「い、いやぁーー」 土砂降りの雨の中、一人の女性が傘を差した人込みを縫うように逃げ惑っていた。 はたから見れば、ただ奇声をあげ走り去る、精神に異常をきたしたようにしか見えないだろう。 ふと何かに驚いたかのように立ち止まり、腹に手を置き、目を見開いた。 春物のコートに包まれた腹部がだんだんと膨れ始めたのだ。 周りの者も何事かと、女性の周囲に人垣ができる。 コートのベルトが吹っ飛んでも腹部はさらに膨らむ。その姿はまるで臨月を迎えた妊婦のようだった。 すでにコートははだけ、中に着ていたスカートさえも太ももの辺りまでずり下がり、白いシャツの間からは、白い腹部が露出していた。 目を見開いた女性の先には、馬面の異形の妖が仁王立ちしていたが、周囲はおろか、女性以外の何者にもその姿は認識されていなかった。 すでに女性の腹部は限界以上まで膨らみ、白い腹部が完全に露出していた。 周囲の者たちは、その様子に手から滑り落ちた傘さえも気付かないほど、見入っている。 膨らんだ腹部の重さに耐え切れなくなったのか、女性はそのまま後ろ向きに倒れこんだ。 女性が地面にたたきつけられるまさにその時、人込みの中から一人の少女が飛び出してきて、女性と地面の間に身体を滑り込ませた。 少女は、自分のコートを地面と女性の間に差し込み、馬面の妖と向き直った。 ポケットをまさぐり、何やら呪文のような字が書かれている薄っぺらい紙を取り出した。 土砂降りの雨の中でも、その紙は濡れることなく、書かれた字もにじむことなく、少女の手中に納まっていた。 妖はその紙と少女を見やり、口の端をゆがめた。 「おまえには、ワシが見えるのか。ワシの声が聞こえるのか。そんな薄っぺらい呪符でワシを倒せると思っているのか」 「あぁ…、ああっ……!」 少女が振り向くと、さっきすんでのところで救出した女性が、膨らんだ腹部を押さえ、苦しそうにうめいていた。 白い腹部は、ぼこぼこと形を変え、今にも腹を破って何かが出てきそうだった。 少女は女性の元へ駆け寄り、先ほどとは違う呪符を女性の白い腹部に貼り付ける。すると、腹部の動きは収まった。 少女は、改めて妖と向き合う。 左手を印を結び、右手の前にかざす。 光り輝く剣が現れ、少女は大上段へと構える。 気合一閃! 瞬く間に、馬面の妖は真っ二つに切り裂かれ、跡形もなく消えうせた。 妖が消えうせ、妖気も消し去ったのか、先ほどまで土砂降りだった雨もやみ、晴れ間が射していた。 少女は女性の下へ駆け寄る。 まだ意識が朦朧としていたが、命に別状はなさそうだった。 とりあえず、着ていたコートを掛けてやり、タクシーへと乗せる。 タクシーが停まったのは、とある神社の前だった。 少女は軽々と女性を担ぎ、境内のさらに奥にある小屋へと入っていく。 小屋の ある一室の布団に女性を寝かせると、さらに奥へと消えていった。 「綾香さんも大変でしたね~。部活の帰り道に、妖魔にあうなんて」 「そんなことないわ。ちょうどいいクールダウンになったわよ」 先ほどの少女は、メガネをかけた同い年くらいの少女に綾香と呼ばれていた。 綾香に話しかけているのは、綾香の手伝いをしている良子という少女だった。 二年前、高校へ進学したばかりの良子も妖魔に襲われ、綾香に助けられた。 そして、弟子入りすべく綾香の元へ押しかけたのだが、生まれ持っての才能も必要と説き伏せられ、お手伝いをしているのだった。 「まあしかしよ。けったいな妖魔だぜ。そう思わないか、主殿」 机の上から、もっともな疑問を投げかけるのは、綾香の式神である虎然(フー ラン)である。 ビール缶くらいの大きさしかないが、勇猛果敢で綾香の剣術の師匠でもある。 「馬面をしていて、女性のお腹を妊婦さんみたいに大きくさせる…。あまり聞いた事ないですね」 横から良子も口を挟む。 この2年間、妖怪などのアヤカシについての猛勉強をし、その知識は、もはや綾香やその母でさえ、凌ぐほどである。 「たぶん、あの馬面の核を胎内に移したんだと思う。でないと、あんな簡単にやられるわけない」 「でも…でも、あの女性から妖魔反応はでなかったし。たぶん、コピーを作ろうとしたんでないかし」 したり顔でうなずいたのは、同じく式神の然姫(ラン チー)だ。虎然とは双子で同じくビール缶ほどしか大きさがなく、中華式の着物のような服をまとっている。 「とりあえず…、」 然姫が口を開きかけたとたん、部屋のふすまが音もなく開いた。 顔をひょっこり出したのは、先ほど綾香が助けた女性だった。 「あ、あの…」 「あ、はいっ」 虎然・然姫はさっと机の上のぬいぐるみの後ろへ隠れる。 「あ、あのぅ……、ありがとうございます。助けていただいて。それに、この浴衣…」 乱れた服は、既に良子が浴衣に着替えさせていた。 「いえいえ、災難でしたねぇ~。何のお構いもできませんで」 「とりあえず、2、3日は安静にする必要があるので、ここに泊まってください。会社には病欠とか、適当なこと言って…」 「困ります…」 「でも、そのお腹じゃあ、外も歩けないでしょ」 綾香が女性のお腹を指差す。 女性のお腹は、少しマシになったものの、まだ浴衣の上からでも明らかに見てわかるほど、膨らんでいた。 「ええ。ですが…」 「安心して。って言っても、ムリだろうけど。私は、綾香。一応退魔師やってるの」 「タイマシ…?」 「あなたも、みましたよね。あの馬面のヘンなの。あなたの、そのぅ…、お腹を大きくした…。ああゆう、ヘンなのを退治するんです」 横から良子が、補足説明する。綾香は、往々にして一言足りない事がある。その時は、決まって良子がフォローするのだ。 「一応、早く治すようにはするけど、たぶんあと3日は必要だと思うの。だから、会社には電話して、カレシとか親とかいるんだったら、連絡した方がいいね」 「あ…。私は、萩 亜矢子(はぎ・あやこ)といいます。もう、何がなんだか」 亜矢子と名乗った女性は、疲れ切った様子で、首を振った。 そして3日後……、 亜矢子のお腹は、日に日に大きく膨らみ、もはやはちきれそうだった。 「だいぶ大きくなりましたね~」 「ええ。何かお腹の中でしきりに動くの。ヘンな感じ」 そう言って亜矢子はお腹をさする。知らないものが見れば、 いかにも出産間近の幸せな妊婦のようだった。 しかし、亜矢子のお腹の中にいるのは、人間の胎児などではなく、妖魔である。 「触ってもいいですか?ホントに妊婦さんみたいですよね~」 良子も興味津々な様子で、亜矢子のお腹をさする。 のん気にお腹をさすっているようでいて、その実、亜矢子のお腹の中の妖魔がどれほど成長しているか計っていた。ひと安心。妖気はまだ感じるほどではない。「出産」はまだ先のようだ。 その頃、虎然と然姫は隣の綾香の部屋で、眉をひそめ、ひそひそと話し合っていた。 「ヤな空気だぜ。体がムズムズすらぁ」 「そんな事言うもんじゃないでし。で、でも…、クシッ。な、何か、ヤな予感はするでし」 「ほら、お前だって、クシャミ止まらんじゃないか。ありゃあ、かなりヤバいんじゃないかなぁ」 もちろん、亜矢子の事である。式神である彼らは、正体のわからない不穏な空気を感じ取っていた。 空が茜色に染まる頃、綾香が帰ってきた。 いつもは、部活に精を出す綾香であったが、 この日は、全速力で学校から自宅である神社に走って帰ってきた。 「っあ~。はぁ、はあ…んっ。あ、亜矢子さんはっ…」 「主殿。まだ、大丈夫。けどヤな予感がする。気を付けた方がいいかもしれねぇ」 「ああ。主殿~。お帰りなさいまし~。クシュ。あたしも、ヤな予感が…っ、ヘックシ」 あわてて、自室に駆け込み、カバンを置いた綾香に、式神二人が机の上の定位置から報告する。 「っは~ぁあ!んっ、はぁ。ホントー、よかったぁ」 二人がかりで、注いでくれたコップの水を一気飲みし、一息ついてから、応答する。 亜矢子はまだ大丈夫のようだ。しかし、すでに3日目。もうそろそろ出てきても良い頃合いだ。 「もうそろそろかな。よし、早い目に出してやるか。 ランフー、ランチー。手伝って。妖怪退治に行くよ!」 「よし来た!」 「合点でし!」 カバンから、呪符やらを取り出し、竹刀を構える。 式神二人も、器用に机の上からイス伝いに飛び降り、それぞれの武器を構える。 神社から程遠くない木立の上にそいつはいた。 「ふっふふ。愚鈍なやつらよ。復讐の時は来た…」 合間から見えるのは、3日前に綾香に斬り伏せられたはずの馬面のアヤカシだった。 アヤカシは、フーランが指摘したように核ごと亜矢子の胎内に移していた。 さらに実体は、いくつもの妖魔の集合体であった。 なので、簡単に蘇ることができたし、博識の良子ですら正体を見破れなかったのである。 神社には結界が張られてあり、妖魔たちは立ち入る事はできないが、 この妖魔の核は亜矢子の腹中にあるため、神社の様子を窺い知ることができるし、 アヤカシの妖力が亜矢子からの栄養で回復した今、核を自由に操ることもできた。 一方、神社の中で、妖魔退治のため気勢を挙げていた綾香たちは、 音を立てないように気を付けながら、隣の亜矢子の部屋へ向かった。 ふすまを開け、中の様子を見やる。 亜矢子は壁にもたれ、寝ていた。規則的に胸と腹が上下する。微かな寝息も聞こえる。 良子も、亜矢子の太ももの辺りを枕にするように寝ていた。 「まったく、のん気な事…」 あきれるように綾香がつぶやいたその時、亜矢子のお腹がボコッっと大きな音をたてて、形を変えた。 「ぅん…。んんっ」 その音に、お腹の急激な変化に驚いたのか、亜矢子が目を覚ましたようだ。 それと同時に、綾香のお腹に激痛が走った。 「くっ…、はっ、ああぁ…!」 あまりの激痛にまともに立っていることもできない。 竹刀を杖代わりにして、空いた方の手で腹をさする。 体内に何かいる感覚がある。それも、亜矢子の胎内にいるのと同じ邪悪な妖気も感じられる。 しかし、感じられる妖気は亜矢子のよりずっと小さい。小さいものたちの集合体のように感じられた。 「くそっ、はあああぁぁ!」 痛みが少しマシになったところで、ヘソの中心・丹田に力を込め、気を練る。 「あ、綾香さん…?」 亜矢子を完全に起こしてしまったようだ。 「どうした…。あっ…!」 起きたばかりで、状況が把握できていない亜矢子は、綾香に尋ねようと口を開いたその時、 膨れたお腹がボコボコと音をたて、形を変えた。それはまるで、腹中の怪物が突然の大声に驚き、怒りを表明したようだった。 「ふぇ?あ、綾香さん…?お帰りなさい…」 良子もやっと起きたようだが、まだ脳が覚醒していないらしく、声はまだ夢の中である。 「遅れたな!」「すまんでし!」 フーランとランチーの二人もやっと亜矢子の部屋へとたどり着いた。 15センチほどしかない二人にとって、二つ向こうの部屋も隣町に行くくらいの長さがある。 「遅いよ~。待ってたんだからね」 もちろん、本気で責めているわけなく、軽口のようだった。先ほどの不意打ちを隠すための、虚勢でもあった。 しかし、鋭いフーランは、何かあった。と感じ、愛刀の柄に手をかけた。 それを見てランチーも、あわてて武器を構えなおす。 「さあ、いくよ!」 鬨の声を上げてから、亜矢子の元へと駆け寄る。 フーランとランチーの二人は、出入り口を固める。 「良子、救急箱取ってきて」 「ほい。りょ~かいっ」 綾香の命を受け、良子はふらふらと部屋を出て行く。 「主殿。何で、良子さんを帰した?いつもだったら、置いておくのに」 「ヤな予感がする。こいつはちょっとヤッカイな相手っぽいからね。足手まといになるといけない」 頭を振り返って問題に答える主に、フーランは返答に「フン」とだけ鼻を鳴らした。 長年の関係から、フーランは知っていた。主が本当に良子を足手まといに思っているのではない。 今までに無いタイプの敵に対し、最大レベルの警戒をし、良子の身を案じているのだと。 「はぁっ、ああぁ…」 とたんに、亜矢子が腹を押さえ、苦しみだした。 どうやら、陣痛が始まったようだ。 綾香はすばやく、呪符を浴衣の上から亜矢子の腹に貼り付ける。 「ああぁっ、んっ…、は、はぁ、んんっ…」 亜矢子の息がとたんに荒くなる。 亜矢子に貼った呪符は、出産を早めるものだった。 ある程度、胎内で成長させないと、転生させる力が生まれでないため、浄化できないのだ。 -陰、陽から生じ、陰極まれば陽となる。陽、陰から生じ、陽極まれば陰となる。 いわゆる、太極思想である。妖の妖力を限界まで極めさせ、綾香の一押しで、転生させる。 それが、綾香たち 烏丸(からすま)一族のやり方だった。 綾香は、恥ずかしがる亜矢子を尻目に、無理やりに浴衣の裾をまくり、股を開かせた。 陣痛はかなり進んでおり、亜矢子もかなり苦しそうだ。このぶんなら、すぐにでも産まれそうだ。 傍らにおいていた竹刀に、また別の呪符を貼る。出てきた妖を、転生させるものだ。 「救急箱っ!うわぁっ~!」 良子が、思いのほか早く帰ってきた。 しかも、入り口の縁にけつまずいたらしく、派手にこけ、救急箱の中身をぶちまけた。 「うぅ…んっ、ああぁーっ。んっ、あぁっ、んっ、んんっ…」 一瞬、綾香の眼が良子に注がれたその時、息みとともに、亜矢子の股間から緑色の煙が吹き出した。 綾香が眼を戻した時には既に遅く、煙は光速の速さで亜矢子へ向かい、 大きく開けた口から、体内へ入り込んだ。 「りょ、良子!」 「いった~。んぐ。んっ…?」 こけたときに打ったのだろう。腰を擦りながら、異物を口に感じ、飲み込んでしまった。 「主殿…。イヤな予感がするな」 「言うな」 してやったりと言った表情でからかうフーランに、綾香はうんざりといった表情で答える。 「…う、んっ、ぁあっ…。んっ、は、ぁはあっ…」 このやり取りの間にも、亜矢子の陣痛は収まるどころか、より強さを増していた。 緑の煙は、馬面のアヤカシの核ではなく、集合体を成している低級アヤカシの一つだった。 だから、亜矢子の陣痛はやむでなく、「出産」の時を前に、より強さを増していた。 「ご、ごめん。慌てていて…。くっ…、くぁっ…」 綾香の語気が粗忽な自分を責めていると感じたのか、 はたまた 場の空気を察し、謝ろうとした言葉は途中までしか出なかった。 「りょ…、良子!?どした!??」 「お、おなか…。ぃ、イタイ…」 良子は下腹部を抱えて苦しそうにうめき出した。 綾香も、二人の式神も、良子と亜矢子を交互に見やる。 やがて、良子は下腹部を抱えたまま、その場にしゃがみ込んでしまった。 「フーラン、ランチー。後頼んだ!産まれそうになったら、叫んで!」 綾香は、弾けるように部屋を飛び出した。用意していた呪符だけでは足りなさそうだ。 『主殿。大変だ!良子殿が…!』 式神と綾香には一種のテレパシーのような、どれだけ離れていても意思を疎通させれる能力があった。 綾香が自室に戻り、呪符を入れてあるカバンを手にした瞬間、フーランの緊迫した声が響いた。 カバンを手にしたそのまま、良子たちがいる部屋へと戻る。 「あっ。…あ、綾香。…ご、ごめん。また…、メイワクを…」 苦しそうな息の合間に言葉を吐く良子の腹は、亜矢子に負けないぐらい大きく前にせり出していた。 ちらっと見て、良子の様子を確認する。 お腹は亜矢子に負けないぐらい大きく前にせり出し、ワンピースに包まれたお腹は苦しそうだ。 さっきの緑の煙だろう。妖気はさほど感じなかったので、低級霊か。 「んんっ…、はっ、んああっ…!」 亜矢子のいきむ声に我に返り、亜矢子の方を見やる。 「フーラン、ランチー。良子は任せた。たぶんまだ大丈夫だ」 そう言い捨てると、亜矢子の元へ駆け寄る。 亜矢子の陣痛はかなり進んでいるようで、既に破水したらしく、股の下には水溜りが出来ていた。 覗き込んでみると、子宮口からは、わかめのような黒い塊が見えていた。すでに胎児の頭は出ていた。 「…はっ、んんんっ、くぁっ…、はぁ、はっ、はっ、ぁんんんっッ…」 亜矢子はとても苦しそうだ。まるで大雨の中にいるかのように、汗だくになっている。 上下左右に体をよじりながら、しきりに痛みを逃がそうとはするが、正常な胎児ではない。腹中にいるのは、妖魔なのだ。 少しでも痛みが和らげばと、祈るような気持ちで白い腹をさする。すでに浴衣ははだけて、ほとんど床に落ちて、亜矢子の白い肌があらわになっていた。 「くそっ、変わってあげれれば…」 思わず本音が口に出る。私がもっとしっかりしてれば。私に宿せば、すぐに浄化できたのに…。 「…はぁっ、んんっ。あ、綾香さん。んあっ。だ、だいじょ…ぶ。予行演習になったと思えば」 驚いて亜矢子を見やると、微かに笑みが浮かんでいる。 私がしっかりしなきゃ。私は退魔士だもの。私しか、この妖魔を退治できないんだもの! <ふっ、いい心がけだな。その願い、叶えてやろう> 部屋中に、笑いを含んだ低い、野太い声が響く。綾香の頭の中に、3日前退治したはずの馬面のアヤカシの姿が浮かぶ。 「んんっ、ああぁっ…」 亜矢子のお腹がボコボコと波打ち、その姿を変える。 亜矢子の股間から、紅い煙が出たかと思うと、綾香に衝撃波が襲う。 とっさに、傍らに置いていた竹刀を手に取り、衝撃を防ごうとしたが、間に合わなかった。 何が起こったのか、わからなかったが、部屋の端まで吹っ飛び、一回転したようだ。 「主殿!」「大丈夫でしか!?」 式神たちが心配して駆け寄るのを手で制し、首を振り振り立ち上がる。 頭をあげてみると、亜矢子は既に死んだようにぐったりとなっている。 胸が上下しているので、死んでいるわけではなさそうだ。 腹部は、3日前運んできたぐらいまでしぼんでいる。 自分の腹部に妖気を感じたその時、 腹部に激痛が走った。この部屋に入ってきた時感じた激痛と同じ種類の痛みだった。 竹刀は、吹っ飛んだ時に掴めず、亜矢子のそばに転がっている。 何も縋る物が無いのでないので、ひざから崩れ落ちた。 そのまま気を失い、畳の上に転がり落ちた。 「主殿!」 フーランが急いで声をかける。 「ぐっ…ぐああっ…!」 そのまま、綾香のもとへ駆け寄ろうとした時、良子が獣のような咆哮を上げた。 その声は低く、まるで本当の獣のようだ。 メガネがキラリと光ったかと思うと、素早く腕を薙いだ。 式神二人がモロに腕を受け、部屋の反対側へ吹っ飛ぶ。 一方、あまりの激痛にひざから崩れ落ちた綾香は、夢を見ていた。 周りがモヤがかかっていて、はっきりしない。 狭い畳敷きの部屋で、いつか見た馬面のアヤカシと対峙していた。 「ほう。なかなか苦戦しているようだな。貴様なんぞに浄化される我ではないわ。お袋でも呼んでこい」 「何を!私だって…。お前なんか、簡単に徐霊できるわ。亜矢子さんだって、もうすぐ産まれそうだし」 思わずカッとなって、言い返してしまった。私でも徐霊してやる。 「確かに。力がみなぎるのを感じるぞ。今の我なら、貴様なぞ ひとたまりもないわ」 「こっちには強力な呪符があるんだから! 一発で徐霊してあげるわ!!」 右手のこぶしを突き上げる。勝算はあった。 「ふうん。頼もしいな。だが、我はまだ暴れ足りぬ。貴様はまだ我の掌の上で踊っているにすぎんわ」 馬面のアヤカシが言うや早いか、胸の高さまで上げた手を水平に薙いだ。 とっさに左足を引き、ガードの姿勢を取る。 ― ぐるぅん 「…ひっ、ひゃあぁあ…!」 思わず情けない声が漏れた。 恥ずかしさを隠すため、キッと睨め付けるが、馬面のアヤカシはニヤリと 口元に気味の悪い笑みを浮かべたままだ。 胃か、それとも腸か。内臓がぐるぅんと動いた気がした。いや、確かに動いた。 心臓も、トクトクトクトクッ…と早鐘のように、急に速いリズムで打ち始めた。 「くっ…!? ひゃあぁっ…!?」 すると、チクッとした痛みの後、腹部が急激に膨らみ始めた。 綾香の脳は急激な変化について行けないでいる。 ヘソの下あたり、丹田に両手を合わせ、力を入れる。 しかし、綾香の両手を押し出すように、腹部の膨らみは止まらない。 ― パシン! なおも膨らみ続けるお腹に耐えきれず、スカートのホックが音を立ててはじけ飛んだ。 ― プチプチプチッ… 制服のブラウスのボタンもはじけ飛んだ。 ブラウスの合間から、ブラウスよりも白い綾香の腹部があらわになる。 急激に膨らんだため、後ろに倒れそうになるが、かろうじて踏みとどまった。 踏みとどまったが、急に腹部がぐるぅんと動いたのを感じ取った瞬間、 またもや目の前が真っ暗になった。 意識が覚醒するにつれ、強い草の匂いが鼻腔をつく。 体中がチクチクする。どうやら、草原のようなところに倒れているようだ。 眼を開けてみると、草原というよりは、山の中のようだ。 視界には背の高い樹木が多数見える。 どこか懐かしい感じもする。 とりあえず、現状把握が最優先だ。 先ほどまで、狭い畳敷きの部屋で馬面のアヤカシと対峙していたはずだ。 体を起こそうとするが、お腹が大きくなっているので、体がすごく重い。 なんとか苦労して体を起してみると、目の前に実家である烏丸神社が見える。 そうか!裏山だ! 最近ではぜんぜん足を踏み入れてはいなかったが、 幼いころは、よくこの裏山で遊んでいた。 両親ともに忙しく、綾香の遊び相手は、境内にある仏像や裏山の自然だった。 境内にある仏像相手に家族ごっこをしたり、裏山を駆けまわったりした。 大人の目にはごく普通の裏山だったが、幼き綾香にとって裏山は、大自然であり、戦場だった。 暢気に草をはむ小動物達を敵に見立てて、覚えたての竹刀を振るった。 川で水を飲む動物達にちょっかいを出して遊んでいた。 最初は、すこしかすり傷をつける程度だったが、綾香の剣が上達するにつれ、 次第に動物たちに与えるダメージは大きくなっていった。 綾香の背より大きなイノシシでさえ斃されたこともあった。 「わかるか。今、貴様の腹の中にいるのは、貴様が斃した動物達だ。貴様を忌み嫌っておるわ」 どこからともなく馬面のアヤカシの、低く野太い声が響き渡る。 「ひゃあっ…、くっぅ…」 賛同するかのように、また腹部がぐるぅんと動いた。 痛みと驚きで、前かがみになり、両手を大きく膨らんでしまった腹部に 這わせる。 不意に殺気を感じ、顔を上げると、いつの間にか、多数の獣たちに囲まれていた。 どの個体も、殺気立っており、今にも飛びかかって来そうだ。 獣たちの中でも、ひと際大きい個体が すいと前へ進み出た。 「綾香よ。そこの神社の娘にして、退魔の者・綾香よ」 脳の中で、渋い老人の声が響く。 「我々は、分別の分からぬ幼きお主の事だと割り切って、耐え忍んできた…」 「だが。我を含め、ここにいるのは、すべてお主に殺された者たちじゃ」 しゃがれた老人の声の語気が強くなる。 「やはり、我々はお主を許す事が、出来ん!」 一歩前に進み出ている個体の啖呵を合図としたかのように、 四方八方から、獣たちの咆哮が綾香を襲った。 咆哮が風となり綾香を襲う。思わず眼を細める。 狭まった視界の先の、老人の声の個体の後ろに、馬面のアヤカシの姿が見てとれた。 そういえば、獣たちの目も正常な、理性を保った目ではない。 ―― そっか。操られているんだ。あのアヤカシに。 いくら操られているとはいえ、幼き自分が彼らを殺めてしまったことには変わりない。 いくら後悔しても、彼らの命は戻ることはないが、綾香は自責の念にかられていた。 「ごめんなさい…。いくら謝っても、謝りきれないわ…」 綾香はそう言って、頭を少し下げた。 本人的には、深々と頭を下げたつもりだったが、大きくなったお腹がつっかえて、少ししか頭が下がらなかった。 いくつかの個体は、綾香の涙ながらの謝罪を受けて、蒼く輝きながら空へと舞い上がっていった。 しかし、大多数の個体はそのまま、瞳に宿る憎しみの色はいくらか薄まったようにも見えるが、 依然として、綾香に牙を向けて、怒りの咆哮を止めてはいなかった。 「おい、おまえら。それっぽっちの涙と、偽りの謝罪で許したわけじゃないだろう」 馬面のアヤカシの目が妖しく光る。 頭を垂れ、まるで相談事でもするように互いの顔を見ていたケモノたちが、 そのアヤカシの一言で、再び瞳に怒りの炎を燃やし始めた。 双眸は怒りによって、爛々と輝き、口は張り裂けんばかりに開き、恨みの言葉を吐いている。 動物達の怨嗟の声と相まって遠くから、アヤカシの野太い哄笑の声が聞こえる。 「いやぁーーーーーーーーーーっ!」 怨嗟と哄笑は耳を塞ぎ、眼を瞑っても止むことはなく、むしろ強まっていくようだ。 ふと、なつかしいイ草の匂いを嗅いだ気がした。 身体が揺さぶられている感覚すらある。 「…はッ!」 夢を見ていたのか。かすかに茫洋とする頭を振る。 腹に激痛を感じた時から、さほど時間は経っていないように見える。 良子は気を失ったままだし、亜矢子は汗を吹き出しながら苦しみに喘いでいる。 起き上がろうとした時、グラッとバランスを崩した。 ヒザを付き、なにげに床を見ようとするが、床は見えない。 そうか。自分が斃した動物霊に憑依されたんだっけ。 「ごめんね…。本当にごめん…」 膝立ちのまま、お腹を撫でる。 動物霊によって大きく膨れたお腹は、制服を押しのけ、白い腹部を露出させていた。 その青白い腹部は、まるで氷のように冷たい。 いくつかの霊は、綾香を許してくれたらしく、青白い光となって飛び立っていった。 「…くっ、くはぁ…あッ…!」 しかし、長老や主だった動物たちの霊は許してはくれないようだ。 不満を表明するかのように、ぼこぼこと腹が波打った。 「許してとは言わない。でも、もうしないから…。もうちょっとだけおとなしくしてくれるかな。あとで話聞いたげるから」 なおもお腹を撫でさすりながら、声にならない声でつぶやく。 とりあえず今は、亜矢子に宿った馬面のアヤカシを退治するほうが先決だ。 「 と、その時。 自分のお腹に気を取られ、周囲に気を置くのを忘れていたせいで、気付くのが遅れた。 ゾクッと寒気がするような、妖気の風を感じる。 そのどす黒い妖気をまとって、良子が天井近くまで跳躍し襲い掛かってくるところだった。 竹刀や術符は亜矢子の側にあり、取りに戻っている時間はない。 どう応対しようか考えている時間もない。 とっさに足を出そうと構えようとしたが、大きなお腹のせいでバランスが取れず、よろけてしまった。 しかし、それが逆に良かったのかもしれない。 突き出した足の軌道は少しそれ、良子を直撃することはなかった。 しかし、日頃剣道で足腰を鍛えている綾香の蹴撃は良子を吹っ飛ばせるに充分だった。 良子は、元居た柱の方まで吹っ飛び、眼鏡が吹き飛んでいた。 柱に背中を大きく打ち付けたショックで陣痛が始まってしまったらしく、短く低く呻きながら、お腹の辺りを抑えている。 額からは大粒の汗が滝のように流れ落ち、服に大きなシミを作った。 シミは次第に大きくなり、良子が着ていたワンピースが濃い黄色に染まる。 ワンピースが体にピッタリと張り付き、痩せ型の良子の身体のラインをあわらにした。 綾香と違って、良子は普通の人間だ。 助けてやらなければ…。 良子の元へ駆け寄ろうとするが、低級霊たちがお腹の中で暴れて、痛みのためとお腹が重いせいで近づけない。 とりあえず、この子たちを先に何とかする必要があるわね。 四つん這いになりながら、亜矢子の元へと近づく。 亜矢子の側に転がっていた竹刀を杖代わりにして立ち上がり、散らばった術符を回収する。 その中のひとつ、アヤカシの動きを封じる術符を手に取り、スカートを捲り上げた下腹部に貼り付ける。 術符は結界の役目も果たす。 これで、綾香のお腹に宿った低級霊たちは動きを封じられ、お腹から出てこれないはずだった。 普通の低級霊たちだと成功していただろう。 しかし、彼らは馬面のアヤカシによって操られた存在である。 唯一の出口を封じられたこと、動きを制限されたことで、怒り心頭に達した彼らは、よりいっそう綾香のお腹の中で暴れた。 とっさの判断で、暴れだしたお腹を抑える。前かがみになったことで綾香のバランスは崩れ、手が竹刀から離れ、激痛のあまり転げまわった。 「…んッ、ふぁああ、んんん~…!」 綾香がその場に倒れこんだのとほぼ同時刻、 良子が本格的に産気づいた。息む度、股間からは緑色の球体と思しきモノが見え隠れしている。 良子の息む声に、式神たちが意識を取り戻した。 人間には低く呻く声も、ミニマムサイズの式神たちにとっては、飛行機が目の前を通り過ぎる爆音に等しい。 通常、チャンネルを合わせることで、爆音に等しい話し声も普通の大きさになって彼らに届いている。 意識を取り戻したフーランは、愛刀を杖代わりにして立ち上がり、周囲を見渡す。 主である綾香、最重要対象である亜矢子。自分を攻撃した良子の状態を確認していく。 傍らで相棒のフーチーも目を覚まし、頭を振ってフラフラと立ち上がったのを視界の隅に捉えた。 主殿の状態が最も気になるが、一番危険なのは良子殿だ。 そう判断したフーランは、良子の元へ駆け寄る。 すでにソフトボール大の球体を生み出していて、同じような色の球体が、今まさに良子の股間から生み出ようとすることろだった。 杖代わりにした愛刀を構え、球体を切っていく。 生み出ようとする球体を刺し、引きずり出してから、横薙ぎに切っていく。 ソフトボール大の球体からは、フーランたちと同じ大きさの赤ん坊が出てきた。 赤ん坊たちの周囲には緑色のどす黒い妖気がまとわりついて、気分が悪くなるほどだった。 その様子を見たフーチーが、綾香の近くにあった術符を持ってきて、赤ん坊に貼り付ける。 除霊された赤ん坊は、煙のように消え失せ、緑色の煙となって天空に昇っていった。 「よし、次は主殿だ。行くぞ、フーチー」 天空に昇っていった煙を見守っているフーチーに声を掛けてから、主である綾香の元へと駆け寄る。 「…んん。ぅッ…、はぁあんん…」 綾香の元へと駆け寄る途中、亜矢子が視界に入る。 いつの間にか気がついたらしい亜矢子は、先ほどの良子と同じく、お腹の辺りを抑え、苦しそうだ。 半分ほど出ていた胎児の頭は、すでに完全に露出しており、産まれ出るのはもうすぐのようだ。 歩を早め、綾香の元へと駆け寄る。 二人がかりで何とか綾香を介抱し、亜矢子が産気づき、出産が間近であることを知らせる。 綾香が亜矢子の元へ駆け寄った時、 式神たちが言うように、もうすぐ産まれそうだった。 頭は完全に出ているし、肩も半分ぐらいは見え隠れしている。 「…ッ、んん…。はぁ、ぁあ、は、ぅうんんんん~…!!」 ひときわ大きい陣痛の波が来て、亜矢子が産んだのは、馬面の少しい大きい赤ちゃんだった。 どす黒い妖気もない、すこし大きめなのと、顔が長いのを除けば普通の赤ちゃんといえる。 出産を終えた亜矢子のケアを式神たちに任せて、綾香は産まれた赤ちゃんに竹刀を振り下ろす。 術符によって光り輝く竹刀を赤ちゃんに振り下ろした瞬間、赤ちゃんは霧のように消え失せ、光の帯となって天空に昇っていった。 『あのぅ…。もう悪さしませんし、あなたを苦しませることもしないので、出してくれませんか』 三人がホッと一息ついた時、 綾香の腹から声が響いた。弱々しい、今にも消えてしまいそうなか細い声だ。 ギョッとして綾香の腹を見やる三人に、同意するかのように綾香の腹がポコンと波打った。 「あぁ。そうだったわね。本当に申し訳ないことをしたわね。私が天国に連れってあげる」 ポコンと波打った腹を愛おしげに撫でる。 馬面のアヤカシに操られていたとはいえ、幼少の頃何も知らなかったとはいえ、 綾香が裏山に棲む動物たちを苦しめ、斃したことに変わりはない。 天国に送ってやり、悪霊・アヤカシとなって人々を苦しませることが無いよう、導くのが今の綾香の務めだった。 スカートを捲り上げ、下腹部に貼っていた術符を剥がす。 すると、何かが出てきそうな気配がある。 汚い例えだが、大きめなウンチが出てきそうな気配だ。 軽く力を入れていきむと、イノシシの形をした緑色の煙が股間から生えてきた。 とっさの判断で、手を股間にやり支える。 低級霊たちはすでに霊体になっているので、立っている状態の綾香の股間から落ちたとしても怪我することはない。 しかし本能である母性が綾香にそうさせた。 綾香の「出産」は数分間続いた。 その数分間の間に、20体ほどの緑色の煙が天空に昇っていった。 緑色の煙が止むのを待って、綾香は押入れから布団を取り出した。 すでに夜は明けようとしている。窓からは、一日の始まりを告げる真っ赤な朝焼けの太陽の光が客間を照らしていた。 三人とも体力の消耗が激しいので、このまま客間で寝てしまおうと考えたのである。 布団を敷き終わり、亜矢子と良子を寝かしつけてから、綾香は違和感に気づいた。 アヤカシは全て退治した。浄化もした。けど、何か残っているような違和感―。 布団に横たわる二人の姿を見て、自分の体を見下ろしてやっと違和感の正体がわかった。 裏山に棲んでいた、綾香が斃してしまった動物霊たちを宿していた綾香のお腹は膨らんだままである。 馬面のアヤカシの核を出産し終えた亜矢子のお腹はまだ少し膨らんでいる。 半分実体のある赤ん坊として転生させた後、浄化したのだから当たり前だ。 通常の出産後も、すぐにお腹が元通りぺちゃんこになるわけではない。 伸びきった子宮やお腹の皮膚がすぐには元に戻らないからだ。 しかし、綾香も良子も霊体を孕んだのだから、実際に肉体に影響があったわけではない。 そのため、霊体を出産し終えた良子のお腹は、元通りぺちゃんこになっている。 同じく霊体を孕んだ綾香も元通りにならなくてはいけないはずなのだ。 しかし、綾香のお腹はちっとも変わらなく、未だに臨月の妊婦ぐらい膨らんでいる。 違和感の正体はわかったものの、こうなった原因がわからない。 大きく膨らんだままのお腹をさすりながら、四方に気を放って、原因を探る。 「儂じゃ。他のものに続いて出て行こうとしたのだが、つっかえてしまったようじゃ」 綾香の腹から、しゃがれた老人の声が響く。 この声は…? そうだ。夢の中で馬面のアヤカシに操られていた動物霊たち。その動物霊たちを束ねるひときわ大きい個体がいた。 たしか同じようなしゃがれた老人の声だった。 綾香の思いに同意するかのように、お腹がボコンと大きく波打った。 「そうだったのね。どうりでお腹が重いと思ったわ。よし、じゃあ、自分が小さくなってそこから出てくるイメージしてみて」 ようやく原因がわかってホッとした綾香は、落ち着かせるようにお腹を撫でる。 霊体となっている彼らは、自らの大きさに関係なく、壁をすり抜けたりできるはずなのだ。 おそらくこの個体は、長年裏山を護ってきたヌシのような存在なのだろう。 大きすぎる自分の身体のイメージを引きずったまま、途中で引っかかってしまったようだ。 「すまん。こうか…?」 「んん…。はぁ、そうよ。その調子ッ…。んんん~…、はぁあん、ぅんんんん……」 ズンと何か大きなものが降りてくる感覚がある。 かなり徳がある個体のようで、小さくするといっても、限度があるのだろう。 しかし今回は、途中で引っかかること無く、進んでいるらしい。 数分後、綾香はバスケットボール大の球体を生み出した。 光り輝くその宝珠は裏山のヌシが転生したもので、烏丸家代々に語り継がれることになるのは、まだまだ先の別のお話し。 end |