紅い眼の男

一部、読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂いた部分がございます。(熊猫)

投稿日 : 2008/02/28 10:27 投稿者 : サトウ

その国は大きくも小さくもなく、特にこれといった名産も無い平凡な国であったが、まだ若い王と妃のもと、人々は平和に暮らしていた。
王と妃は結婚してもう数年経つが、なかなか子を授からなかった。二人は毎日神殿に通い、祈りを捧げた。
「神よ、どうか我らに子宝をお授け下さい」
そんなある日、旅の魔術師と名乗る男が王宮を訪れた。男は竜のような紅い眼をキラリと光らせて言った。
「聞けば王様とお妃様にはお世継ぎが居られないとか、この秘薬を使えば必ずや子宝に恵まれましょう」
「そんな薬があるのか!?」
「本当だとしたら有り難いけれど、どうも信じられないわ…」
「ではお妃様が身篭られるまで私はお城に滞在いたします。薬は毎晩、床に入る前に一滴ずつお飲み下さい」



投稿日 : 2008/02/28 11:26 投稿者 : サトウ

その晩、王と妃は寝台の中で薬を飲んだ。
すると一瞬、めまいがしたかのような感覚に襲われ、次の瞬間、心臓が高鳴り体中が熱くなるのを感じた。
二人は急いで服を脱ぐと狂ったように互いを求め、愛し合った。
激しい営みは数時間に渡って続き、全てが終わった頃には東の空が明るくなり始めていた。



投稿日 : 2008/02/28(Thu) 13:16 投稿者 : サトウ

翌日、王と妃は昨晩の情事の事を思い出して話し合っていた。
「昨夜は凄かったな。結婚して数年経つが、あんなに激しく愛し合った事は無かった。お前も積極的だったし…」
「恥ずかしいわ…昨夜は私が私でなくなったようで…」
そこへ魔術師がやって来た。
「おはようございます。薬の効き目はいかがでしたか?」
「いや、効果抜群だよ。これなら子供も授かりそうだ。しかし…」
「どうなさいました?何か気にかかる事でも?」
「気のせいかも知れんが、あれだけやっておきながら、なんだか実感が無いんだ。まるで夢を見ていたようで…」
「それは気のせいです。なにしろ妙な薬ですから」
「そうよ。私はそんな事はありませでしたわ。それはあなたの気のせいよ」
「そういうものかな…」
二人はその後も薬の服用を続けた。
妃がめでたく懐妊したのはその数ヶ月後の事だった。魔術師は褒美の品を沢山もらい国を去って行った。



投稿日 : 不明 投稿者 : 不明

 それから10ヶ月後、臨月を迎えた妃と王が王宮の中庭を散歩していると、不意に妃の股間からバシャっという音がして大量の水が飛び出した。
「破水だ!」
妃はただちに家来達の手により“お産の間”へ運び込まれた。歴代の王妃や王女が出産のために使った部屋だ。
妃は女官達に丁寧に服を脱がされ、中央に置かれた寝台に足を開いて横たわった。
 ついに待ちに待った時が来たのだ。王は部屋の前をそわそわと落ち着き無く歩き回った。お産の間には男は入れない決まりなのだ。



投稿日 : 不明 投稿者 : 不明

王は我が子の誕生を今か今かと待ち続けたが、1時間経っても2時間経っても、扉は固く閉ざされたまま、ウンともスンとも言って来ない。
ついに3時間が経ち、王は我慢出来なくなって中の様子を見ようと扉を少し開けてみた。
「あああぁぁぁぁー!!!いぃ加減に産まれてえよぉー!!お願いぃー!!!!うぅあああぁぁぁぁー…」
最初に王の耳に飛び込んで来たのは妃の絶叫だった。続いて女医と女官達の会話。
「破水してからもうかなりの時間が経つのに、まだ子宮口は開かないの…!?」
「はい、全く閉ざされたままです…」
「このままでは母子共に命が危ないわ!王妃様、お許し下さい!」
女医は右手を妃の膣に突っ込んだ。手で無理矢理こじ開けようというのだ。
「ぃぎゃああぁー!!?あああぁぁぁぁー!!!!痛いぃ!!いだいぃっ!!!やめでぇー、抜いでえぇ!!お願いいぃ!!!!!」
普段の上品で清楚な妃からは想像も出来ない程の絶叫だった。王は恐る恐る扉を閉じた。



投稿日 : 不明 投稿者 : 不明

破水とか、子宮口とか、王にはいまいち理解出来なかったが、とにかく危険な状況である事だけは分かった。
「あぁ...どうすれば良いんだ...?」
王は自分の母親の事を思い出した。王の母、つまり先代の王妃は、王を産んだ時に命を落としていた。
「妃が死んだら、私は生きていけない...」
しかし、自分に出来る事は何も無い。こんな時、男は無力なものだ。王がそんな風に一人でブツブツ言っていると一人の家来がやって来て言った。
「王様、あの旅の魔術師がまた訪ねて来ましたが...」
「な...何だと!?すぐにここへ連れてこい!」
まさに願っても無いタイミングだ。こういう事ってあるものなんだなぁ...。王は神に感謝した。
「お久しぶりです、王様。そろそろお妃様がご出産なさる頃ではないかと思い、やって参りました」
王は妃と赤ん坊が危険な状態である事を手短かに説明し、魔術師に哀願した。
「もうお前だけが頼りなんだ。どんな事をしてでも二人を助けてくれ」



投稿日 : 不明 投稿者 : 不明

「まずは現在の状況を見てみなければ...」
「しかし、男は産室に入れない掟なんだ。これを破ると災いが訪れる」
「それは昔の人が作った迷信でしょう。そんなもののためにお妃様とお子様を救えなかったら悔やんでも悔やみきれませんよ」
「確かにそうだ。よし、行こう!」
王と魔術師は産室へ乗り込んだ。女医や女官達は驚いた。男が中に入って来るなんて有り得ない事だったからだ。
「何ですか!? 出て行ってください!いくら王様と言えど掟を破る事は許されませんよ!?」
「黙れ!私の代で掟は廃止だ。これからこの魔術師が妃を見るからお前達は出て行け!!」
皆はしぶしぶ部屋を出た。残ったのは王、王妃、魔術師の三人だけ。王妃はすっかり疲労困憊した様子で、もう"いきむ"余力も無さそうだ。
「非常に残念ですがお妃様かお子様かどちらか一方の命しかお助けできません。王様、ご決断下さい」
「そ、そんな事...私には決められない...」
王は頭を抱え込んだ。その時、王妃が小さな声でつぶやくように言った。
「この子を...この子を助けて...」



投稿日 : 不明 投稿者 : 不明

その言葉を聞いて王は心を決めた。
「子供だ…子供を助けてくれ!」
それが愛する妻の最期の望みなら…。魔術師は言った。
「…判りました。王妃様、これをお飲みください」
取り出したのは黒い小さな丸薬。
「それは…?」
「王妃様にはもう、お子様を産み出すだけの力は残っていません…これを飲めば一時的に体力が回復します。残りの全精力を一気に搾り出す薬です」
「飲ませて…」
魔術師は王妃の口に薬を入れた。



投稿日 : 不明 投稿者 : 不明

身体の内から力が湧いてくるのを感じた王妃は最後の力を振り絞っていきむ。
「ふんっっっ!!ぐうぅぅぅ~・・・ああぁー!!」
オギャァー!!オギャァー!!

薬を飲んでからあまりにも短時間の出来事に王は一瞬、時が止まったかのように固まり、次の瞬間狂喜した。
「やった!!産まれた!産まれたぞ!妃よ!良くやった!おい・・・?」
王妃はもう何も言わなかった。彼女は全ての生命力を使い果たして逝ったのだ。ただ、その死に顔は非常に満足げであった。
「頑張ったな・・・後は私に任せて、ゆっくり休め・・・」
王はそういうと王妃に口づけした。そして流れかけた涙をぬぐい取り、魔術師の方を振り返って言った。
「お前にも世話になったな。礼を・・・」
ところが、そこに魔術師の姿は無かった。産室の外で控えていた女医達に聞いても誰も出てきた者は居ないという。王はすぐに兵士達
に命じて城内を探させたが、魔術師は見つからなかった。かき消すように姿を消してしまったのだ。



投稿日 : 不明 投稿者 : 不明

なぜ魔術師は自分の前から姿を消したのだろう・・・? 王は疑問に思いながらも愛しい我が子の元へ戻った。
 子供を見た瞬間、謎は解けた。先程は興奮していたため気付かなかったが、子供は竜のような紅い目をしていた。

 王は混乱しながらも、魔術師にもらった薬を飲んで王妃と激しく愛し合った日々の事を思い出した。
 あれは私にとっては、まるで夢の中の出来事のようだった。しかし、妃は確かに交わったのを感じたと言っていた。
もしかすると、私は薬によって妃と交わっていたように思い込まされ、妃は魔術師を私だと思い込んで抱かれていたのではなかろうか・・・。
そう考えると全て説明がつく。その結果がこの紅い目の子供ではないか。
 では王妃は・・・彼女は命と引き換えにあの魔術師の子供を産んだというのか・・・!?
 王は発狂した。



投稿日 : 不明 投稿者 : 不明

 遠い昔、ここら一帯は魔術を使う紅い目の一族によって治められていた。
ある時、ならず者の集団がやって来て、魔術師一族を皆殺しにして、この地の王を名乗った。これが今の王の先祖である。
だが紅い目の一族には生き残りがおり、秘かに復讐の機会をうかがっているという・・・。
この国に伝わる伝承だ。記録も無い大昔の事なので史実なのかお伽話なのか誰にも判らない・・・。


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