一部、読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂いた部分がございます。(熊猫)
一部、明らかなミスタイプがございますが、そのままにしてあります。(熊猫)
投稿日 : 2017/11/22(水) 11:16 投稿者 : あるる 北国の小さな保育所。 春から秋は農家の繁忙期を迎えて預かる子どもたちの数は多いけれど、雪が降ってしまうと通所する子どもたちもすくなくなる。 今はお勤めしている親御さんのお家の子が10人くらいで、保育士の人数も少ない。 来月出産予定日をひかえたさおりも、明日から産休で休みを貰うことになっていた。 「さおりちゃん、無理しないでね」 ぐずる小さな子を抱っこしていたら、先輩の美沙が声をかけた。 「はい、大丈夫です」 大きくなったお腹に子どもを乗せるような抱き方になっていたらしい。さおりは子どもを抱えなおし、吹雪の窓の外を見た。 「すごい雪…」 激しい吹雪は勢いを増し… 保育所に通ずる道路が通行止めになってしまう。 やむを得ず児童とともに通行止め解除になるまで保育所待機、ということになってしまった。 「困ったわね…さおりちゃん、体調大丈夫?」 所長も心配して声をかけてくれるが、一番心配なのは子どもたちだ。 「私は大丈夫ですが、子どもたちが不安がって…」 何日か前からお腹は頻繁にはるが、もはや何時ものことと慣れている。 教室に戻り、子どもたちのそばにいることにした。 とつぜんのお泊りになってしまって、小さな子達は不安がっている。 「ママ、まだ来ないの?」 おぶって、と言わんばかりに背中にからだを預けてきた女の子をよいしょと背負うと、ずきりとお腹に痛みが走った。 「んっ」 かがもうとしたら、 「抱っこ!」 …と前からかけてきた子がお腹に勢いよくぶつかってしまった。 「う!」 (まずい) 膝をついて、おなかを庇うように抱えて… 「う、うう」 ぎゅううっ、とおなか全体を締め付けるような強い痛みがおそって、さおりはうめき声を漏らした。 (だめ、だめ) おなかに添えた手に力が入る。 今まで感じたことのない強い痛み。 「ん、う~っ…!」 さおりはその場にうずくまった。 投稿日 : 2017/11/28(火) 20:53 投稿者 : あるる 「しょちょうせんせい、さおり先生がお腹痛いの!」 職員室に女の子が告げに来て、所長は慌てて教室に駆けつけた。 「さおりちゃん、大丈夫!?」 「先生…」 うずくまっていたさおりはお腹をさすりながら苦しげに顔をあげた。 「す、すみません…急に、痛くなって…」 うう、とうめき声をもらす。 「大丈夫、大丈夫よ… 初めてのお産は時間がかかることが多いから、すぐには産まれないと思う。……お昼寝ぶとんを敷くから、横になって」 物珍しそうな子、心配そうな子、不安でぐずる子に囲まれて、さおりは陣痛に苦しんだ。 あまり痛がっては子供たちを不安にさせる、…そう思っていてもどうしても声が漏れてしまう。 「うっ、う……!う、ああっ………うう、うう!」 母親学級では「陣痛は少しずつ強く、はじめは間隔がある」…と言っていたような記憶があるが、急に強い痛みがきて、おさまることがない。 「いっ、痛あい…!!お腹が…!!ああ~っ!!」 いちだんと痛みがまして、さおりは叫び声をあげてしまった。 投稿日 : 2017/11/28(火) 23:17 投稿者 : あるる 「所長先生、さおりちゃん、ずいぶん陣痛が強いみたいです…」 さおりに聞かれると不安にさせるだろう、廊下で美沙が心配そうに相談してきた。 「ええ…私もそう思うわ。救急車を呼べないか電話したけど、道路が寸断されていてどうにもならないの…」 二人とも出産経験がない。 途方に暮れているのが、正直なところだが… 「何があっても対応できるようにしましょう…お湯、沸かしておいたほうがいいかしら…。 さおりちゃんのご主人にも連絡しないと。美沙先生は子どもたちとさおりちゃん、見ていてくれるかしら」 美沙は教室に戻り、さおりのそばに腰をおろす。 「さおりせんせい、赤ちゃん産まれるの?」 「お腹いたいの?」 心配そうに子供たちがたずねてくる。 「そうよ。赤ちゃんが産まれるときは、お母さんのお腹が痛くなるの。 赤ちゃんが産まれるよ、って教えているのね」 苦し気な表情だけれど、さおりも頷いた。 「う、うん。先生…赤ちゃん産まれそう。 だから…お腹痛いけど、うっ、嬉しいの。し、心配しないで……っ!』 ああ!…と声を上げてお腹をおさえる。 美沙もさおりの大きなお腹をさすった。 「頑張って、頑張って、さおりちゃん。」 効果が有るかわからないけど、すこし力を込めてお腹をさする。 「うっ、うう~ん~…!」 布団に顔を押しつけ、ギュッとシーツを握りしめて痛みをこらえるさおりの表情を、美沙は美しいと思った。 投稿日 : 2017/11/28(火) 23:33 投稿者 : あるる 「さおり、産気づいたんですか!?」 電話に出たさおりの夫はもちろん仰天した。 「大丈夫なんですか?陣痛ひどいんですか?産まれそうなんですか?」 「ええ…まだ、産まれそうではないと思うんですが…」 私にもわからない…所長は心の中でつぶやいた。 「さおりと話、できますか!?」 「ああ、そうですね!声を聞かせてあげてください」 電話を手に教室に戻ると、さおりがこらえきれずに声を上げていた。 「あうっ!うう~っ、ああ~っ!!」 額は汗ばんで、ふとんの上で身をよじって悶えている。 「さおりちゃん、ご主人よ。お話ししたいって」 「あ…、明人…!」 電話を手に取れそうに泣く、耳にあててやる。 「さおり、大丈夫か!?」 「あっ、明人…!ああ!ああ!…ゴメンナサイ…!」 |