読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂きました。(熊猫)
投稿日 : 2007/04/23 14:24 投稿者 : ブルーセージ 「たっだいまー」 俺の名前は鈴木望(のぞみ)、青春全開の17歳。 男…だったが、わけあって今は女の子になっている。 お母さんとの二人暮らしも最初は辛かったが、今はもう 慣れているし、この方が自由でいいかもしれない。 「お母さん~ ・・・いる?」 まぁ、おかけ様で前世の記憶と学力は継承していて、 ガキ頃からずっと天才児として注目されたし、かーなり ボーイッシュ(つーか男だし)な中坊時代も楽しめた。 「まだパートから帰ってないの? 困ったな・・・」 顔がお母さん譲りで、なかなかの美人だと自分も思うが、 女の子的で男性と付き合う気は全くない(当たり前だ)。 …共に青春を燃やす男友達ならいっぱいあるけどな。 「お母さん・・・?・・・っ!!」 呟いてる俺の目に、信じたくない光景が飛び込んできた。 お母さんが、うつぶせて机の影に倒れていた… =つづく= 投稿日 : 2007/05/10 12:30 投稿者 : ブルーセージ 「ピーボー、ピーポー」 俺とお母さんは救急車に乗せられ、サイレンが妖しく響く。 車内で救命処置が行われたが、状況は最悪のまま。 このままでは、まさか病院に着く前に・・・ 嫌だ!こんなの冗談でしょう?責任者出てこいよ! 「うるさいな、人の仕事に邪魔しないでくれる?」 「うわぁ!?」 俺の心をこめたの懇願とほぼ同時に、お母さんの側に 黒ずくめのキレイなお姉さんが姿を現した。 「あたしが見えるの?もしかして、あんたが例の鈴木望ちゃん?」 ちゃん付けで呼ぶな!・・・と叫びたい所だが、 俺の実体を知ってるこの女は、間違いなく死神だろう。 一体あの世で俺がどのような噂になったのも聞きたいが、 今はもっと大事なことがある。 「頼む、お母さんを…」 「はいストップ。知ってるでしょう?そんな事は出来…」 一瞬、死神の姉さんの口が止まった。そして・・・ 「…まぁ、あんたがその鈴木望ちゃんなら、出来ないと言うのも言えないけどね」 話によると、俺の魂を受け入れるために、今の体に処置が施されて、 亡くなったばかりで鮮度の良い魂を取り込むことが出来るそうだ。 つまり、目の前にいるお母さんはもう助からないけれど、 17年前のあの時のように、魂だけを俺の中に取込まれば! 「険しい道のりになるわよ?」 「構うものか」 その日、お母さんは心臓の急病でなくなった。 お母さんの昔の家族に引き取られ、俺の新しい人生が始まった。 まだ形すらなってない一つの魂をお腹の中に抱えて・・・ =つづく= 投稿日 : 2007/05/11 22:25 投稿者 : シンス・コゴロク 新しい家庭は、母さんとの二人暮しより経済的には楽だったが、居心地は非常に悪かった。 なんと言ってもみんなの視線が嫌だ。 女性たち、ばあちゃん、叔母さん、従妹からは拒絶的な冷たい視線を向けられた。 まぁ俺はもともと望まれない子どもだったからな・・・ だが、男たちの視線はもっと嫌だ。 彼ら、じいちゃん、そして叔母さんの旦那のいやらしい、なめるような視線で俺を見た。 男子生徒よりもっとねちっこい、いやらしい視線だ・・・ 一応自慢だった、母親似の美形な顔、陸上で鍛え上げられたしなやかな肉体、それでいてふくよかな胸と安産型の立派な腰が嫌になる・・・ =つづく= 投稿日 : 2007/05/13 14:39 投稿者 : ブルーセージ 「望は本当にいい子よのぉ、後でお小遣いでもあげようかの~」 「うっ、ぐっ・・・」 親族の男たちの半分痴漢な行為に気持ち悪い と思いながら、あえて抵抗はしなかった。 これは、可哀想なお母さんを救うただ一つの方法だから。 肉体のない魂によりしろを与える、そのための犠牲・・・ やがて、ついに俺の中にもう一つの心音が宿った。 「さすがあの女の子供だわ、母親とよ~く似ている」 「今回は誰の子でも知らないだって。全く、いやらしい」 「だからあの時こいつを引き取るなんか反対したのよ!」 親族の女たちの反応は、予想通りだった。 それでも挫けない俺。茨の道でも、構わず進む。 たとえ、誰の助力も得ることができないとしても。 お腹の中にもう半年ちょっと待っててね、お母さん・・・ 俺が、こんどこぞ絶対に幸せにするから。 =つづく= 投稿日 : 2007/05/14 01:00 投稿者 : シンス・コゴロク 「おええええ!」 とは言ってもやっぱり悪阻はつらい・・・ 「だろうな・・・これから先もっとつらいぞ」 急に声をかけられ、ぎくっと振り向くと、十七年前、オレの前の肉体を潰した、懐かしき死神いた。 だが、死神の象徴ともいえる大鎌を持っていない。 「久しぶりだな、鈴木 望君」 「久しぶりだが・・・鎌はどうした?」 「ん?ああ、今はオフだ」 死神にオフなんて物があるのか・・・苦笑がもれそうになるが、死神が先ほどの話題を続ける。 「同僚の女のコに聞いたが、母親の魂を救うために妊娠したらしいじゃないか。これから先大丈夫か?」 「出産の覚悟は、もち・・・」 「どこで出産するのだ?」 ・・・確かに 「それに、生まれてくる子どもの出生届とか分かるのか?私は死神だから良く分からぬが・・・確かだれが父親とか書く必要があるのでは?」 イッ!?マジ!? それはいろんな意味で面倒だ。 「誰の子でも知らない」 と親族の女どもには言っておいたが、母さんの新たな肉体の父親の候補は二人いる。 だが、これを公にするのは危険だ・・・ =つづく= 投稿日 : 2007/05/14 01:09 投稿者 : シンス・コゴロク 「・・・考えていなかったのか」 ため息をつきながら死神は言った。 「なのにどうして安易に母親の魂を助けようとしたのだ?」 「・・・母さんと二人で幸せになると約束したからだ」 「だが、お前の母親はそこまでして自分も幸せになろうと望んでいるだろうか? 子どもにそんな苦労をかけさせたくはないと思うのが親の人情ではないだろうか?」 そうかもしれない、だが・・・ 「だが、ここで母さんを助けないと俺が『生まれた意味』がない気がする・・・」 「何だ、お前の言う『生まれた意味』と言うのは?」 死神がいぶかしげに首をかしげる。 「それは・・・母さんは孤独で・・・うぷっ!おええええ!」 説明しようとしたが、悪阻で嘔吐してしまった。 そもそも、急に聞かれた問いのため、考えが断片的でまとまっていない・・・ 「・・・辛そうだからこれ以上長居して聞くのは酷だな。私は仕事に戻るとしよう。ではまたな、鈴木 望君」 『仕事』と軽く言ったが、彼らの仕事は人の命を奪う事だ。 いや、おそらく殺すのは人だけではないだろう。 死神の気配が去るのを感じながら、俺はのんきにそんな事を考えていた・・・ 「うぐっ!おええええ!」 =つづく= 投稿日 : 2007/05/15 02:42 投稿者 : ブルーセージ あれこれと悩むうちに、いつのまにか月日がめぐっていた。 春休みから夏休みへ・・・心音の鼓動からおしとやかな胎動へ・・・ 俺の中に眠っている命が、どんどん確実なものになってゆく。 目立たなかったお腹も、さすがに隠しきれなくなり、あえなく休学した。 「『生まれた意味』か・・・」 今はお母さんと一緒に居る。それだけで、俺は幸せを感じた。 男だった頃に味わったことのない、二人で命を共有する嬉しさ。 もしかして、これこそが俺の生まれた意味ではないかと思った。 「・・・あっ」 ふと、子宮を通じでお母さんの小さな体を感じた。 手かな? 足かな? それとも頭? 背中? そう考えると、思わず柔らかい表情に、微笑みになる。 たぶんお母さんも、こんな思いで俺を産んだんでしょう。 「明日も、頑張ろう」 消灯して寝る。いい夢を見れますように・・・ ・・・と思った途端、すっかり馴染んだ顔が出てきた。 例の死神のオッサンだ。なぜか深刻な顔をしている・・・? =つづく= 投稿日 : 2007/05/24 00:31 投稿者 : シンス・コゴロク 「いくつか問題が起きた」 死神のオッサンが挨拶もそこそこ切り出した。 「君の母親の魂を助ける事がご法度とボスたちが決定してしまった」 「な!なに!?」 「あわてるな。一発で君の母親が助からないと決まったわけではない」 死神は続けた。 「まず、母親を助ける理由が幹部が納得するようなものでないといけない」 「・・・納得しなかったら?」 「それはひどい事になる。君は流産し、母親の魂は助からずに地獄に行き、君は次の出産で死ぬ」 「最悪だ・・・ってあれ?次の出産?」 「話してなかったな。イザベラが・・・ああ、君の母親を刈った女の死神だ。彼女は規律違反ということで人間界に落とされることになった。 そして、君は望もうと望むまいとのイザベラの魂を宿した子を産む事になる」 もっとも、死神として働いた記憶のほとんどは抹消されるがなと死神はつけくわえた。 「望もうと望むまいとってことは・・・」 「そうだ。たとえ幹部が納得しても、イザベラが人間界に落ちることと生まれること、そして君が母親になることは決定事項だ。」 「・・・悪い事をしたな」 「気にするな。人間界の生活なんて我々死神から見たら短い。それよりお前はとんだ荷物を背負う事になるんじゃないか?」 「・・・いや、母さんが助かるように手配してくれた彼女には感謝しないとな」 「そうか・・・見上げた精神だな。さて、前半はこれで終わりだ」 「ゲッ!?後半があるの!?」 「ああ」 =つづく= 投稿日 : 2007/05/24 01:06 投稿者 : シンス・コゴロク 「あと二つある」 深刻な顔のまま死神は続けた。 「一つ目。君が妊娠するまで少し時間が空いたから、君の母親の魂はだいぶ浄化されてしまったようだ」 「なに!?じゃあ母さんは」 「そうだな。前世が君の母親だった事はまず忘れているだろうな・・・それでも産むか?」 「・・・産むさ!」 「おお!それだけはっきりいえるなら、幹部も納得するかもな。さて、あとひとつ。これが結構厳しい」 「なんだ?」 「君は2人の魂を我々死神に引き渡さないといけない。母親の代わりの分と、さらに利子と言おうか償いと言おうか、もう一人分だ」 「えっ!?殺す!?」 「そこまではしなくていいが、きっかけを作らないといけない」 「・・・」 「母親を助けたないならしなきゃいけないぞ。やめるなら今だ・・・ではなく、母親の魂を宿した子が生まれるまでだ」 「・・・分かった」 だがこの問題はあっさりと解決した。 ここしばらくはオッサンは出張でいなかったので、問題は起きずに済んだ。 だがオッサンが出張から帰って来たとき家が修羅場と化した。 どういうことか、もう想像が付いた奴もいるだろう。 母さんの肉体の父親候補二人は、じいちゃん(もうジジイでいいよ)と叔母さんの旦那(もうオッサンでいいよ)だったのだ。 このことが家でばれた。 ジジイとオッサンは喧嘩を始め、叔母さんはオッサンにダイビングプレスをかまし、ばあちゃんは杖でジジイを殴り、そして従妹は 「原因はあんたなんだから殴られてきなさいよ」 と面白がって俺を乱闘の中に押しやろうとした。 俺は全員から数発ずつ攻撃されながらも、何とか逃げ出した。 そして、後で聞いた話だが、幸か不幸かこの喧嘩でジジイはオッサンとばあちゃんに殴り殺され、ショックのあまりばあちゃんは自殺したようだ。 これで死神の約束どおり、二人の魂が死神の元に引き渡された。 他人の死を喜ぶのは気が引けるが・・・ だがそれより、俺は完全に孤立化した。 お金はジジイとオッサンにもらった小遣いがかなりあるが、これから行く先もない・・・ましてや出産するあてなど。 どうしたものか・・・ =つづく= 投稿日 : 2007/05/24 15:07 投稿者 : ブルーセージ 「ほらっ、さっさとこっちも片付けなさい!」 「…は、はい!」 ジジイの他界以来、使用人同然に扱われる日々が続く。 お腹に赤ちゃんが居るにも関わらず、過酷な労働を強いられる。 『働かざるものは食うべからず』。お母さんのためにも、 お金がなく自力で生きれない俺は我慢して生き延びてゆく。 「モタモタしないで!」(ドカッ) 「っ!」 熊くらいある叔母さんの太い足から繰り出したキックは、 廊下を雑巾かけしてる俺の大きく膨らんでいるお腹に炸裂。 衝撃を受けた子宮。はっきり言って、痛い。 「…ご、ごめんなさい…」 今すぐ横にして休むほどに、お腹が張ってきて痛い。 それでも、謝らないと、次の攻撃が来るから・・・ こんないつ早産してもおかしくない毎日の中で、 お腹の赤ちゃん…お母さんは根強く元気に育っていく。 どうやら俺の決心が、死神の幹部たちを納得させたようだ。 秋はそろそろ終わり、出産予定日もまただんだん近づいてくる。 助けを期待できない自力出産の運命を受け止め、覚悟もしておいた。 後は、陣痛が来るのを待つだけだ。 =つづく= 投稿日 : 2007/05/25 23:45 投稿者 : シンス・コゴロク 「ほらっ、さっさとこっちも片付けなさい!」 「…は、はい!」 「モタモタしないで!」(ドカッ) 「っ!」 熊くらいある叔母さんの太い足から繰り出したキックは、廊下を雑巾かけしてる俺の大きく膨らんでいるお腹に炸裂。 いつもと変わらない冬のある日・・・と言いたいがぜんぜん違う。 俺はこの日の夕方5時あたりから陣痛に襲われていた。 初産だから進行はそこまで早くないだろうが、こんな家では安心して産むことなど出来ない。 みんなが寝静まってから俺は家を抜け出す事にしていた。 「そこ終ったら次あっち!」 「は・・・はい」 散々おばさんに振り回されて、俺が家をそっと抜け出し、シトシトと冷たい雨が降る外に出る事ができたのは夜中の1時半だった。 陣痛は12分おきに俺を襲った。そのたびに俺は足を止めてしまう。 「ウッ・・・くうぅ・・・母さん・・・もう少し待って」 ブロック塀に寄りかかって休みながら俺はつぶやいた。 俺は当てもなくふらふら歩いているわけではない。 ある所に向かっていた。 家族を頼る事も出来ず、病院も頼る事が出来ない俺が、唯一安全に出産できると判断した場所・・・ それは学校の体育倉庫だった。 =つづく= 投稿日 : 2007/05/25 23:57 投稿者 : シンス・コゴロク 「あ・・・はぁ・・・」 裏手から学校に侵入し、合鍵を使って俺は体育倉庫に入った。 俺の学校にある体育倉庫はグラウンドと体育館と直結している。 つまり、屋外の運動部の道具も屋内の運動部の道具もこの体育倉庫にある。 俺は体育倉庫を見渡して、どの道具が出産に使えそうか考えてみた。 跳び箱にしがみついて出産する? あるいは高飛び用のポールにしがみついて出産する? さらにそれに丈夫な棒(陸上部の槍とか?)を通して、通した棒にしがみついて出産する? いや、ややこしい事は考えず、シンプルにマットの上で四つんばいになって出産する? あ!江戸時代の産婦のように綱引き用の綱を握って出産なんてどうだ? 『ははは・・・いろんな格好で出産している自分を想像したらなんか興奮しちゃった』 俺は苦笑を漏らした。 だがそのとき 「ううう!」 今までより一際強い陣痛が俺を襲い、俺は腹を抱えて両膝を付いてしまった。 そして 「あああ!」 のけぞったと同時に俺のアソコと脚が温かい水でどっと濡れた。 あああ・・・下着もスカートもびしょぬれだよ・・・じゃない! 俺は破水したのだった。 =つづく= 投稿日 : 2007/05/26 04:51 投稿者 : ブルーセージ 破水した以上、もう贅沢に出産方法を考える場合ではなかった。 濡れた下半身だけ脱ぎ捨てて、またがるように両足を大きく開く。 「あぐっ、ぐっぅーーー」 予想通り、ついさっきより更にワンランクアップする陣痛。 お母さんもあの時、こんな苦しい思いをして俺を… 「はぁはぁ…んっ、ふぅんっーーー」 体勢をころころ変えながら息むたびに、下のほうが熱くなる… まさか俺、感じてる…? 冗談じゃないぞ、こんなに痛いのに… 「あっ、ああん、うっあっあんーーー」 (ズブッ)「!?」 危うく正気を失いかける時、股間に何か変な鈍い音がした。 ワンテンポ遅く、それが何を意味してるかを理解した。 アソコから、赤ちゃんの頭が…長くて短い十ヶ月の間に、 ずっと俺と一緒だったお母さんが、出てき始めたのだ… 『前世が君の母親だった事はまず忘れているだろう』 あれ、おかしいな、急に寂しくなってきた…嬉しいはずなのに… この瞬間こそが、俺の生まれた意味のはずなのに…どうして… =つづく= 投稿日 : 2007/05/28 21:48 投稿者 : シンス・コゴロク 「う・・・うぅう!」 頭が出てから1時間は経っただろうか・・・母さんの肉体は肩の辺りで詰まっている。 母さんは・・・俺を拒絶しているのか? そうなると、俺は本当に孤独だ・・・ そう思ったとき、さっきの寂しさがもっと膨れ上がった。 そうか・・・だから寂しいんだ・・・ たとえ母さんが拒絶しているわけじゃなくても、母さんは俺の子宮から出る。 今まで、俺が妊娠している間は、二人で一人だったが、それが終る・・・ 母さんは前世の約束はおろか、俺の母親だった事も忘れている、一人の人間としてこの世に生まれるんだ・・・ 「うぅ・・・」 そう考えると、涙が出てきた。 同時に陣痛がまた来る。 「うぅう!寂しいよ~~~!!!!」 股間から母さんの頭をのぞかせたまま、四つんばいの上体でのけぞりながら俺は気兼ねなく叫んだ。 まるで狼の遠吠えのように・・・ =つづく= 投稿日 : 2007/05/29 16:53 投稿者 : ブルーセージ 力いっぱいの叫びは、無情にも外の雨声にかき消される。 一度始まった出産は、もう止める事はできない。 (ズッギュッ)(グニュッ) お腹が大きく動き出す。俺しか聞こえない鈍い音と共に。 それは何を意味するのか、考えるまでもなかった。 「嫌っ、出ちゃいやぁ・・・やめて、お願いやめて・・・」 (ドクッン) 「おっ、おかぁっあっさんぁーーーーー」 頭の中は、真っ白になった。 意識が遠くなっていく・・・ 『だから、あれほど忠告したのに』 これは、死神のオッサンの声…? でも、姿が見えない…直接俺の頭に話してるのか…? そうだ、お母さんは? お母さんはどうした…? =つづく= 投稿日 : 2007/06/18 20:41 投稿者 : シンス・コゴロク 母さんの肉体は肩まで出ていた。 もうすぐ産まれる・・・ 「いや!いや!いやあああぁ!」 首を振りながら、俺は泣き叫ぶ。 また陣痛が来て、母さんの肉体がさらに押し出された気がする・・・ あ・・・また頭が真っ白に・・・ん?また死神の声が聞こえる・・・ 「かわいそうだったが、やっぱりこんな形で、掟まで破って情けをかけることはなかったんじゃないのか?イザベラ?」 ん?イザベラって、母さんを狩った死神だったな・・・ イザベラは答えない。 死神のオッサンが追い討ちをかけるように言った。 「彼女は・・・彼か?まぁいい・・・自分が母親の新たな肉体を生み出す意義はおろか、自分が生まれた意味すら見失おうとしているぞ?」 イザベラはやはり黙ったままだったが、しばらくして低い声でこういった。 「赤ん坊が生まれた瞬間、新しく見つけるかもしれない・・・」 えっ・・・イザベラ、何だって? 「あ!んっ!」 とどめとばかりにさらに強い陣痛が俺を襲う。 「はああああああんんっ!!産まれる!産まれちゃうぅ!」 イザベラの言葉の真意が解らぬまま、俺は母さんの魂を宿した肉体を生み出した。 =つづく= 投稿日 : 2007/07/02 14:02 投稿者 : タカシ 『・・・次のニュースです。今朝、xx高校の体育倉庫に 一人で出産し意識を失った女子生徒が発見されました。 女の赤ちゃんと共に病院に運ばれましたが、いまだに 意識不明のまま。命の危険は母子ともないだそうです。 この事件について、警察は・・・』 「イサベラ、これで良いのか?」 「最善だと思うわ、彼女はあたし達の世界の事知りすぎた…」 「・・・」 「だから、彼…彼女には、忘れてもらうしかないの、すべてを」 「彼女が目覚めた時、体も心も完全に鈴木望として生まれ変わる」 「男だった記憶も、次はあたしを生む知らせも…」 「「ただの一人の母親として、寿命が終わるまで生きていく」」 =おわり= ← 前編:この世にとどまって |