MORNING


せんぱーい


せんぱーい……?




遠くから聞こえてきたのは甘い声だった。高い。聞き覚えはある。
俺は寝ぼけ眼のままで声のする方を向いた。可愛い顔立ちの女の子が、俺の顔を覗き込んでくる。

「あ、せんぱい! やっと起きてくれたぁ」

「………………、!!!」

その子の顔を暫く見て、それからすごい勢いで俺の全細胞が目を醒ます。
俺の片想い相手の。1学年下の後輩、中1の賀野美亜(カノ・ミア)。

「おはようございまぁす、せんぱい!」

弾ける笑顔。でもここは……間違いない、俺の部屋で。
そして、おたまを持つ美亜は……なんで裸にエプロン姿なんだ……?!

「あのね、赤ちゃんがね、せんぱいの”おはよう”を聞きたいって」

「赤……ちゃん……?」

「うん! だから起こしにきたんだよっ♪」

よく見ると、美亜が話しながらも優しくさすっている腹は……。まるで妊婦のそれだった。
大きく、大きく膨れた……その腹。

「ちょ、賀野、それ……!!」

美亜の腹から目を離せないまま、震える指を向ける。




「ふふっ、新鮮な反応だー。私とせんぱいの赤ちゃんがいるってわかったときもそんな感じだったよね、先輩。大慌てで」

小柄な美亜から楽しげに発せられるそんな言葉。どうしても、俺には理解ができない。

どういうことだ……?

だって俺は。今まで美亜に、惚れてはいても手出しの出来ないチキン野郎で。
美亜は優しいから、俺のことも他の奴らと同じように慕ってくれてはいたけど。
告白なんかして、美亜から嫌われたりしたらと思うと……、普通の先輩後輩としての会話をするのがやっとだったんだ。

「今日、生まれたい……って。そう言ってる気がするんだ~」

でも俺の気持ちをよそに、嬉しそうに、幸せそうに。美亜がそう言う。
そうか、きっと俺……夢、見てるんだな。
美亜が好きすぎて。俺の嫁になって俺の子供を生んでほしいって。ずっと願ってた。
こんな夢みたいに。

「他人みたいに、賀野なんて呼ばないで、せんぱい。いつもみたいに、美亜って呼んで?」

美亜。心の中ではずっとそう呼んでたんだ。美亜。

「賀……、美亜……」

「はいっ♪」

可愛い笑顔で、いい返事をする美亜。
手招きをして、ベッドの上の俺の膝に美亜をそっと乗せる。
どうせ夢なら……、折角だから存分に浸ってやろう。
はちきれそうな美亜の腹を、エプロンの上から触ってみた。

「大きいな、腹……」

「うん、予定日も過ぎちゃったからねえ。臨月に入ってから、どんどん大きくなってくの。予定日過ぎてからも、どんどん」

ボブヘアが揺れて、俺の瞳を見つめてくれる美亜。
いいな……、夢の中の10ヶ月くらい前の俺。
美亜とセックスしたから、今こうして美亜の腹がこんなに大きい訳だから……。羨ましすぎる。
因みに今の俺には、その時の記憶も感覚も全く残ってない。
美亜の大きくていつもちょっとだけ潤んでる目や、ふっくらした唇を見つめていると。頭の芯が熱を持つのがわかる……。

「美亜……キスしていい?」

気が付くと、そう尋ねていた。
もちろん、って美亜が笑顔で頷いて目を閉じる。
美亜と俺の、(俺的には)ファーストキス。そっと重ねて、……でも俺の心臓が暴れ出す。

「ん、ん……」

何度も何度も、美亜の唇をついばんで。美亜が声を漏らす。
俺に付いてる息子が熱を持って立ち上がり、美亜の尻に当たった。




「ぁん……、せんぱい……したいの?」

俺の息子に触る美亜。力が抜けてしまう。でも頷いて見せた。
俺の寝巻きのズボンをトランクスごと下ろして、裸の上に来たエプロン姿のまま、俺に馬乗りになってくる美亜。

「入れますね、せんぱ……い」

ぼうっとした声で美亜が言う。何回も頷いていると、柔らかい美亜のあそこの皮膚が俺の息子にキスをしてくる。

「美亜……、美亜……」

「せんぱい……っ、――――あっ」

一気に美亜が腰を落とす。ものすごい角度で勃った俺の息子の先から根元まで美亜の中に差し込まれる。
俺の感覚では初めての、でもこの夢の中では美亜とは2度目以上のはずの不思議なセックス……。

「あぁ、ぁ、っ、っ」

美亜の腰の動きに、声が、息が漏れてしまう。
小柄なはずなのにものすごいボリュームの、美亜のおっぱいに無意識に手を伸ばした。
エプロンから少しはみ出た、手に吸い付くような柔らかい感触。

「ぁん、はっぁ、ぁぁん、ぁんん……」

美亜の声で、余計に気持ちよく感じて美亜の中で膨らむ俺の息子。
膨らんだ俺の息子でもっと声を上げる美亜……そのループ。

「だいすき、だよ、せんぱいっ……! ぁん、ぁぁんん……!!」

大きな腹が揺れて、俺達の結合部を隠す。

でも腰の動きは止まらない。俺はずっと我慢して……、限界が近い――――!!!

「ぁぁん、っ、っ、せんぱぁい……」

抱き締めるような美亜の最大の締め付けが、きゅっと俺の息子に襲ってきた。
もっと何も考えられなくなる。締め付けられたままで、俺も腰を思いっきり動かす。

「美亜、美亜、美亜、美亜……っ!!!」

何もかも、一気に俺の息子が噴き出した。愛しい美亜の、柔らかくてきついその中に。びくびくと、美亜の中で痙攣して。

「あ、ぁぁあん………………!!!!」

美亜がいつもよりもっと甘い声で、俺の息子の放ったものを全て受け止める。
ひとつになったままで、俺はぐったりと額に手を当てた。今までやったどんなスポーツよりも大量の汗が、掌についてくる。

「……っ、せ……せんぱい……、はぁ、はぁ、はぁ……」

息も絶え絶えで。でも幸せそうな美亜の紅潮した顔。
やばい、可愛すぎる……。

でも、俺が美亜とのセックスの余韻に浸ったその時だった。




美亜の表情が微かに歪む。
腹を押さえて、美亜は困ったような顔で俺を見た。

「へへ、……ほんとに今日、生まれるみた、い」

「えっ」

えっと、これって……何て言うんだっけ。陣……痛?
ど、どうすればいいんだ俺は。
っていうか夢の中のはずなのに。何で美亜が痛そうな顔してんだ?

「せんぱ……、ベッド、かしてくだ……さい……」

言いながら、腹を押さえたまま俺の隣に倒れこむ美亜。
どんどん美亜の呼吸が熱くなる。

「お、俺、どどどうしたら……」

ベッドから降りた俺は、ものすごく動揺してしまう。……だってこんなの学校でも習ったことねえよ……。

「ここに、いて……、せんぱい、と手……つないで、生みたい」

涙目で、でも美亜は微笑んだ。
美亜はただ可愛いだけの子なんかじゃない。絶対……強い。
何だか、俺まで泣けてくる。美亜の差し出した左手を両手で握る。

「せん、ぱい、あのね……、っ、私の中に、指、ふたつ入れて……?」

痛みを堪えてる必死な顔で、美亜が言う。

「指……?」

聞き返してはみたものの、美亜の表情でエロい意味なんかじゃないってことはわかる。
意を決して、そっと入れていく。人差し指と、中指の2本。

「こう、か……?」

「う、ん……っ。はぁ、……それで、中、で、ひら、けるだけ、指……ひらいてくだ、さい……」

辛そうな呼吸の合間に、紡がれる言葉。
すぐに言葉どおりにした。

「……っ、どのくら、い……?」

指の間は、9cmくらいだ。すぐに美亜に伝える。

「せ……んぱい……、もう、すぐ赤、ちゃんに……会、えるよ……」

「もう、喋らないでいいから……!!」

心配させまいと、辛そうながら笑顔を見せてくれるのが申し訳なくて……俺はつい叫んでしまう。
同時に美亜から、鋭い、声にならない声が漏れる。

「せん、ぱい……せんぱ、い……っっ!!!」

今激しい痛みが美亜に来たことが、よくわかった。
手を握り締める。

「美亜、美亜……! がんばれ……!!」

何なんだよ、出産ってこんなに辛いもんなのかよ……!
何で俺には何も出来ねえんだよ……!!




「ッ、ん――――――っ!!!」

軽く曲げられた美亜の脚はいっぱいに開かれて。必死に耐えている美亜。

「美亜……!!!」

「ぁあッ、っ―――――――……! あッ、ああああ―――――!!」

耐えられなさそうに叫ぶ美亜に、俺は撫でてやるとかしかできない。
美亜、美亜、美亜……――――!

「はあ、はあ……っ、はぁあっ……、っ――――――!!!!!!」

大きく呼吸してから、美亜が力を込めた。汗だくの、赤い顔。
早く助けてやりたい、今すぐ楽にしてやりたい。

「っ――――――――――!!!!!!」

美亜の、開かれたあそこの方から、少しずつ音がする。
子供が……きっと子供がもう出てこようとしてる。

「美亜、もう少しだ……!!!」

覗き込むと、少し見えたのは黒いものだった。
やはり子供の……俺達の。子供の、頭。

「っ、ッ―――――――――――!!!!!!」

息を吸い込んで、また力を込める美亜。
そのたびに頭の、見えてくる部分がが少しずつ増していく。
時々ふっと隠れながらも、それでも少しずつ。

「美亜、がんばれ、美亜…………――――!!!!」

腹を、辛そうに抱えて美亜は……それでも子供の頭に、必死で手を伸ばして触れる。

「はァァっ、っん――――――――――――――!!!!!」

美亜は泣きそうな呼吸に、尽きそうな体力を振り絞って腹に力を込める。回を追う毎にもっと、もっと強く……!!

「美亜! 頭、頭全部出てきた……!」

「ん、ぁああ、んんッ……―――――――――――!!!!!!!!」

最後のひとつは高い、甘い強い声だった。

体をするりと美亜の中から滑らせて、子供は――――出てきた。

俺がそっと受け止めて、その子を抱いた。手が汚れるのなんて構わない。
柔らかくて。温かい。狭いところを通ってきたと思えないほど、大きい。
生まれた……。

「美亜……」

美亜のエプロンの胸元に、ゆっくりと子供を乗せる。
苦痛の表情はもうなかった。あるのは嬉しそうに潤んだ瞳。
名残はまだ熱い、呼吸。

「せんぱい……」

子供を抱き上げて。美亜は微笑む。

「せんぱい、美亜……痛いって言わなかったよ……? えらい……?」

すごい奴だ、美亜は……。俺なんか到底足元にも及ばない。
敬意をもって、美亜に頷いて見せた。頭も撫でてやる。

「美亜。……愛してる。美亜も子供も」

法律なんかのせいで年齢的に、まだまだ籍は入れられないけど。
美亜のこと、ずっとずっと一生、大切にする。

「美亜もだよ、せんぱい…………♪」

そして美亜は。腕の中の子供を俺に見せて、柔らかく言った。

「言ってあげて、せんぱい」

うん。俺は心の底から幸せな気持ちで。頷いて、子供に言った。


「おはよう」


                    -完-



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