那が迎えにきた。
リキは今、飲み物を買いにいっている。



投稿日 : 2010 11/17 00:06 投稿者 : 無明

「ん、大丈夫。明日には帰れるって。」
その時の旦那の表情は、みっともないったらなかった。


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いよいよ臨月。
予定日まではまだまだある。
健康状態に太鼓判を押され、今までと変わらない生活を送っている。
最近はりきだけでなく、みきとさきも頻繁に遊びに来る。
「いい?お母さんのことあんまり困らせちゃダメよ?もしできないなら私が許さないからね!」
実にツンデレっぽい声で、みきがお腹に向かって言う。
「そ、それはさすがにまだわからないのでは……?」
さきは戸惑い気味だ。
いつものお嬢様口調じゃなくて素が出てる。



投稿日 : 2010 11/17 00:19 投稿者 : ゆうり

「男の子だったらみのりも合わせて遊んであげるからね。」
リキはボクのお腹を撫でながら嬉しそうだ。

「女の子だったら服選んであげよ。」
「私もご一緒しますわ。」



投稿日 : 2010 11/17 09:42 投稿者 : 致良

「二卵性だからね、男女の双子だったかもしれないよ?」
ボクのお腹を撫でるりきの手に反応して強まる胎動もあって、
入れ替わりにみきとさきの声に反応する強まる胎動もあった。
子宮全体で感じたので正しいのかは分からないが、
心なしに二種類の胎動は微妙にくせが違っていた。

「生まれてからの楽しみって事ですね、分かりますわ」
「こんなに動いてるし、さきたちのこと判るのかな?」
りきに独占されるのは嫌なのか、それとも女として興味あるのか、
期間限定の『ゆき姉の臨月腹さわり隊』にみきとさきが加わった。

「話しかけてみてみ? お腹蹴って返事してくれるかもよ?」
「ほんと? じゃまずはーー」
予定日で生まれる、つまり『予定日までは産まれない』事だ。
小鬼が無意識に漏れたこの情報は、ボクをかなり安心させた。
なぜなら、それは『少し無理をしても良い』と宣告されたのと同じだから。

「「はい質問でーす!さぁどっちが『みきちゃん』でしょ?」」
同じ顔で、同じ声で、同じアクセントで、同じテンポで、
ボクのお腹の左右に立ち、みきとさきは同時に質問した。
一卵性双子だけあって、ボクだって間違いそうな難題だ。

この難題に対して、ボクの中の赤ちゃんたちは――



投稿日 : 2010 11/17 11:28 投稿者 : ゆうり

右側を蹴ったのだ。
「右がみきか?」
「当たり!」
「あってますわ!」
さきとみきは驚いているみたいだ。



投稿日 : 2010 11/17 12:36 投稿者 : 致良

「こ、こんなの偶然に決まってますわ!」
当てられて悔しいのか、ツンデレお嬢様口調になるみき。
「二問目よ!今度はりきの番ね、やっちゃって、りき!」
「えと、で、では――」

結果、あれから延々と30分も続いて10問ぐらい試されたが、
判読困難の胎動もあったけど、正解率はなんと8割を超えていた。
答案用紙(?)にされて、散々お腹の中の赤ちゃんたちにどしどし蹴られたが、
ボクたちは楽しい一時を過ごした。

「さて、そろそろ晩ごはんの買出しでもいくか」
「手伝いますわ、ゆきお姉ちゃん」
「わたくしもお手伝いしますわ」
臨月に入ってから少々運動不足なので、
体力鍛錬も兼ねてボクはみきとさきを連れて、近所のスーパーへと出かけた。



投稿日 : 2010 11/17 12:53 投稿者 : ゆうり

りきは途中であきたのかボクのベットで眠っていたため、起こさないでいてあげた。
「ゆきお姉さま、今日は何になさるのですか?」



投稿日 : 2010 11/17 13:50 投稿者 : 致良

「そうね・・・あらっ・・・」
何の前触れも無く、歩きながら献立を考えるボクに、
「いたっ・・・あたたた・・・」
例の胎動じゃなくて我慢できない強烈な痛みがお腹に走った。

「ゆきお姉さま!」
「大丈夫、いつものアレだわ・・・薬を、お願い・・・」
「これですよね?はい、お姉ちゃん」
電柱にもたれて、ボクはさきが出した張り止めの薬を飲んだ。
臨月に入ってから、こういう風に前駆陣痛も頻繁になってきた。
ボクの子宮も、お産本番のための予行演習を怠っていないようだ。



投稿日 : 2010 11/17 14:34 投稿者 : ゆうり

しばらくしてなんとか夜ご飯の買い物をして帰ってきた。
「ただいま~~。」
「あ、おかえり。」
リキが迎えてくれた。



投稿日 : 2010 11/17 15:23 投稿者 : マツリ

「ゆきお姉さまは休んでて。」
「私たちがつくりますわ。リキ。」
さきとみきはりきまで連れてキッチンに行った。



投稿日 : 2010 11/17 15:43 投稿者 : 致良

せっかくの好意だし、実際にお腹が辛いし、
ボクはご飯作りを妹たちに任せ、キッチンを後にした。
『トゥルルル~』
「あれ?誰だろう、こんな時間に」
携帯ではなく家の電話が鳴り、ボクはそれに出る。
「もしもし、諸澤です」
「ガチャ!・・・・・・ツーツーツー」
受話器を耳に持ってきたとたんに、電話が切られた。
イタズラ電話、なんだろうか――
「うっ、ぐ・・・っ!」
その考えが頭によぎる瞬間、ボクのお腹にまた激痛が迸った。
また前駆陣痛なの? こんな短時間に2回もくるだなんで・・・
いや、違う・・・今度の痛み、子宮からのものではない・・・!?
「はぅ、いっ・・・だ、だれか・・・」
キッチンから、妹たちと弟がぎゃぎゃしている声が聞こえる。
助けを求めるボクの声が、届いていなかった。
もうヤバイ、お腹がすごく痛い・・・
声が出ない・・・目の前が、暗くなって――



投稿日 : 2010 11/17 15:46 投稿者 : マツリ

「ゆき姉ちゃん!?」
気を失う瞬間・・・りきの声が聞こえた。
そして俺の意識はなくなった。



投稿日 : 2010 11/17 16:44 投稿者 : 無明

「ぇ……ゆき姉!!」
意識を取り戻したボクにまっさきに声をかけたのはみきだった。
「いきなり倒れるから心配したじゃない!もう!!」
涙目で訴えかけてくる。
(……なるほど、そういうことか。よかった……)
ボクは確信した。
やっと、やっとだ。
赤ちゃんに、魂が「根付いた」んだ。
魂も肉体も、着々と出産へ向かっているんだ。



投稿日 : 2010 11/17 17:45 投稿者 : ゆうり

「今日はもう寝た方がいいよ?お兄ちゃんには電話したから。」

りきは心配そうにいった。



投稿日 : 2010 11/17 18:11 投稿者 : 致良

「ありがとう、そうするね」
ボクはりきの提案を受け入れ、体を休ませえた。

その後妹たちの手料理でもう一度地獄を見た。
もう思い出したくも無い・・・忘れちゃおう。

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(ちょっと、狭いから両手を広げないでよ)
(そっちこそ、足が太くてじゃまなんだよ)
あの日から、二度とあの張り止めの薬にも効かない謎の痛みは来なかった。
その代わりに・・・と言うと少し語弊があるが、
ボクのお腹にいる双子に入った魂は、今日も頑張って新しい肉体に馴染ませることに勤しんでいる。
「はいはいそこまで。二人とも、いい加減にしなさいね?」
こうやって中で繰り広げる激しい胎動と共に過ごすのは、最近の日課だ。
定着した二つの魂は、ボクがそっちの会話を聞き取れるとこを知らないようで、
こちらの都合などお構いなしに好き放題に毎日ケンカしていた。
「よっこらしょっと」
胎動がキツイし、お腹も重いので、家事の合間に休まずにはいられない。
でも、こんな辛くも楽しい妊婦生活の日々はもうすぐ終わってしまう・・・
なぜなら、いよいよ明後日が、ボクの出産予定日なんだから――

「鬼はウソ吐かない・・・か」
出産への対策は万全に用意しておいた。後は陣痛を待つだけ。
初産だから、明日に陣痛が来て明後日に生まれるか?
それとも明後日に来て、そのまま当日安産になるか?
「った」
色んな事を考えたら、なんだかお腹に薄々と痛みを感じた。
さっき収まった『中の双子のケンカ』のせいかな・・・?
「さすがに・・・『今日』は無い、よね?」
微弱だし違うだろうけど、もしこれが陣痛だったら・・・?
用心に用心だ。ボクは時計に気を配りつつ、しばらく安静にした。



投稿日 : 2010 11/17 18:29 投稿者 : 無明

2時間か3時間くらい経っても「張り」は収まらない。
そのうち旦那も帰ってきたが、まだ不規則だから心配がいらないことを告げる。
ボクを気遣ってか否か、食事は社員食堂だったらしい。
その後の旦那の心配ぶりったらもう笑うしかない。
「ちょっとお風呂に入ってくるね。まずは落ち着かないと。」
「いや、俺も一緒に入ります!中で生まれたら大変だから!」



投稿日 : 2010 11/17 19:49 投稿者 : 致良

「ゆき・・・」
「あなた・・・?」
旦那と風呂場の中に来て、ピンとボクは理解してしまった。
小鬼の言っている『アフターケア』は何を指しているのかを。
「キレイだよ、ゆき」
「・・・はずかしいから、そんなのやめて」
元々男の魂なんだから、ボクは当然、男の裸には興味はない。
実際、妊娠してるから遠慮されてるのもあるが、
結婚してからボクは一度も、このように旦那と裸で向き合っていなかったのだ。
「冗談ではないよ、ほら見て」
「ちょ、ちょっと・・・ナニ固くなってんのよ・・・」
現にお腹に赤ちゃんがいるのが証拠で、『犯されて妊娠』と
みんなの記憶に刷り込まれた設定も、本当に起きていた事実なんだろう。
「・・・ゆき!」
「きゃぁ!?」
しかし、それが『小鬼による偽の記憶』だと知っているボクは、
その犯される記憶は無い。精神的に、まだ『処女』である。
「だ、だめだよ、こんなこと・・・ボク、お腹に赤ちゃんが・・・」
「・・・・・・どうしてもだめ?」
「あの、その・・・手で、だったら・・・」
アフターケアと称された小鬼の用意した『人生イベント』は、
つまり、『精神的にも完全に諸澤くんの妻になる』ことだった――



投稿日 : 2010 11/17 20:44 投稿者 : ゆうり

「じゃあ赤ん坊が生まれるまで待つよ。二人兄弟じゃ寂しいしね。」
旦那はニコッと笑いながら言った。

二人兄弟じゃ寂しいって何人生ませる気?



投稿日 : 2010 11/17 23:02 投稿者 : 無明

「ごめん……」
「いいよいいよ。仕方ない。」
マンションのお風呂は狭く、大人ふたりではやっぱり窮屈だった。
「ここまで大きくなるんだなぁ……不安?」
「ちょっと……」
他愛のない会話をしながら、ゆっくりと体を温める。
後2日。
後2日しかないんだ……



投稿日 : 2010 11/17 23:10 投稿者 : ゆうり

そして珍しく僕と旦那は同じベッドで眠った。



今日はやけに腰がダルい・・・。



投稿日 : 2010 11/17 23:15 投稿者 : 無明

そろそろなのか、と思う一方であまり気にしていない自分がいた。
旦那はぐっすり眠っている。
そろそろ起きないと遅刻だね……
さて、起きる前に朝ごはんを作らなきゃ。



投稿日 : 2010 11/18 08:36 投稿者 : 致良

「ん? これは・・・?」
キッチンへ向かうボクは、食卓の上に一通のピンク色の封筒が置かれている事に気付いた。
「宛先も何も書いていないし・・・」
封筒を手に取り、ボクはそれの表面を調べた。
柔らかいが文字も何も無く、ほのかに暖かい。
「何が入っているんだろう・・・?」
封筒がパンパンなので、中身の形は判らない。
ただただ、ズッシリとした重みを持っている。
「・・・・・・開けちゃおうか」
好奇心に負けて、ボクは封筒を固めている封に指をやった。
そして、これがパンドラの箱であることを知らされた――



投稿日 : 2010 11/18 09:07 投稿者 : ゆうり

「パンドラの箱あけちゃったね。」
いつのまにかどこからか小鬼が現れた。
「これはおまえが!?」
「もちろん。中身見てみれば?」



投稿日 : 2010 11/18 09:28 投稿者 : 無明

中身は白紙。
おまけに小鬼もいなくなった。
ボクはたいして気にしないで、家事をはじめた。
出産がわずかながら始まっていることも知らずに・・・・・・



投稿日 : 2010 11/18 09:32 投稿者 : ゆうり

ピン~~ポン
呼鈴がなり、玄関に行った。
がちゃ
ドアを開けると泣きそうなリキがいた。
またみきとさきか。



投稿日 : 2010 11/18 09:51 投稿者 : 無明

「あ、あの・・・・・・言いにくいんだけど・・・・・・みきにやられた・・・・・・ゴムはしたけど・・・・・・」
あまりの展開に開いた口がふさがらなかった。



投稿日 : 2010 11/18 10:05 投稿者 : ゆうり

「ゆき姉ちゃん・・・。」
リキは今にも泣きそうだ。
「お母さんにはあとで電話をしとくから当分ここにいなさい。」
「ぅん・・・。」



投稿日 : 2010 11/18 12:12 投稿者 : 致良

ピン~~ポン
「さて今度は犯人のみきとさきが来たのかな?」
また呼鈴がなり、ボクはもう一度玄関に行った。
がちゃ
「だから言ったんだろう、やりすぎるのは――」
「うわ~ん、お姉ちゃん~」
ボクがドアを開けたとたんに、
なんと胸にみのりを抱えたあきが突入して来た!
「わっ!?」
タックルされて、玄関にしりもちをつくボク。
「聞いてよ~隆也がね~ひどいんだよぉ~」
「なにこれ、酒くさい・・・」
久しぶりに夫婦ケンカでもしたのか、
朝っぱらから泥酔いになっているあき。
普段は飲まない分、酒癖が悪いのだ。
「あき、何があっ、った・・・っっ?」
飲酒の原因を問おうと床から身を起こす時、
突然、ボクのお腹に生理に近い鈍痛が走った。
「うぅっ!」
これって、まさか、今の衝撃によって――



投稿日 : 2010 11/18 12:23 投稿者 : ゆうり

「あ!お姉ちゃん、ごめん。大丈夫?」
あきが正気に戻り、心配そうに聞いた。
「た、たぶん。取り敢えず家、入る?」

僕たちはリビングのところにいった。



投稿日 : 2010 11/18 12:54 投稿者 : 致良

「わわっわ、あき姉、な、なななーーー」
「何って~朝ごはんの時間だよぉ~」
もちろん、泥酔いはそう簡単に覚めないものである。
リビングに入ったあきは、りきもいるのを拘らずに、
錯乱してみのりにおっぱいをあげようと上を脱いだ。
「あらあらまあまあ~りきったら、もう大人ね~」
「あき姉ちゃん、やめてよ、やめてー」
やはりみきたちにやられてしまったの後遺症なのか、
あきの授乳姿を目にしたりきは、いきり立っていた。

「すー、はー・・・」
そんな二人をスルーして、ボクは時計に注視しつつ、
深呼吸をしてお腹に来る痛みの特定に集中していた。
果たしてこれは来るべき陣痛か、それとも――



投稿日 : 2010 11/18 13:03 投稿者 : ゆうり

「ゆきさん、どうかした?」
やっと起きてきた旦那。
「ううん。何でもない。」
まだ陣痛かわかんないし。
「朝からあきちゃんもりきくんもいるんだ。」



投稿日 : 2010 11/18 14:36 投稿者 : 致良

「予定日、明日だろ? ご飯作ってあげるよ」
「うん、ありがとう――」
ボクの顔が辛そうに見えたのか、旦那は優しくしてくれた。
お腹の痛みもいつの間にかさっぱりなくなってたし――
(ズキッ)
「うぐっ!」
「ゆきさん!?」
――と思ったら、またさっきのような痛みが襲ってきた。
「・・・い、今は何時?いや、何分、何秒・・・?」
「えと、えと、8時で、21分で、秒まではさすがに」
「21分・・・前のはたしか8時前だから・・・」
小鬼の『予定日に生まれる』と言う言葉を踏まえて考えれば、
おそらく間違いはなさそう、このお腹の痛みは――陣痛だ。
「ま、ままままさか」
「・・・たぶん」
時間を聞かれて慌てる旦那に対し、ボクはただうなづいた。
間隔はまだ20分以上あるし、そもそも既定事項として
ボクのお腹の中にいる双子は『今日中で生まれない』のだ。
「じゃ、早速救急車を・・・」
「あまり痛くないし、間隔も長いし、今呼んだら笑われちゃうよ」
まだまだ慌てる時間では無いと、そう判断したボクは、
初めて陣痛を体験する産婦とは思えないほど、冷静でいられたーー



投稿日 : 2010 11/18 16:26 投稿者 : ゆうり

しかし旦那は大慌て。
「ゆきさん、取り敢えず横になってて!」
僕は寝室につれていかれた。
「ゆき姉ちゃん、大丈夫?」
リキが心配そうにやってきた。



投稿日 : 2010 11/18 18:02 投稿者 : 無明

「大丈夫。まだ産まれないって。」
「でも……」
「ほら、彼慌てん坊だから。」
あきはいい加減酔いがさめてきたらしい。
「えと……お母さんに連絡すべき?」



投稿日 : 2010 11/18 18:20 投稿者 : マツリ

「ん、一応お願い。あ、ところで何で喧嘩してきたの?」
今のうちに聞かないと当分仲直りさせにくいし。



投稿日 : 2010 11/18 18:43 投稿者 : 無明

「いや、あのね。隆也さんが浮気してるんじゃないかって疑っちゃってね。ソレデ口論になって………えへへ。」
苦笑いするあき。
「………あのね。なんでそれだけでやけ酒とか飲んじゃうのさ。みのりにも悪いでしょ?」
呆れて物が言えない。
隆也さんの方も、どうやら落ち着いているみたいだ。
これでこの件は円満解決かな?
「………っ。」
また来た。
時計を見れば39分。
まだ20分間隔。
やっぱり始まったばかりだ。今のうちに落ち着いておかないと。
ボクは、気を引き締めた。



投稿日 : 2010 11/18 18:46 投稿者 : ゆうり

「ゆき姉ちゃん大丈夫なの?」
リキは余程心配なのかあきに泣きそうな目で聞いている。
そういえばリキはもともとあきより僕の方にたよりに来るな。



投稿日 : 2010 11/18 18:56 投稿者 : 無明

「だから大丈夫だって。流石にすぐには生まれないよ。」
「わかった。んじゃ俺帰るね。流石にもうあいつらを放ってられないや。」
りきは帰っていった。
返り討ちにあわなきゃいいけど……
旦那は会社に電話している。
休みでも取り付けてきたかな?
本格的になるまでは家にいよう。



投稿日 : 2010 11/18 19:01 投稿者 : ゆうり

「休みをとってきたよ。会社のみんなもゆきさんに頑張れっていってたよ。」

しばらくしてまた泣きながらリキが戻ってきた。
今回はドアがあいていたため、呼鈴なしで入っていた。



投稿日 : 2010 11/18 20:44 投稿者 : 無明

「お母さんも来るって。ゆき姉ちゃん、がんばって!」
みんなが次々と集まってくる。
これは賑やかになりそうだなぁ……
それに、このコ達が生まれたら、もっと……



投稿日 : 2010 11/18 21:00 投稿者 : ゆうり

「あ、でもみきとさきは罰として部屋から出してもらえないみたいだよ。」

リキ、お母さんに頼んだな。
お母さんもお父さんも末っ子で唯一の男の子だからリキを可愛がってるし。



投稿日 : 2010 11/18 22:28 投稿者 : 致良

皆が関心してくれるのは良いけれど、『内情』を知っているボクには分かる、
どんなことがあっても今日中には絶対生まれてこないのだ。
気が緩めていたなんだろうか、ボクは一つ大事なことを忘れていた。
(ぷちっ)
「・・・ぷちっ?」
気が付いたら時既に遅し、
9時30分過ぎた所で来た陣痛と共に、ボクの股からお漏らしのような生暖かい無色の液体が溢れ出した。
「そ、そんな・・・」
――破水。
「今日中に生まれない、はずなのに・・・っっ!!」
破水して出口が潤いだせいか、陣痛が一気に強まり、
立っていられないほどの大きな収縮がボクを襲った。

『どんなことがあっても今日中には生まれない』を言い換えれば、
即ち『どんなことがあっても明日にならないと生まれない』のだ。
「・・・うそ、でしょ・・・」
鬼は嘘をつかない。
つまりボクは、今日丸一日この破水してからの強烈陣痛を・・・!?



投稿日 : 2010 11/18 22:38 投稿者 : ゆうり

「わぁ~~!ゆき姉ちゃん、どうしたの!?」
そばにいたリキの声に旦那があわててやってきた。
「ゆきさん!?すぐに病院にいきましょ!救急車、救急車~~!」
旦那は慌てて電話をかけにいった。



投稿日 : 2010 11/18 23:09 投稿者 : 無明

救急車で病院に向かっている間も、陣痛は容赦なく襲いかかる。
旦那はもう言葉も出ないようだ。
実際ボク自身うめき声しか出せない。
あの子鬼、余計なことしやがって……



投稿日 : 2010 11/18 23:25 投稿者 : マツリ

「ゆき姉ちゃん・・・。」
一緒に着いてきたリキはどうしていいかわからずしきりに僕のお腹を擦っている。
病院につくとすぐに陣痛室につれていかれた。



投稿日 : 2010 11/19 01:22 投稿者 : 無明

しかし1時間どころか2時間たっても進展がない。
ボクはこの中途半端な陣痛に、最低でも後20時間は耐えねばならないのだ。
なんとか水を口にしてのどを潤す。
こういう時男はまるで役立たずだ。



投稿日 : 2010 11/19 01:35 投稿者 : ゆうり

ガラガラ
「ゆき、大丈夫?」

あ、お母さんだ。
うしろからあきもきた。
たぶんみのりがいないからあきの旦那と仲直りしたんだな。



投稿日 : 2010 11/19 20:39 投稿者 : 致良

その後、出産経験のある二人からいろいろと話が聞けて、
いろいろ助けてもらっているうちに、太陽が沈んでいた。
「ぁぐっ、ぐぁん!」
「ゆき、ママの声を聞いて!力を抜いて、いきんじゃダメよ?」
どぶっと音がして、ボクの産道から羊水が潮のように吹きだす。
これは何回目の陣痛だろう・・・朝から強度が進んでる一方で、
間隔もあまり縮まないし、子宮口も中途半端に開こうとしない。
「この子たちも頑張ってるはずよ、ゆきお姉ちゃん!」
「あき・・・っあ、ぁあっぁあ!!」
でも、もうしばらくの辛抱だ。後6時間もすれば、日が変わる。
小鬼によって設定されたボクの『出産する日』の、『明日』になる。
耐え忍ぶのだ、ボク。そして、ボクの中の赤ちゃんたち――



投稿日 : 2010 11/19 20:49 投稿者 : ゆうり

けどさすがに疲れが出てきて陣痛の合間はぐったりとしていた。
さっきの検診で
後1時間くらいで陣痛の間隔が狭まらないと帝王切開も考えられると言われた。



投稿日 : 2010 11/20 00:54 投稿者 : 無明

それも仕方ないと思ったが、どうもそうは行かないらしい。
だんだんと、時間が経つにつれていきみたくなる。
赤ちゃんが、わずかながら降りてきた。
だけど、ボクは耐えなければならない。
それが、ボクが今、赤ちゃんにできる数少ない事だから・・・・・・



投稿日 : 2010 11/20 08:34 投稿者 : ゆうり

「んうぅ~~!」
「ゆき、息んじゃダメよ!」
息みたい衝動に負けて息んでしまい、お母さんが腰を擦ってくれながらいう。
それの繰り返しだった。



投稿日 : 2010 11/20 12:14 投稿者 : 致良

「いやいや、どうもどーも」
姿が見えないのに、頭の中に小鬼の声が聞こえた。
「どうでしたか、アフターケア」
あたり前のことを聞く図々しさ。間違いないあいつだ。
しかし、今ボクには返事のできるほど気力も暇も無い。
「メタな話だけど、今はこのスレ、めでたく100レスを迎えたから」
だから何なんだよ・・・スレって何だよ・・・
「一つ特典をあげよう、お早めのご対面ってやつさ」
小鬼はうっしっしと笑った。
そしてボクは、陣痛でもう痛みしか感じないお腹から、
二つの声が聞こえた。中の赤ちゃんたちの魂の声だ。

手術されたくない、自然で産道から出たいと、腹の子たちがボクに望んだ。
お母さんとして、この子たちの最初の願いをかなえてあげないと・・・。
ボクは帝王切開をしようとする医者の提案を却下し、させなかった。



投稿日 : 2010 11/20 12:58 投稿者 : ゆうり

そのため、お母さんやあき、旦那は心配そうに見守っていた。

なんかはめられた小鬼に気がするけどまぁ、しょうがない。



投稿日 : 2010 11/20 13:18 投稿者 : 致良

やがて夜も深くなり、時計の短針が10を過ぎていった。
「あっ、ああ! んあっ、あぁぐぁっーーー!!」
まさにラストスパートのように、ボクの陣痛が急に進む。
ただひたすらに痛い。間隔はもう殆ど無いように感じる。
「痛い、いたい、いたーーーいぁあぁんあ!!!」
家族に囲まれて、新しい家族たちを迎えようとしてる。
とても幸せなはずなのに、ボクは心から笑えなかった。

あと2時間弱だ、もうすぐこの痛みから解放できる・・・
これだけを念頭に入れて、ボクはいきむのを我慢した。



投稿日 : 2010 11/20 13:28 投稿者 : マツリ

「全開になりましたから、そろそろ分娩室に移動しましょう。」
医者にいわれ、おれはとてもたてる気力はなかったため、車イスにのせられ分娩室に向かった。



投稿日 : 2010 11/21 01:43 投稿者 : 無明

「せーのでいきんでくださいねー。」
拍子抜けするような軽い声の助産師が声をかけてくる。
ボクはその指示に従うしか、今はできない。
だから、やれるだけやるんだ。
陣痛に合わせて、お腹に力を入れる簡単な話。
でも、それが想像以上に辛いのだ。
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10!
「っ、はぁ、はぁ、はぁ……」
身体が酸素を欲しがる。
喘ぐように息を吸って、ボクはもういちど「波」に備えた。



投稿日 : 2010 11/21 12:35 投稿者 : 致良

しかし、数回いきんだところで、赤ちゃんは出てくるところか、
産道に入る気すら無いようで、ボクの子宮の中に留まっていた。
「い、今、何時、ですか・・・?」
それもあたり前の事だ、『出産予定日』はまだ来ていないから。
ボクは理性を振り絞って、隣の助産師に現在時刻をうかがいだ。
「えっ、23時・・・46、いや、48分ぐらいかな?」
「あ、ありがとあぁあんっんーーー!!」
陣痛の波に掻き消されたが、ボクはしっかりと聞いていた。
『明日』まで、あと15分もない。いよいよそろそろだ。
次回のいきみあたりで、排臨ぐらいにはなるのだろう。

――ゴールは、見えてきた。



投稿日 : 2010 11/21 13:02 投稿者 : ゆうり

しかしいくら息んでも出てこない。
まるで12時にならないと排臨すらならないのではないかと思った。
医師たちは次の陣痛から僕のお腹を押すらしい。



投稿日 : 2010 11/21 14:24 投稿者 : 無明

その時。
合図のように、12時の鐘が鳴る。
一際強い陣痛が来て、赤ちゃんがボクの中を突き進む。
一気に産道を下ってきた!



投稿日 : 2010 11/21 14:40 投稿者 : ゆうり

「段々降りてきてますよ。頑張ってください!」
医師に言われ、最後の力を振り絞って息んだ。
赤ん坊が降りてくる間隔がわかる。



投稿日 : 2010 11/21 14:42 投稿者 : 致良

(よっしゃ、一番乗りだぜ!)
我先に出てきたのは、男勝りな感じがする女声の魂だ。
ボクとは正反対に、女の魂なのに男の体に入ったのか?
ともあれ、今ボクの頭脳は生むことしか考えられない。
押し出すのだ。お腹に十ヶ月も居た、この大きな塊を!



投稿日 : 2010 11/21 15:21 投稿者 : 無明

「ふぎゃ、ほぎゃ・・・・・・」
頭が出たらあとはすぐ。
赤ちゃんはするりと抜け出てきた。
「おめでとうございます!女の子ですよ!」
助産婦の声が響く。
あともう一人いるんだ。
ボクは、息を整えた。



投稿日 : 2010 11/21 16:13 投稿者 : 致良

次のいきみで胎盤が吐き出されて、一人目の後産が終えた。
そして、二人目がそれに続いてボクの子宮口に頭を入れる。
(いくよ、お母さん。しっかり産んでくれよ)
助産師も信じれないほどの、今までが嘘のような順調さだ。
二人目の魂の声が聞こえる。これは変声期前の少年の声だ。
「頭が見えたわ!お腹に力を!」
「これで最後よ!がんばって!」
死人の魂は、死んだ時の体の様子を記憶していると謂れている。
この少年はどんな原因で地獄に落ちて、転生しにきたのだろう。
「んんんーーーっ!!」
ボクは、恐らく今回の出産で最高の、いきみをした――



投稿日 : 2010 11/21 16:49 投稿者 : 無明

ごぼり、と羊水が吐き出され、それに乗って赤ちゃんがこの世に生まれくる。
「男の子ですよ!よく頑張りましたね!」
こうして、ボクは「お母さん」になった。



投稿日 : 2010 11/21 20:35 投稿者 : 致良

姉弟の双子は直ちに処置され、ボクの妊婦生活は終わった。
出産の疲労感と産後の安堵感に、ボクは眠りに落ちていく。

夢?の中には、又もや小鬼の声が聞こえた。
これが終わりではないと、
アフターケアはボクの人生が終わるまで続くと、言ってた。

ボクの、人生と言う名の冒険は続く・・・・・・



ラッキープレグ ~完~



前編:ラッキーライフ            続編:ラッキープレセカンド


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