この世にとどまって

読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂きました。(熊猫)


投稿日 : 2007/03/13 13:11 投稿者 : ブルーセージ

俺は誰だろう・・・ここは何処だろう・・・
光が見える・・・俺は、ここにいる・・・

目の前に自分の体だったはずのグロな肉塊があった。

俺は、死んだのか? 
現場にいる誰も、俺の声が聞こえない。
俺の姿(勿論こっちの)が見えない。

意識は、覚めている。

俺は、無駄な努力をされている自分の体を追って、
救急車に乗った。大きな病院に着いた。10階建てかな?

死が確認されるのを見るのもなんだから、病院の中へ移動した。
そしてエレベーターの中でじっと待っていたら、3階まで運ばれた。

産婦人科だった。週数がそれぞれ違った妊婦さんたちがあちこちいた。

=つづく=



投稿日 : 2007/03/17 16:02 投稿者 : ほの

俺はいろんな妊婦を見ていると
「あっようやく見つけたわー」
振り返るとそこには黒いローブをはおり、鎌を持つ骸骨の体をしたまさしく死神と呼ぶべきモノがいた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
俺は思わず叫び声をあげた。
まぁ周りには聞こえてないけどな…
「驚かせてすいまへん。あんさんか?手違いで死んだ人間って」
「どっどういう意味だよ…」
死神は口を濁しながら喋る。
「言い難いやけど、こっちの手違いでな間違って死んでしまったんや」
一瞬間があき
「何だってーーー!!?」



投稿日 : 2007/03/17 20:57 投稿者 : MH35

「実はお前は手違いで死ぬべき人間と同じ
コードが割り当てられていた。コードっつーのは
そっちの世界の名前と同じ。違うのは基本的に
重複しないことだ。ただどうも総元締めが
うっかりしたらしく同じ番号を割り当てた。
つーことは殺すべき人間が決まらない。
だから君を殺してしまったわけ。ところが
殺して2分後に違うと監督者に言われて…。」
「で、肝心な片割れは?」
「確かここにいるはずなんだが…。」



投稿日 : 2007/03/19 03:19 投稿者 : ブルーセージ

「…あった、アレだ。」
死神の指先が指したのは待合室のソファー…
その上に腰掛けている妊婦さんであった。

チュニックブラウスの上にシンプルなジャンパースカート、
めがねにみつあみおさげ、かさましで見ても二十歳はないと思う。

母になるのは、まだ早すぎる体。なのに、大く膨らんだ腹部。

「まさか彼女が…死?」
「違う、中身だ。いや、『だった』というべきか。」
死神の言霊のせいか、周りの妊婦さんたちの様子が変わった。
俺でも判るように、お腹がホワンと印のようなものが浮び上がる…
…過酷な運命が決められていた彼女を除いて。

「見ての通り、その器には既に母体との連結が切断された。
 あと一刻ほどすれば、やがて自然と排出され始めるだろう。
 間違って君の体を潰したのはこっちの責任だ。だから…」

えっ? ちょっと、なにが…?

あ、あれ? 急に朦朧に…   俺は  吸い込まれてる?

彼女 の  お腹   に    ?

=つづく=



投稿日 : 2007/03/20 03:51 投稿者 : ブルーセージ

(ドクッン)
「大丈夫よ。たとえパパがいなくても、じいちゃんばあちゃんに
 いらない子と言われても、ママが、ちゃんと産んであげる。」
なんだ、これは誰の声・・・?
意識の中に、流れ込んでくる・・・

(ドクッン)
「いっぱい食べて、すくすく大きくなって、元気で産れてきて、
 そして、ママと一緒に、幸せになろう。約束、だよ。」
あぁ、そうか、そうなんだよな・・・
これは、お母さんの記憶・・・俺の、お母さんの・・・

(ドクッン)
「…どうしよう、赤ちゃん、朝からほとんど動かなくなってる…
 すぐお医者さんに連れていくから、お願い、無事でいて…」
泣かないで、お母さん・・・
安心して、俺は、ちゃんとここにいるから。
もう少し待ってて、いま、ここから出るから。
頑張って、お母さん・・・




「次の人、どうぞー」
「あっ、はーい・・・・・・・・・うぐっ!?」
ソファーからお腹の大きい少女が一人、呼びかけに答えで立ち上がった。
そして倒れた。板のような硬くなっている37週のお腹を抱えて。
信じられない激痛に歪む体に、看護婦さんが慌てて駆けつける。

=つづく=



投稿日 : 2007/04/02 10:55 投稿者 : シンス・コゴロク

気づくと俺は狭い暗闇の中にいた。
しかも俺は暖かい水の中に入っている。
ここは・・・あの少女の子宮の中?
死神がオレの心に直接話しかけてきた。
「君の魂を先ほど死んだ赤ん坊に入れなおした。つまり君はあの母親の子どもとして人生をやり直すことになる。
 少々勝手な償い方だが、このまま何もしなければ、君は天国か地獄かどちらかに行って、地獄に行けば苦しい思いをして、
 その後天国にせよ地獄にせよ君の記憶と人格はほとんど浄化され、生まれ変わる。人間とは限らないぞ。それよりはいい話とは思うが・・・」
いや、死神の話を聞く前から俺は決心していた。
これ以上、この孤独な母親につらい思いはさせたくない。
「分かった」
俺は心の中でうなづいた。
それで伝わったらしく、死神が続けた。
「ありがとう。ミスはあったがこれで私の任務も終わりだ。迷惑かけたな、鈴木 望君。では・・・」
死神の気配が去りかけたが、すぐに戻ってきた。
「ああそうだ、ひとつアドバイスというか、言うことがあった。君の魂はもともとこの器の物ではない。
だから、何か不便はあるかも知らんが、幽体離脱をする事も可能だ。
 つまり、視点をその肉体からと、肉体の外からと切り替える事が出来る。覚えておいてくれ。では、今度こそ・・・またな」
今度こそ死神の気配が去った。
幽体離脱?
俺は新しい肉体から抜け出し、さらに新しい母親の子宮からも抜けた。
母親は分娩台の上に載せられていた。



投稿日 : 2007/04/06 13:21 投稿者 : シンス・コゴロク

医学のことは良く分からないが、どうやら医者どもは自然分娩をする事にしたらしい。
バカな…俺が今いる肉体は死んでいたはずだ。
本来なら帝王切開するべきじゃないのか?
コスト削減が目的か?
だが、俺の思考は母親があげたいきみ声で中断された。
「ふううぅぅぅんっ!」
うおっ……結構エッチぃ声をあげやがる……
「んっんっんうううぅ!」
また…前の肉体が生きていたら俺は明らかに下半身を隆起させていただろう…
だが、母親がもう一回いきんでも赤ん坊が出てくる気配はない…
「ぬおっ!?」
次の瞬間、強い力に俺は新しい肉体に引き戻された。
どうやら、幽体離脱には制限時間があるらしい…
ざっと30分…再び幽体離脱したければ同じ時間待たなければ回復しない…と思う。
まぁいい。
母親の出産を内側から観察するなんて誰も体験できない事だ。
「くううぅうん!」
母親の艶かしい(なんて言っちゃ悪いか・・・母さんは必死だ)いきみ声が、羊水を通してくぐもって聞こえる。
へぇ…赤ちゃんって外界の声がこんな風に聞こえるんだ…ってのんきな事言ってる場合じゃない!
支給壁が俺にまとわり付いて締め付け、押し出そうとする!
あ…赤ちゃんもこんなつらい思いをするのか…



投稿日 : 2007/04/10 18:12 投稿者 : ブルーセージ

「胎児心音、測れました! 生きています!」
「自然分娩で刺激を与えて正解だったな。」

子宮壁の外から、ぼやけて医者と看護婦の会話が聞こえる。
どうやら、俺が元の魂と入れ替えてこの体に入っているから、
一度仮死状態になったこいつの心臓がまた動き出したようだ。

…まぁ、そうだろう。こういう仕組みでないと、死んだ体に
俺の魂は当然生き続けなくなり、死神の奴もきっと困るからな。

(ぐごごご)

地鳴りのような声と共に、周りの肉壁が動き出し、
羊水に満ちた世界を締め付けるように、収縮する。

「う、うぁ、んんあああぁあぁぁ!!!」

約一秒の間隔を置いて、痙攣に伴う激痛がお母さんに伝わり、
生み出した息みうめく声が今いる狭い世界全体に響き渡る。

「あ、ぁ…ハア…はぁ…」

少し経つと天変地異が収まり、お母さんの喘ぎが聞こえる。
そして俺の体はさっきより少し、頭からどこかへ落とされそう
になっている。出口へと続く道へ、強引に押されているのだ。



投稿日 : 2007/04/10 19:30 投稿者 : シンス・コゴロク

「んんん…また来たぁ!あああああああ!!」
グニュ…オレの頭がゆがみ、細長くなる…えっ?ええっ!?
あ、赤ちゃんは生まれたときは頭蓋骨が固まっていなくて、生まれるとき、産道を通れるように頭が変形するんだっけ?
ってことは…もうすぐお母さんのアソコを通って俺は生まれる!?
そうか!
頑張れお母さん!
俺も頑張る!
いや…頑張らざるを得ない…狭くて息苦しいんだ、本音を言うと…
「ふううううううんんん!!」
グググ…俺はさらに押される。
子宮壁とは異なる柔肉が俺の顔などをこする。
こ…これがお母さんのオ…いや、こんな真剣なときにそんな卑猥な事考えるのは止そう。
「は…はああああああんん!!」
ひときわ大きくてエッチいお母さんのいきみ声が聞こえ、俺は押される。
う~ん…本当はエッチイとか言っちゃいけないと思うんだけど…本といい声出すんだよなぁ…って…ん?
あれ?
今ちょっと頭に空気が触れた気が…
看護師の声がくぐもって聞こえる。
「はい、頭が見えてきましたよぉ~」



投稿日 : 2007/04/10 23:59 投稿者 : ありす

ダメだ…狭くて息苦しい…


もう一回体から抜けて幽体離脱しても大丈夫か?

でも俺が一瞬苦しさを紛らすために新しい体から出ることで母さんはもっと苦しくなるのか…?

でも…ダメだ…ごめんよ、母さん…一瞬抜けさせてもらうよ



投稿日 : 2007/04/11 18:43 投稿者 : シンス・コゴロク

ぷはぁ!
肉体的苦痛から解放され、爽快な気分になる。
看護師が言っていた通り、俺の頭が母さんのアソコから出かかっている。
が、母さんのいきみが止まるとズズズっと子宮に戻ってしまう。
「うっ!うううううううんん!」
お母さんがいきむ。
オレの頭がちょっと出るが、すぐに戻る。
ん?あまり出なかったから逆に戻ってる?
「あれ?さっきより出が悪いぞ?」
医者が母さんのアソコを覗き込んで首をかしげる。
と、看護師があわてた声で医者に報告する。
「先生!胎児の心音がなぜかリラックス状態にまでおちています!」
「ぬわぁにぃ!?」
え?
ってことは、今俺の肉体は眠っている状態に近いってこと?
とすると…そうか。
俺が幽体離脱しているから、赤ん坊が自分で出ようとする力が働かなくて、生まれにくいのか…
ごめん、母さん。
また、頑張るよ!
俺は再び自分の肉体に入っていった。



投稿日 : 2007/04/11 21:51 投稿者 : ブルーセージ

「ん、っん、うんんーーーー」

・・・変だな、俺は体に戻っているのに、
お母さんの喘ぐ声がステレオになっていない。
ていうか、さっきのような狭苦しい感じもしない。

「はぁ、は、は、はあぁんん!!!」

目の前に、お母さんが俺の頭を出せようと悲鳴を上げている。
医者さんと看護婦さんの姿も見える。とすると・・・

・・・ちょっと、俺、胎児の体に戻っていない!? 
まさか、一回の幽体離脱の持ち時間が切れるまで戻らない?


とんだ誤算だ・・・



投稿日 : 2007/04/12(Thu) 19:25 投稿者 : シンス・コゴロク

チクショッ!バカやロー!死神の奴、ちゃんと説明しておけっつーの!
赤ちゃんなら思いつかないような呪いの言葉の数々を俺は心の中で叫ぶ。
ん?外界で医者が何か言っている。
「…すこし引っ張るか」
「えっ!?やだっ!!やめて!!」
とたんにお母さんが恐怖に駆られた声を上げる。
俺も青ざめる(いや、幽体に血の気などないはずだが)
冗談じゃねぇよ。
ごめん、母さん…俺のひと時の楽でこんな苦しい思いをさせて…
ええぇい!チクショー!
俺のからだよ!(どっち?幽体?肉体?)
何とかもとの状態に戻ってクレー!



投稿日 : 2007/04/13 20:43 投稿者 : ブルーセージ

「では吸引分娩をはじめます」

俺が取り乱している間に、医者は素早くゴムのような素材で
できた小さなカップのような道具を用意し終わった。
おいおい、まさか、アレをお母さんに・・・?

「いや! やっ、あっ、やめて、入らないでっ、あぁあ!!」

お母さんの必死の懇願が、ちょうどその瞬間に襲ってきた
陣痛にかき消され、医者にはうまく届かなかった。

(ズブッ)

「ひゃぁ!」

ついにその無機物がお母さんに入っていっ・・・お、おぉ?

突然溶けたような感触がして、抜け出した俺の魂が
お母さんの産道に挟まれている胎児の中に戻った。
前の幽体離脱より、外での時間が短くなっている…
もしかして、新しい体と一体化になりつづある?

(ぴたっ)

戻ってきた途端に最初に感じたのは、柔らかく冷たい吸盤が
俺の頭のてっぺんに密着した感触だった。すっげぇやな予感。



投稿日 : 2007/04/22 18:59 投稿者 : ブルーセージ

「オギャー、オギャー」
さすがに医者の手際がよく、何が起きたか知らないまま
俺は丸ごとお母さんのあそこから引きずり出された。

「おめでとうございます、鈴木さん」
へその緒がまだ処理されていない新しい俺の体がお母さんの懐へと運ばれる。
元気な産声を上げている俺を見て、かなり疲れた顔が笑顔に変わった。

「元気な女の子ですよ」

・・・へ? ちょっと待てそこの看護婦さん、今なにを・・・

「無事産れてきて…よかったね…望(のぞみ)…」

お、お母さん!?  えっ、えぇーーーーーーーー!!!

思考が停止した。

ショックだ。

女の子だ。

『俺』、なのに?


死神のばっかやろーーーーーー



           (完)



            続編:生まれた意味


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