雪女

投稿日 : 2008/09/13 14:47 投稿者 : huku

ある山の奥に、大きな屋敷が建っていた。
そこには昔、「未緒」という女が住んでいた。
若く美しかった未緒は、夫と一緒にその別荘へと来ていたのだ。
しかしある日、夫が外に出ていったきり帰ってこなくなった。
外はもう吹雪で、夫を探しにも行けない。
未緒は泣きながら夫の帰りを待った。
5日たち、やっと吹雪もおさまった。
未緒は急いで外に出た。
どれくらいか行った所に、大きな雪の山があった。
その雪を祈るような気持ちでかきわける。
ーー見つかってしまった。
夫。
未緒は泣き叫んだ。
ずっと、ずっと。
ーーーーー
どのくらいたったのだろう。
未緒が起き上がると、そこにもう夫の死に柄はなくなっていた。
そして自分はいつのまにか、白い着物に着替えていた。
そして…お腹が大きくせりだしていた。



投稿日 : 2008/12/10 09:28 投稿者 : 熊猫

 美緒はしばらく大きくせり出したお腹をさすっていた。
涙はすでに枯れ果ててしまったらしく、一滴も零れ落ちなかった。
その時、美緒のお腹が波打つようにぼこっぼこっと動いた。

胎動だ――。
きっとお腹の子は夫に違いない。夫の魂が美緒のお腹に宿ったのだ。
生きなきゃ…。
漠然と、しかしはっきりとした意思が美緒の体を駆け抜ける。
戻ろう。別荘に。
しかし、無我夢中でここまで来たので、帰り道がわからない。

さまよう内に、季節は春になり、夏になった。
山奥は新緑の草原になっていた。
しかし、美緒は自分たちの別荘にたどり着けず、さらにお腹の子は成長し続け、もはや歩くのも困難になるほど美緒のお腹は大きく膨らんでいた。



投稿日 : 2008/12/12 20:20 投稿者 : はるさめ

そしてお腹に宿った子供が生まれないまま、2度目の冬がやってきた。
そして美緒は、そのときにはもう薄々気がつき始めていた。
“もしかして、自分も死んでいるのではないか?
この世に未練があるから、まだここを彷徨い続けているのではないか?”と。
何故なら、美緒は夫が死んでから何も食べていないからだ。
眠ることさえもしていない。
しかし美緒は、腹部以外は何も変わらなかった。
ただその腹部だけが、少しずつ、確実に膨らんでいった。
その1日1日成長する子供だけを希望に、美緒はさ迷い続けた。
そしてある日、美緒の目線の先に、一人の旅人が歩いているのが見えた。
美緒は重いお腹を持ち上げ、そっとその旅人に近づいた。
『すいません…』
しかし旅人は、まるで美緒がそこに存在しないかのように横を通り越して行ったのだ。
『あの…ちょっと…--!』
美緒はその肩に手を掛けようとしたが、美緒の手は旅人の肩に触れずにスっと下がっていった。
『そんな…』
美緒はやっと自分が死んだ事を実感した。
そしてもう一度お腹に触れた。
そこだけはほんのりと温かみを帯びていた。
そしてときたまトクっと鼓動を打っていた。
そして美緒は心に決めた。
ーーこの子が産めなかったことが私の未練なら、この子を産んで夫の元へ逝こう、と。
そう決心したとき、美緒は腹部にズンっとした痛みを感じた。



投稿日 : 2008/12/12 20:49 投稿者 : はるさめ

『ううぅ…』
突然の痛みに不意を突かれ、美緒はその場によろめいてしまった。
『ん…はぁ…』
しかし美緒はもう一度立ち上がり、また歩き出した。
もう子供を産む覚悟はできている。
どうせなら少しでも楽に産みたいと思い、美緒は出産ができる所を探し歩いた。
『ん…うぅ…-ッ』
時折来る陣痛にも耐え、やっとなちいさな堀のような所を見つけた。
ちょうど吹雪が入り込まない角度にできている、手ごろな堀だ。
美緒はそこに降り、積もったばかりの雪の上に倒れこんだ。
パサっと毛布のような感触がして、普通なら感じるはずの冷たさを感じなかった。
『ん…ん…ふぅぅ…はあぁ…』
堀を見つけてから数時間ほど経ったころ、美緒はすでに荒い息をしていた。
数時間前とは比べ物にならないほどの痛みが美緒に襲い掛かっていた。
そして美緒は、死んでいるはずなのに陰部や腹部など、いたるところに熱を感じていた。
『はぁッはぁッ…---ッ
うッーー…』
ほんのりと紅潮した頬がはたりと落ちる雪をじんわりと溶かす。
そして流れるはずのない汗が滴り落ち、美緒の下の雪に小さな穴を作った。
『---ッぁああ…ンぅぅ…
…はぁ、はぁあンッ』
美緒は苦しみのあまり長い間閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
外はもう薄暗く、吹雪が若干強くなっていた。
そして手をそっと硬く張り詰めたお腹に乗せ、愛おしげにさすった。



投稿日 : 2008/12/24 22:54 投稿者 : 短・短・

どれくらい経っただろうか。
突然、美緒は膣の奥でなにかが切れるような音を聞いた。
『ん…ぁアッ』
次の瞬間、美緒の奥から熱く、清らかな羊水が噴出した。
『う…ん…んー……ッッ!!!
はっは…っは…--ッ!!』
自分の本能を信じて、美緒はがむしゃらにいきんだ。
いきむたびに感じる熱は、美緒の体を貫くように痛んだ。
しかし美緒は、痛みを感じることが嬉しかった。
その痛みは、美緒に
「自分はまだ生きているー」
そう錯覚させた。



投稿日 : 2009/12/09 00:45 投稿者 : 熊猫

何回目かの息みの後、そっと股間に手をやると、なにかべっとりとしたものが、手に触れた。

- 赤ちゃんだ!

きっと赤ちゃんの頭に違いない。
生まれ出る時が近づいているのだろう。
さらに、痛みの間隔が短くなってきた。
既に、一息つく暇もなく、次の痛みが襲ってきた。

「…っ、くぁああ!ん…、はっ、あぁああ、はっ、ああああぁぁ!」
ズルっという音が響き、赤ちゃんの頭が全部出てきた。
あと少し!



投稿日 : 2010/01/21 21:51 投稿者 : 熊猫

頭をもたげて股間を覗き込む。
赤ちゃんは、シワくちゃで、べっとりと濡れていたが、最愛の夫の面影にそっくりだった。
痛みのリズムに合わせ、息む。

<まっ、ママ…、くっ、苦しい…。くっ、首が…ぁっ…>

 はっとして、また頭をもたげる。何か苦しそうな声が聞こえた気がする。
赤ちゃんは頭から先が出てこず、心なしか顔の赤みが増したように感じられる。
子宮の中で成長しすぎて、肩がつっかえて出てこれないのだろうか。
美緒は、とっさの判断で、少しだけ出ている首の根っこ辺りを掴み、引っ張り出そうとしたが、赤ん坊はビクともしない。
次の陣痛がやってきた時に、陣痛にあわせて引っ張ってみても同じだった。

 どうしよう!このままでは赤ちゃんが死んでしまう!!

 どうせ自分はもう死んでいるんだ。少しぐらいムリしても、大丈夫なのではないか。
今は、自分の事よりも、この子を産み落とすのが先だった。
美緒は、赤ん坊の首根っこに置いていた手をそのまま、股間へと伸ばした。
「くっ…、はぁああっ…」
 膣口を広げる形になったが、そのまま、自分の中へと入れる。
いくら幽霊といえども、人間である。そう奥まで入るわけがなく、指全部が限界だった。
指を動かしてみたが、赤ちゃんの肩先には触れる事ができなかった。

 どれだけ大きな赤ちゃんなのか。自分が彷徨っていた分だけ赤ちゃんが成長し、難産になっているかと思うと、
美緒の心は張り裂けんばかりに痛んだ。
「ごめんね。私のせいだ…」
 美緒の周りに積もった雪に、また一つ、ひとつ小さな穴が開いた。
それは、汗に混じって地上に落ちた美緒の大粒の涙だった。



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