一部、読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂いた部分がございます。(熊猫)
投稿日 : 2009/05/06 22:31 投稿者 : 無明 夢を見る。 ワタシが、わが子と共に暮らす夢を。 それはかなわない夢。 なぜなら、 ワタシは、機械――――――― 「やぁ、おはよう。」 ワタシに話しかける人がいる。 彼が、ワタシを「創った」。 投稿日 : 2009 05/11 15:08 投稿者 : 由奈 「あ、おはよう。」 私の髪を優しく撫でてくれるワタル。 「ワタル、今日も遅いの?」 最近、ワタルの帰りが遅い。 「あぁ。もう少しで完成するから。あ、もう時間ない。いってくるから。」 ワタルは急いでいってしまった。 ワタルの仕事は科学者だった。 投稿日 : 2009 05/12 02:52 投稿者 : わいけー そんなある日のこと、ワタルが息を切らせて帰ってきて・・・ 「できた!できたんだよ!!」 (できたって・・・何が?) 「来て!!」 問いかける前に、ワタルはワタシの手をぐいぐい引っ張って車に乗せた。 「ワタル・・・一体・・・??」 「とにかく凄いんだ、来てみればわかるよ!」 車はある場所に着いた。電子ロックの扉、 高い塀と鉄条網で厳重に守られたいわゆる不気味な建物が目の前に建つ。 しかし私にとってはとても懐かしい・・・彼が私を創った・・・場所。 「来て。」 「はい・・・。」 ワタルに促され、建物に入る。 電子ロックのかかった扉をいくつもくぐって、ワタシはとある部屋に導かれた。 部屋の真ん中に、培養液らしき液体に浸かっている、 沢山の管に繋がれたラグビーボールのようなものが見える・・・。 近づくと「それ」はまるで生きているかのように脈を打っていた。 「これは?」 「もうちょっとよく見て。」 「それ」を凝視する。中には・・・人のような形が・・・・!! 「これって・・・!」 「そう・・・。」 「人工子宮さ!」 「人工・・・子宮・・・!?」 「そして僕たちの希望でもある。」 そういってワタシの肩を抱くワタルの目が、燦々と輝いている。 今まで見たことないくらい笑顔のワタルが、目の前にいた。 投稿日 : 2009 05/12 22:56 投稿者 : 無明 「さあ、ここに。」 ワタシは変わった形のベッド―――分娩台、に寝かされた。 「麻酔をかけるよ。この手術が終われば、君は……」 そこで意識はとぎれ、再び目覚めたときには… 「ワタル…ありがとう…」 少しだけ膨らんだワタシのお腹。 ここから5カ月かけて、私は、母になれるだろうか… 期待と不安がないまぜになって、ワタシは思わずワタルに抱きついた。 投稿日 :2009 05/18 23:21 投稿者 : 無明 そこからの数か月はあっという間だった。 ワタルはいろいろ気を使ってくれて、ワタシはもうすることがなかった。 そしてある日の深夜。 ワタシは夜遅く帰ってくるワタルの為に夜食を作っていた。 「んっ……」 夜ごろから、すこしづつ陣痛が始まった。 投稿日 : 2009 05/18 23:37 投稿者 : 由奈 「ワタル、お腹、痛い。」 私は少し痛むお腹を擦ってワタルの側に行った。 「ソロソロ陣痛が始まったみたいだな。」 ワタルは私の大きくなったお腹をさすりながらニコニコして言った。 投稿日 : 2009 05/21 21:29 投稿者 : しらす どうだ?産まれて始めての痛みは。 君が思っていたような良いものでもないだろう?」 そう。ロボットである私は、始めて「痛み」を経験した。 それはたしかに良いものではなかった。 だけど… 「人間に…ワタルに近づけたみたいで嬉しい!」 私はその温もりを帯びたお腹を撫でた。 「さて、じゃあ隣の部屋に行こうか。 ゆっくりでいいから僕につかまって、そうそう…」 私はワタルの肩につかまるようにして立ち、隣に移動した。 そこは、私が手術を受けたーこの子を授かった場所だった。 それでもあのときよりもぐんと広く改装してあって、ゆったりとしたソファや座布団やバランスボール等、出産をする のに使える物がたくさん準備してあった。 私がワタルの方を向くと、 「いろいろ準備している方がいいと思ってね」 と言って、笑った 投稿日 :2009 05/23 13:23 投稿者 :無明 今のうちはまだ、それほど陣痛も強くない。 ワタシはバランスボールによりかかって、陣痛をやりすごしている。 「ふぅ…ふうぅ…んっ…」 まだまだ、産まれるのは先だろう。 投稿日 : 2009 06/07 17:07 投稿者 : わいけー 「すー、はー、すー、はー、」 呼吸を整えて、赤ちゃんに酸素を送ってあげる。 最初のうちはバランスボールに寄りかかっていたけど、 腰が痛くなってきてからはソファに横になってワタルに腰を圧迫してもらっている。 「本当に、赤ちゃん産むって大変なんだね、痛くなるのはお腹だけかと思ってた・・・。」 「初めてだからね、不安なのはわかるけど、これくらいで音を上げちゃ立派なお母さんになれないぞ。」 ワタルはそう言って笑った。なんでも赤ちゃんが下がってくると、痛いところも下にさがってくるらしい。人工子宮の 動作が完璧な証拠だとも、ワタルは言っていた。 陣痛は少しずつ間隔を縮めて、強くなっていくのがわかる。 痛くて、苦しくって、けど、それが人間に近づいている証だと思うと、不思議と楽になった。 ・・・思えば、ワタルと出会う前はこんなにものを思ったことがなかった。 ワタルと触れ合い、言葉を交わし、共に日々を過ごすことによって、私という「ロボット」は内面から人に近付けたの だと思う。 だからこうして、母になることを歓喜とともに迎える準備ができているのだとも思う。 「ワタル。」 「なんだい?」 「赤ちゃんの名前、まだ決めてなかったよね?」 「そうだね・・・どうしようか?」 投稿日 : 2009 06/18 12:32 投稿者 : とね 「………カナエ」 お腹を優しく、愛おしく一撫するとそう言った。 「カナエ?」 「そう……ワタシの夢を叶えさせてくれたから、この子はカナエ。……男の子じゃ、この名前可愛すぎかな」 「そんなことないよ、いい名前だ」 ワタルはそう言うと、優しくお腹を撫でた。 あぁ、暖かい。 ワタルとこの子、カナエが与えてくれた熱。 ワタシを機械から人に近づけてくれた熱。 「早く産まれておいで、カナエ。」 そう呟いた瞬間 強い痛みと共に何かが弾けた。 その刹那、太ももをつたい落ちる暖かい水。 「ワタル………」 「いよいよだな…」 投稿日 : 2009 07/06 05:54 投稿者 : わいけー 「うん、羊水の色も問題なし!」 「よう・・すい・・?」 「ああ、これはね・・・・」 ワタルは、「ようすい」を拭きながら説明してくれた。 お産が進むと「はすい」して「ようすい」が流れ出してきて「しきゅうこう」が「ぜんかい」に なったら「いきみ」で赤ちゃんが出てくるのを助けてあげるんだって。 「いきむ時は痛みに合わせて、出口のほうに向けて力を入れるんだよ、できるね。」 「うん、やって・・・みる。」 「じゃあ、痛みが来たら息を吸って・・・はい!」 「うーーーーん!」 最初は四つん這いで、徐々にいきむ恰好を変えて、ワタルにコツを教わりながら、いきむ。 「ううーーーん!・・ワタル、さっきより、痛い・・!」 「頑張れ、君が辛いときはカナエも苦しいんだから。」 「カナエも・・・?うん、頑張る・・・うーーーーん!!」 今度は膝立ちで、お産の進み具合を確認するワタルの肩につかまっていきむ。 そうしているうちに、産道を何かが下りてくるのがわかった。 いきみに合わせて、出ようとしたり、引っ込んだりしてる・・・。 「ふう、ふう、ワタルぅ・・・なにか、出てくるの・・・。」 「カナエの頭だよ。もうすぐ引っ込まなくなるからね。」 「もうすぐ・・会えるのね・・・」 辛い、辛い、でも、なぜか満ち足りた時間がゆったりと流れてゆく。 投稿日 : 2009 07/10 17:55 投稿者 : 無明 もうすぐだ…もうすぐだから、がんばって!!」 ワタルが励ましてくれる。 カナエも、待っている。 だから、私は… 産み出す。 込められるだけの、力で ――――――――――――今はただ、そのためだけに。 声が、聞こえた。 誰? 泣いているのは、誰? ふと、眼下に目をやる。 赤ん坊が、一人。 そうか、この子が泣いていたんだ。 ワタシの産んだ、この子が。 「初めまして…カナエ…」 気がつくと、もう日が昇っていた。 |