自由研究

投稿日 : 2009/01/21 22:35 投稿者 : 聖

「…本当に、好きなだけ貰っていっていいんですか?」
「あぁ、構わんよ。今までお前さんには色んなおもちゃを買ってもらったからね。
 それに、どうせここにあるやつはほとんどがそのまま捨てられちまうものだ。
 捨てるくらいだったら、お前さんに引き取ってもらって大事にしてもらった方が、こいつらも喜ぶわい。」

近所の小さなおもちゃ屋が、潰れることになった。
俺、宇佐美拓がガキんちょの頃から通いつめていた小さなおもちゃ屋だ。
小さい頃からプラモデル作りや、フィギュア収集が大好きだった俺は、
親から小遣いを貰ってはそのおもちゃ屋で新しいプラモデルやフィギュアを買い続けてきた。
店の親父さんとも長い付き合いで、他にどんなに新しく品揃えのいいおもちゃ屋がオープンしてもその店に通い続けていた。
それでも、時代の流れ、そして寄る年波には逆らえなかったのだろう、とうとう親父さんが店をたたむことに決めたのだそうだ。
今となっては、デパートに子供たちを奪われ、
今は実家を出た俺が、たまの帰省の時にふらっと訪ねてみてもお客の姿をほとんどみかけることのなかった店だった。
そこで、親父さんが俺のためだけの「閉店セール」を開いてくれたのだ。
「セール」と言っても、俺からお金を取る気はこれっぽっちもないらしい。
倉庫の奥に眠っていたような、それこそ年代もバラバラなプラモやらフィギャアやらが無造作に俺の前に並べられていて、
俺が見たことのないようなものもたくさんある。

一つ一つじっくりと品定めをしていた俺の視界に、ある箱が入った。

『自由研究キットシリーズNo.8 赤ちゃんが生まれるまで』…?

俺は魅入られたようにその箱を手に取っていた。
メーカーの名前も見てみるが、聞いたことのない会社だ。いつ頃作られたのかもはっきりとは分からない。

「親父さん、これって…?」

目を細めながら、俺が品定めしている様子をニコニコしながら見ていた親父さんの方に振り返りながら言った。
どれどれ、と親父さんが歩み寄ってきてそのパッケージをまじまじと見つめるが…

「…はて? こんな品物置いてあったかな…?」

どうやら親父さんにも分からないらしい。
普通の人なら、そんな得体の知れないものなど気味が悪くて欲しくなんてならないのだろう。
ただ、コレクターとしてはそうそうお目にかかれないであろうものを前にして、みすみす見逃すことなど出来ない。
俺はとりあえず、その『自由研究キット』なるものをキープしつつ、
他にいくつか適当に貴重そうなプラモやフィギュアを手にとって、親父さんとこの店に別れを告げたのだった。

電車を何時間か乗り継いで家に帰った俺は、持ち帰ったプラモやフィギュアの箱をそこらに積み重ねた。
他にもまだ手をつけていないプラモやらフィギュアやら、ごまんとあるのだ。
幸い、もう実家も出ているし、(これは幸いかどうかはともかくとして)彼女のようなものもいない。
そんな具合で部屋中にプラモやフィギュアが並べてあってもなんら問題はないのだが…
ちょっと最近忙しさにかまけてそのまま積まれっぱなしになるものも増えてきたか。
そのまま、その『自由研究キット』のことなど忘れてしばらくの月日が流れたのだった。



投稿日 : 2009/01/21 22:56 投稿者 : 聖

年の瀬になって、大掃除の季節になった。
ショーケースの中身を全部出して掃除をしていたところ、以前ふと視界に飛び込んできたあの『自由研究キット』が目に入った。

「…そういや…これも貰ったままほったらかしにしてたなぁ…
 ちょっと休憩、ってことにして開けてみようかな?」

誰に聞かせるわけでもない独り言を言いながら、俺は丁寧に外装のビニールを剥がし、箱を開けてみた。
中からは、取扱説明書に、なにやら妙な粉のようなものや薬剤の入った小瓶、小さなスポイトに…
かわいらしい女の子のフィギュアが出てきた。
少し茶色がかったセミロングの髪の毛に、フィギュアらしい均整のとれた体格。
見たところ25cmちょっと、だいたい1/6スケール、ってとこだろうか。
…しかし、衣装がセットされているわけでもなく、
一糸纏わぬその姿は…最近の性教育ってやつは進んでるんだかなんだかよく分からんな…。

緩衝材に包まれるように箱の中で横たわっていた人形に手を伸ばしてみる。
…普通のフィギュアにはない感触、なんと言うか…まるで人の体のように柔らかい。
控えめに膨らんだ胸の感触は…まぁ、触ったこともないのだがまるで本物ってこんなんだろうなぁ…
と想像をかき立てるには十分なほどのリアリティだった。

妙な気分をなんとか抑えつつ、取扱説明書に目を通してみる。なになに…?

『この自由研究キットは、赤ちゃんが生まれるまでの様子を克明に再現できるキットです』

『通常ならお母さんのおなかの中で約40週をかけて生まれてくる赤ちゃん、
 その成長の様子を約40日間に凝縮して、じっくり観察できるようになっています』

『夏休みの期間にあわせて作られているので、自由研究の題材にも最適です』

…なんだかまゆつば物だが、どうやらこの人形で赤ちゃんの成長の様子を観察することが出来るらしい。
さらに、説明書を読み進めてみる。

『まず、一緒に入っている『赤ちゃんの粉』と、『赤ちゃんの薬』をよーくかき混ぜてください』

『出来上がったら、それをスポイトを使って人形の中に入れてあげてください』

説明書に書かれているとおりに、その粉と薬とやらをかき混ぜてスポイトで吸い上げる。
…で、人形の中に入れてあげてください…って…
背中や全身をくまなく探してみたが、ふたの様なものはどこにも付いていない。
唯一、この液体の入ったスポイトの先端を通せそうな場所といったら…
人形の両の足の間にある、いわゆる「アソコ」ぐらいしかなかった。
なんとなく、妙な気恥ずかしさとちょっとした罪悪感を感じながら、俺はスポイトをそこへ挿入した。

…何をやってるんだ、俺は。
馬鹿馬鹿しい、そんなことより早く掃除を続けないと。

我に返った俺は、そのまま机の上にその人形とよみかけの説明書をほったらかしにしたまま掃除に戻り、
そのままその人形のことなどすっかり忘れてその夜は眠りについたのだった。




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