読みやすさを考慮し、改行を入れさせて頂きました。(熊猫)
私は20年程前出産した。それも不倫という形でできた子供だった。 18歳で知り合い、19歳で妊娠した。私の親兄弟はもちろん、彼も出産には猛反対だった。10歳年上の彼には妻子がいた。 でも、どうしても産みたかった私は言うことを聞かず、日に日にお腹は大きくなり臨月を迎えた。 そしてそんなある日、彼にドライブに誘われた。 車に乗り、数時間走った。そして、あるドライブインで彼はジュースを買ってきて私に奢ってくれた。 それから山道にさしかかった頃、私はその貰ったジュースを口にした。間もなくして、お腹がとても痛み出した。 「もしかすると陣痛?」 彼「君にあげたジュースの中に陣痛促進剤を少し混ぜた。悪いがもう二度と君に会うことはできない。ここで降りてくれ」 彼はそう言うと車を止め、車から降りると私を車から引きずりおろし、走り去ってしまった。 私は痛むお腹をこらえながら、辺りを見回し、休める場所を探した。 そして、数分先の山の中にモーテルのようなものを見つけた。 とりあえず私はそこで電話を借りようと思い、陣痛に耐えながら必死で歩いた。 やがて、モーテルのような建物の前まで辿りついたが、誰かいる気配はなさそうだ。 それもそのはず、表のところに 「昨日をもちまして閉店させていただきました」 という張り紙がはってあった。 しかし動くのも辛くなった私はモーテルに入り、座れる場所を探した。建物に入り、奥のベッドがある部屋へたどり着いた。 そして、痛みをこらえながら、ユニットバスやクローゼットなどを探し、 残っていたシーツやバスタオル、浴衣、運良く小さいハサミなども残っていた。 それらを全て出し、どんどん痛みが増す陣痛に耐え続けるしかなかった。 ベッドに横になり、必死で痛みをこらえていた。時間はまだ暗くはなっていない。 多分夕方4時くらいだろう。誰もいない部屋に私のいきむ声だけがこだまする。 「ああああああ、あああああ、いだだだだだだ、あああああうううううううう」 「いいいいいいいい、いだだだだだーあい、いつまでががるんだろういだだだだ」 数時間がたち、痛みも激しさを増す。また、外は真っ暗で余計に不安を掻き立てる。 「ウウウウウウウーン、うううううううううーん、いだーい、いだーい」 時々、自分のお尻に手をあてる。少しずつ赤ちゃんは下がっているようだが、まだ、出てくる気配はない。更に耐える。 「ああああああああああーん、ああああああああああーん、いたいよー」 もう、骨盤や背骨は割れそうなほど痛い。額からは大量の汗が噴き出し、股間も割れそうだ。 でも、誰もいなくて病院に行かれる状態でもない以上、耐え続けるしかないのだ。 やがて、全ての痛みと闘い続けている私の体はもうフラフラだ。眠くて仕方ない。 しかし、陣痛は容赦なく私を襲い続ける。 「ああああああん。ああああああああー、いたい、いたい、お尻が裂けそう」 赤ちゃんの頭が出たり入ったりの排臨をはじめていた。 骨盤の壊れそうな痛みに悲鳴をあげながら、朝を迎えようとしていた。 もうすぐ赤ちゃんの頭が出る。 そう感じた私はフラフラの体で急いでベッドの上にシーツを敷き、ベッドの端にしっかり掴まり、いきみ続けた。 「パシャ」 破水だ。そう感じた私はもう少しで赤ちゃんが出てくると感じ、全身の力を振り絞り、必死でいきむ。 間もなく、血液と共に、赤ちゃんの頭が排出された。お尻が割れる痛みに一瞬ひるむ。 しかし、負けてられない。自分のお尻は割れてもいい。でもこの子は産まなきゃ。そう思い耐える。 目からは大粒の涙が溢れ出る。 頭が出た。もう少し。次は体だ。 しかし、肩が引っかかり、なかなか出てきてくれない。 でも、負けられない。早くしなきゃ。赤ちゃんは無事に産まなきゃ。 もう必死だ。陣痛と共に、思いっきりいきむ。でもなかなか出てこない。それでもあきらめない。 陣痛のたびに何度も力強くいきむ。 「うーーーーーん、うーーーーーーん」 外はすっかり朝になっているようだ。そして、数十回目のいきみ 「ああああああああーん、あああああああああああああああああああーん」 で、ようやく赤ちゃんの体も滑り落ちた。フラフラのまま、赤ちゃんを少し揺らすと、 「オギャー、オギャー」 と泣き始めた。良かった。無事産まれてくれて。でも大変だったのはそれからだった。 赤ちゃんを浴衣やバスタオルなどでくるみ、寒くないようにした。 そこへ声がし、男の人(おじさん)が部屋に入ってきた。 子供を産んだばかりの私の姿を見て、ビックリしていた。そして、事情を聞かれた。 私は今まで起きたことを全て話し、 誰にも助けを求められなかったため、この閉店したモーテルをお借りし、密かに子供を産んだことを伝えた。 そして、この子だけは助けて欲しいと涙ながらに訴えた。 するとおじさんは一昨日までここの管理人の仕事をしていたのだが、 忘れ物をしたことを思い出し取りに来たのだが、私の姿を見たそうだ。 それからおじさんは 「この周辺は山間部だから病院はかなり遠いが、ここからもう少し上にあがったところに、 昔産婆さんをしていたばあさんがいるからその人を呼んでくる」 と言って、車で迎えに行ってくれました。 それから間もなく、元産婆さんらがきてくれて、ひとまず、モーテルから産婆さんの家に運ばれた。 子供はどうするか聞かれ、産まれたのは女の子だった。自分の手で育てたいと伝えたが、逆に産婆さんから説得された。 「あんたはまだ若い。これから先、いくらでもやり直せる。第一子供のことを考えてみなさい。 あんたの親兄弟からも望まれてなくて、不倫相手の男も逃げてしまい、 この子は父親のない子としてあんたに育てられ、これから先、ずっと寂しい思いをしなくてはいけないんだよ。 この近くの町に、子供ができなくて、欲しがっている夫婦がいる。子供をその人達に託したらどうかね。 産まれてきたことを望まれていないより、望まれている人に育ててもらった方が、子供の為だと思うから、よく考えなさい」 私自身、身を切られる思いだったが、今の私には経済力がないこと、確かに私の両親からは望まれていないこともあり、 子供を必要としてくれる人に託した。 それから1ヶ月間は泣きじゃくる日々だったが、 いつまでも泣いているわけにいかず、私は親元や私を棄てた男の元へは帰らず、どこに預けられたかはわからないが、 いつか子供に会える日を夢見て、その町からそう遠くない都市の町で必死で働き、 今では1つのホテルを任されるほどの女将となった。 そんなある日、あのような形で悲劇が繰り返されるようになるとは。 季節は梅雨だった。 その日も1日中雨で、夜中近くになり、ザーザーぶりの雨になった。 ホテルといってもそう大きくはないが、それでも従業員は雇用している。 この雨で、玄関マットが濡れてしまい、マットを交換しに外へ出た。 その時に何気なく、外を眺めたら、少し離れた所から人が歩いてくる。 こんな夜中に誰だろう。そう思った。 しばらく気になり、様子を見ていると、人影はゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。 段々、自分の視界に近づくに連れ、その人影の輪郭などがわかってくる。 どうやら女性のようだ。 お腹が大きく突き出しており、お腹をおさえフラフラしながら歩いてくる。妊娠中の体のようだ。 間もなくおぼつかない足でホテルへ到着する。 間近で見ると17~18歳くらいにみえる。 女性「こ、こんな夜中に突然ごめんなさい、陣痛が始まってしまったみたいで、救急車を呼んでもらえませんか?」 私「この辺りの産婦人科は閉鎖されてしまって、ここから車で3時間以上行ったところでないと病院はないの。 でも、ちょっと待っててね」 私は救急車を呼びに電話をかけた。 ところが、この大雨で、山崩れの危険があるため山道が閉鎖されてしまい、救急車が来られないとの返事だった。 女性は苦しそうだ。 道路が閉鎖されている以上、運ぶこともできず私は覚悟を迫られた。 まず、女性を自分の部屋に運び、 自宅出産の経験のある従業員と友人の看護師を呼んできてもらい、私の部屋で出産をさせることにした。 苦しそうな彼女には酷だったが、私はなぜ妊娠してしまったのか聞いた。 彼女は苦しそうにはあ、はあ、しながらも答えてくれた。 女性「私は来月20歳になるんです。○○村の出身で去年、大学の夏休みの時、両親の元に帰省した時、 近くの河原で遊んでいたら見知らぬ男に誘拐され、車で別荘まで連れて行かれ、 そこで暴行・監禁され、妊娠し、何度も逃げようとしたけど、その度に男に見つかり、逃げられなかったんだけど、 今日やっと隙をみて、山の中を隠れながら逃げていたら、ここのホテルがみえてホッとしたのもつかの間、 陣痛が始まってしまったようで、それで助けを求めたの」 彼女はやっとしゃべっている感じだった。陣痛の感覚が段々狭まってきているようだ。 「ああああああ、ああああああん」 いきむ声も段々、ヒートアップしてきている。時々、 「いたーい、いたーい、いたたたたたたた」 と苦痛に顔が歪む。看護師が子宮口を確認する。まだ、十分開いていない。 激しい痛みと闘っている彼女には酷だったが、これからのことも聞いてみた。 女性「こ、この子には罪はないから、実家へ帰ったら、大学は中退し、この子を育てます」と。 「うううううううううーう、うううううううう」 「いだーーーーーーーーーい、いだだだだだだーーーい、あああああああああーん」 いきむというよりももう悲鳴だ。20歳のまだ幼さが残っている彼女にこの痛みと闘えというのは無理なのか。 しかし、それでも彼女は歯を食いしばり、必死で痛みと闘っている。 「ああああああああああ、あああああああああははははあーん、うううううううううーん」 痛みの波と共にいきむ。 やがて数時間が経過し、子宮口は全開、それからしばらくして、 「バシャ」 と破水した。 さらに彼女は痛みと闘い続け、段々、赤ちゃんの頭が見え隠れしてきた。彼女は更にいきむ。 「うーん、うーん」 間もなく、赤ちゃんの頭が滑り出る。 相当痛いのだろう。彼女の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。それでも耐え抜く。やはり母の顔だ。 そして、間もなく赤ちゃんの体も滑り落ち、産声があがる。男の子だった。 しかし、彼女の出血がなかなか止まらず、産婦人科ではないが、近くの病院に運ばれ、輸血が必要だった。 同じA型の血液型の人間が何人か協力し、彼女は助かることができた。 あとで、その病院の先生に聞いたのだが、どうやら彼女と私の血液型やDNAなどは同じだったらしく、 彼女は20年前、私が産んだ子供のようだった。 今、彼女は親元へ帰り、働きながら子供を育てているという。 彼女を暴行した男は、その後、他の女性に対し暴行未遂で逮捕されたという。 それから数年後、風の便りで聞いたが、彼女は友人の紹介で男性と知り合い、子供を連れたまま結婚したそうだ。 彼女の人生が不幸にならなかったことが私の救いでもある。 |