一部、読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂いた部分がございます。(熊猫)
始まりは何だっただろう。 思い出そうと試みるも、記憶は酷く不鮮明で思い出せない。 ただ分かるのは、現在手を縛られ、自由を失い、クラスメイトの女子と男子数人に取り囲まれていること。 それから自分が臨月の妊婦であるということ。あと、かろうじて残る水無月ヒロという自我。 「水無月ィ~、お前そろそろじゃねぇの?」 男子の一人が後ろから抱きつく形で胸を触りながら声をかけてくる。 「……」 「何シカトぶっこいてんだよ!ヒロ」 今度は女子の一人が髪を鷲掴みにし、威嚇してくる。 足をヒロのお腹にかけ、踏みつける。 「ッッ……!」 痛みに思わず目を固く瞑る。 「おー怖ぇ。加賀、顔は殴るなよ。こいつ顔は可愛いし」 「うるせえよ。誰のお陰であんたらヒロとヤりまくれてると思ってんだよ」 「は~い♪みんな女子様、加賀様のお陰で~す♪」 側にいた別の男子の言葉で笑いが起きる。 そう、この女によって監禁され、男子に犯され続けて今日に至るのだった。 孤児院で育った私は高校入学を機に、バイトで稼げるからと一人、知らない街に出てきたので、心配して探してくれる人はいない。 そこまで大きくはないが幾つか支店を構える会社の社長の一人娘である加賀直子にとっては、余分に一部屋借りるくらいわけはなかった。 「さーて、水無月に早く産ませてやるために俺らが手伝うとしましょうや」 胸を触っていた最初の男子がいかにも楽しそうに言った。 「んッ………!?」 5、6人の男子が好き勝手に体をいじりはじめた。一人、学校一の秀才、東条誠を除いて。 「ふ…ぁッ!………ン!」 東条は一瞥もくれずに窓の外を眺めている。外はどんよりとした曇り空。 「はぁ、はぁ、はぁ………」 長時間遊ばれたあと、ようやく解放された。お腹がとても苦しい。 「何安心してんだよ。ここに居んのは男子だけじゃねぇよな?」 ニヤニヤしながら顎を持ち上げてくる加賀と目が合う。 「…………うぅ」 突然、締めつけられるようにお腹が痛んだ。漏らした声に気づいたのか、そこで初めて東条と目が合う。 加賀はまるで聞こえなかったのか、女子を集めて何かを始めようとしている。 「う゛ぅぅぅ~……ッはぁ、はぁ」 じわりと汗が滲んでくる。陣痛スタート。 (あぁ、最悪…) 加賀取り巻きの女子が体を押さえつけてくる。 加賀は最初と同じく足をお腹にかけて踏みつけてくる。 「ヒ~ロ♪あんたのボテ腹さいこう♪かなりウケるー」 「ッッ…………痛!」 少しずつ増していく力。並列して増す腹の痛み。 「泣いて頼めよ。加賀様許して下さいってさ」 「ふぅ、ふぅ………ふぅッッ!か…が様、たすけ………ッて」 「あっははは!ばっかじゃん?んなことするわけないじゃない」 ぐりっ! 「いやぁぁぁぁ!ふぅ…ン、産まれちゃ…」 思い切り踏みつけられて叫んでしまう。 ばきぃッッ!!! 一瞬何が何だか分からなかったが、お腹を圧迫するものがなくなった。 「ちょ………何すんのよ!!」 激しい音は東条が加賀を殴り飛ばした音だった。 「…………誠?」 男子達も不審そうに東条をみる。 「くだらねぇ…」 一言吐き捨てると、東条はヒロを抱き上げた。 「はぁ?何言ってんの!?あんたが進んでここに来てんじゃない!ふざけん…」 「どけよ。」 そう言って部屋を荒々しく出ていった。 「ちょっと!離して!あたしに触らないで!!」 陣痛の波が去ったヒロは暴れる。 「うわっ!水無月動くな、落ちる」 ぎゅっと一層強く抱かれてしまった。 「あんた何考えてんの?今頃気が変わったっての!?」 解放されるのは諦め、思い切り睨みつけてやる。 東条誠は監禁され、初めて犯された初日からメンバー内にいて、一番最後にオドオドしながらもヤった。 絶対こいつ童貞。なんてせせら笑ってやったのを何となく覚えている。 でもその後はいつもメンバー内にいたものの、体に触れるどころか、他の奴らに犯されている間、一度も見ようともしなかった。 「水無月」 「何よ!どこに連れてくつもりよ!」 「俺ん家」 「何言って…」 「平気、俺一人暮らしだから」 そうこうするうちに着いてしまったらしい。趣味のいい2DKのマンションだ。 「あんたこんなとこに住んでんの?」 「親父、金持ってるから。今、海外だけど」 「それって……ッッつぅ!!」 再び陣痛に襲われる。やっと自分の置かれた状況を思い出した。 「水無月!!」 すぐにベッドへ寝かされる。 「う゛ー……ン……いったぁい!ふぅ~ん!」 「まだ息むな」 横で腰をさすりながら東条が言う。 「でも…!あぁ…ん、はぁ、はぁ……ッ」 「がんばれ!」 「うぅ……んーーーッッ!!ふぅ………収まった…」 「まだかかりそうだな。俺、側についてるから何でも言えよ」 「…………うん」 優しく語りかけ、汗を拭いてくれる東条。でも悪いけど疑ってしまう。だってこいつは…… 「また………ッッ!!」 「水無月、5分間隔だ」 そう言ってまた腰をさすってくれる。 「うぅぅぅ…、んふぅッ!!はぁ~~……ン、と…じょ…ッ!」 思わず東条の服を掴んでしまう。 「大丈夫だ。大丈夫だからな、水無月」 お腹の痛みと慣れない優しさに涙が溢れてきた。 陣痛が再び収まると、私の不安な気持ちを汲みとってくれたのか、優しく抱きしめてくれた。 久しぶりに聞く人の心音、それから細いながらも逞しい腕と広い胸板に癒され、涙は止まった。 何度陣痛が繰り返されただろう。それはもう休みなく続く。 すると、じわぁ~とヒロのアソコから水が流れでて、シーツを薄紅に染めた。 「いやぁぁぁぁ!痛ッッ!はぁ…はぁ…苦し……ッ………ふぅ…ン、赤ちゃ……降りてきてるッッ!!」 「破水したぞ、もう少しだ!」 東条はとめどなく溢れる汗を拭いては声をかけてくれる。ヒロの手をしっかりと握って。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………ッッーーーーー!う゛ーーーッ!!ンはぁッ!イタ……ッ……つぅ~…誠…たすけ…ンふぅーーーッ」 「もうすぐ頭出るから!」 ヒロは何度も頷いて大きな波とともに思い切りちからをこめる。 「……ッッ!?あぁぁぁぁぁぁ!!うぁ…はぁんッ……んッ…………んーーーンぅ!!」 羊水と一緒に頭が出てきた。 「水無月、水無月!頭だ!」 必死に叫ぶ東条にヒロは弱々しく微笑みかけた。 「水無月……俺、ごめんな、ずっと……」 今度は東条が目に涙を浮かべた。 「俺、俺…お前に酷いこと………」 東条の言葉を遮るようにヒロは首を振る。丁度その時、強い痛みがきたのか、顔を辛そうに歪める。 「ふぅ~ンン!いっ…………ッッ……ぅあぁぁぁ……はッ、んッッ……ふぅ、ふぅ、ふぅぅ…」 必死に呼吸を整えるヒロの手をとり、祈るような形でそれに口付ける。 「ヒロ………がんばれ!」 「う゛ぁぁぁ……ッッ………はっはっはっはっ、あぁぁぁぁぁぁッん!!!」 赤ちゃんの大きな声が響きわたった。 「!!」 ぱっと顔を上げた東条に、ヒロはにっこり微笑む。 「東条、ありがとう」 東条はまだ熱い息のまま言うヒロの胸元に、泣き止むことを知らない赤ちゃんを乗せる。 「ばか、俺に感謝なんかすんな。」 そう言いながら、ヒロと生まれたばかりの赤ちゃんを優しく包む。 「この子、東条の子供だといいな…」 「誰の子供でも守るよ。ずっと好きだったんだ。なのにあんな形で抱いて…罪悪感で一杯になって…俺、ケンカ弱いから助け出せる自信なくて。」 「助けてくれたじゃない。今度はもっとうまく抱いてよね」 幸せそうに笑い合う声と、キューピッドの泣き声は、優しく溶けあって響いていた。 |