自力出産


とある山里の、集落からも離れた山の中。
細く険しい山道をたどった先に、彼女は住んでいた。
夫を早くに亡くした彼女は、やがて自身の身体の変化に気が付いた。
彼女の身体には子供が宿っていたのだ。
彼女は毎月、長い道程を歩いて、集落で唯一の産婆のもとへ通った。
経過は順調だったが、次第に大きく迫り出してくる腹部を抱えての、険しい山道の往復を、集落の誰もが危ぶんだ。
そして、彼女が独りで子供を育てていくことにも、多くの人々が心配した。
心優しい人たちが、まだ若い彼女に良い相手がいるからと声をかけた。
しかし彼女は、亡き夫を愛しているからと、その誘いを断っていた。
そして、山里に冬がやってきた。
雪が連日降り続いたお陰で、彼女は集落にも行けず、家に籠もりきりになっていた。
すでに臨月を迎えた腹部は大きく膨れ、華奢な彼女の身体には不気味なほど際立っていた。
そんなある日。
その年一番の激しい吹雪が山里を襲った。
風が家を揺らし、雪が激しく吹きすさぶ。
そんな家の中で、彼女は独り、腹部を抱えてうずくまっていた。
肩で息をし、額には脂汗が浮かんでいる。
彼女は、産気づいたのだ。この吹雪では、到底産婆を呼ぶことはできないし、自ら集落へ行くこともかなわない。
彼女は、自力で産むしかないのだと決意した。
幸い、腹部の痛みはすぐに引いた。
彼女はよろよろと立ち上がり、土間で湯を沸かし出した。
時折襲い来る陣痛を、壁につかまってやり過ごす。
そして、床の間に布団を広げた、その時だった。
突然、腹の内側が激しく動いた。
急激に強さを増した痛みに、彼女は布団の上で身をよじった。
「あぁあっ!!」
痛みの余り、悲鳴のような声が上がる。
ジョバァー…
彼女の白い太股を、温かい水が流れて布団を汚した。破水したのだ。
彼女は、粗い呼吸を繰り返しながら、布団の上で四つんばいになった。
本能のままに両足を開き、腰を高く持ち上げてゆさゆさと左右に揺らす。
そして陣痛がくるたびに、長い悲鳴を上げた。
こんな時、傍にあの人がいてくれたら、どんなに心強かっただろう。
彼女は未知の恐怖に震え、身体を襲う激痛に涙を流した。




それから、どれくらい経っただろう。
初産の彼女は、髪を振り乱し、襦袢をはだけさせて懸命に痛みに耐えていた。
すでに布団は、羊水でぐっしょりと湿り、彼女が激しく動くおかげでぐしゃぐしゃになっていた。
「ふ、ぅんんーー…っはぁ!!ぁあ、くぅッーーぁあっ!」
声を上げ、何度も下腹部に力を込めるが、分娩は遅々として進まない。
硬く張り詰めた腹を揺らして、彼女は何度も何度も息んだ。
身体中にじっとりと汗をかき、凍えそうに寒いはずなのに、下腹部だけが焼け付くように熱かった。
何度目かの息みで、彼女は股間に違和感を感じた。
亡き夫を受け入れた時より、更に大きく硬い何かが、股の間の深い部分に挟まっている。
「あぁああーっ!っくぅ…。ふんぅぅーー…、くぁッ!!」
彼女は四つんばいの姿勢のまま、更に大きく股を開けた。
獣のように、大声を上げて腹部に力を込める。
大きな異物が、もどかしいほどにゆっくりと彼女の中で動いて行く。
ジョワッ
羊水が秘部から零れて布団を濡らした。
そして彼女の身体がびくんと硬直した。
尻の筋肉がビクビクと震え、肛門が大きく広がる。
「ぁ、ぁはあ、くっ…
ふぅッ、くんんーーッッ、くぁあっ!!」
深く腰を落とし、布団を握り締めて息んだ彼女の秘部から、黒い頭が覗いた。
小さな穴にがっしりと挟まり、その穴を更に広げようと留まっている。
下腹部を貫き、秘部を焼くような激痛に、彼女は涙を流して身をよじった。
襦袢が完全にはだけ、硬く張り詰めた腹部と豊かに膨らんだ乳房があらわになる。
「ぅううーーーんっ! はぁ、はぁ…くぅうう!!」
喉を反らして、股を大きく広げ、彼女は力いっぱい息んだ。
ひくひくと痙攣しながら、秘部が大きな頭を吐き出していく。
下半身に感じる胎動に、彼女の口から涎が零れた。
「うんんーーー、くはぁっ!ぁ…、はぁッぁああーーっ、んぁあっ!!」
ブシュゥッ…!
一際長く息んだ彼女の股間から、羊水を吹きながら、ぼろんと赤ん坊の頭が娩出された。
大きなものが抜け落ちた衝撃に、彼女の両腕ががくんと崩れた。




「ぁ…、あなた…。あなたの子供、です…くぅッ!!」
股から赤ん坊の頭だけを出し、尻を上げた状態で布団に頭から突っ伏して、彼女はうわごとのように呟いた。
しかし、すぐに激しい息みの衝動が彼女を襲った。
呼吸が出来ないくらいの猛烈な陣痛。
彼女は震える両腕に力を込めて、四つんばいの姿勢を保った。
「ふ、くぅぁああっ!!!」
しかし、股間からは頭が出たまま、胎児はそれ以上出ては来ない。
彼女は、すぐ目の前にあった部屋の柱によろよろと這い寄ってすがり付いた。
そしてしゃがみ込むように体勢を起こして、大きく股を開いた。
「ぁあっ、くぁああーーっ!!」
限界まで開いて、ぐいと突き出した股間で胎児が徐々に動き出す。
彼女は本能のままに、次の陣痛に身を任せた。
「はぁ、はぁ…。ぁ、ぁぁあ、はぁッくぅううーーーーんぁあッッ!!」
バシャッ、バシャバシャッジョババァー…
鋭い、しかしどこか鼻にかかったような声を上げて、彼女は渾身の力を込めて息んだ。
ぐんと突き出した股間から、胎児の肩がズルズルと吐き出される。
そして、ずるりと鈍重な感触を残しながら、赤ん坊の全身が彼女の股の間から娩出された。
同時に、まるで栓が抜かれたかのように大量の羊水が一気に溢れ出た。
オギャー、オギャー…!
羊水の水溜まりの中で、生まれたばかりの赤ん坊がむせるように弱々しく泣き声上げた。
彼女は放心したようにぺたんと座り込み、まだへそのおで繋がった赤ん坊を優しく、そしてしっかりと抱き上げた。
「……あぁ…、やっと、産まれた…。あなた、私たちの赤ちゃんですよ…」



fin




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