工事現場

一部、読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂いた部分がございます。(熊猫)
投稿日 : 2009/09/05 17:11 投稿者 : すずめ

「原田、吉本ー! こっち頼む!」
「「はい!」」
「古山はあっちだ!」
「うぃっす!」
はらはらと雪の降り始める、12月の寒空の下。「ウィルマンション、只今建設中」の文字の下。
つなぎ姿の人間が数名、汗を流しながら働いていた。
その数名のうち、少し様子のおかしい人が1人。
額に汗が浮かんでいるが震えていて、しきりに腹部に手をやっている。
灰色のつなぎを着て長い髪を1つに束ねている。
化粧はしていなくても、十分美しい顔の女性で、灰色のつなぎを着て、長い髪を1つに束ねている。隅田繭だ。
それに気づいてか気づかずか、さっき大声で指示をしていた、大柄だがなかなか良い顔をした男が近づいてきた。
さっきとは打って変わって、とてもおだやかな表情だ。
「繭…いくら金無いからって、無理すんなよ。給料はちゃんとやるんだから」
そう言って、繭のつなぎの上からも分かる大きな腹部を見た。
「いえ…大丈夫ですよ。ありがとうございます、親方」
繭ははにかんで答えた。
繭には子供がいる。
しかしその父親に当たる人はそれを拒否し、繭はとうとう堕ろせなかった。
しかし産むにしても、親族のいない繭にはお金がない。
仕事も妊婦である繭にはなかなか良い物がなく、雑用で安月給でいいのなら、と、同情で雇ってくれたのが、今の親方である、林慎吾だ。
「親方ー」
そのとき、さっきの原田と吉本という男達が慎吾に近づいてきた。
「あの、すんません…。自分らもそろそろ…」
言い終わらないうちに慎吾が答えた。
「あぁ、抜けろ抜けろ。
すまんなぁ、クリスマスも近いのに長いこと…」
「いえ、自分らも暇なんで…お疲れ様です!」
「おぅ、お疲れ!」
そして慎吾は再び繭の方に向きなおって言った。
「おまえもそろそろ抜けろ、な。大事な体だろ?」
「大事だなんて…そんな…」
「いや、もう休め。
親方の命令は絶対だぞ。」
そう言って、慎吾は少し笑った。
繭もつられて、微笑んだ。
「では…お言葉に甘えます、お疲れ様です」
深くお辞儀をして、テントの簡易ロッカーへ向かった。
しかしそこに行く途中、大きな鉄骨の上に座り込んでしまった。



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